方法51-4︰仲間がなに考えてるか解らん件について(溜め込みすぎないように)

「ちょっとあれどういうこと!?」


 ワタシは馬車へ乗るとヘゲちゃんに詰め寄った。


「そうですよ。いくらヘゲさんでも不用心じゃないですか?」


 サロエも同意する。


「あれ? 不用心? どういうことかしら?」

「ダンタリオンのところにワタシたちだけ残してくなんて、何かあったらどうすんの!」

「何もなかったでしょう?」

「そりゃあ、そうだけど……それは結果でしかなくて」


“いつだっておまえのことはオレが護ってやる”


 性格が変わったときのヘゲちゃんの言葉を思い出す。


「あのね。あなたには黙ってたけど、あれはベルゼブブ様と事前に打ち合わせてたとおりの流れなのよ」

「はあ? なんでそんな」

「あなたに言ったら、絶対ゴネるでしょう?」

「当たり前だよ!」

「だからそれが……っ。まったく。どうしてこんなの……」


 ヘゲちゃんは小声でボヤく。


「いい? 洞察力が壊死したようなあなたにも解るように言うけど、あの状況であなたに何かあれば、疑われるのはダンタリオンだけでしょ? そこで手を出してくるわけないじゃないの」

「じゃ、なんでわざわざあんなこと」

「それでも、よ。ダンタリオンがケムシャでもあるなら、あの場面で何かしてくるかもしれなかった。見込み違いだったけど」

「でも、なにかされてからじゃ──」

「あなたは安全だった。私が常時監視してること、忘れたの? それにサロエもいたじゃない」


 忘れたもなにも、常時監視再開してること知らなかったよ。ヘゲちゃんはあれなの? 自分が知ってることはワタシも知ってるとでも思ってんの? 一心同体、離れていても心は一つ的な? ……それだと体が一つなのか二つなのか。


 それにしても変だ。いくら常時監視もしてるからって、なにかあったときにサロエやヘゲちゃんの対応が間に合うって保証はない。なら、安全もクソもない。いつものヘゲちゃんのねちっこい性格なら、それくらい気が付きそうなのに。


「とにかく、次はタニアよ」


 さっきの件があるから、ヤな予感しかしない。


「ヘゲちゃん。ワタシは自分が安全だって思えない限り、絶対やらないからね」

「もちろん」


 ヘゲちゃんの案はシンブルだった。案ってほどでもない。

 なにかがあって、怒ったワタシが一人で家を飛び出す。そのまま適当に走ったあと、怒りを鎮めるような感じであたりをぶらつく。そんな小芝居。それだけだ。


「ベルトラとサロエは後からあなたを追って出るけど、もちろん見つけられない。といっても私はあなたを把握してるから、何かあればずくに行く」

「どうやって? 範囲制限あるじゃん」

「ミニチュア経由でいったん私は百頭宮に戻って、そこから監視する。これなら範囲制限は関係ない」

「でもそれ、ちっとも安全そうに聞こえないんだけど。タニアってアシェトさんと同じくらい強いんでしょ?」

「同じってほどじゃないわ。瞬殺できないだけで。それに、タニア本人が往来の中に出てくる可能性はまずない。さすがにザコを送り込むことはないでしょうけど、誰か別の悪魔が来るはずよ。それなら護衛が対処してるあいだに、私が来て取り押さえられる。そこから一気にタニアまでたどり着けはしないでしょうけど、糸口にはなるわ」

「もし護衛が対応できなくて、ヘゲちゃんも間に合わなかったら?」

「その可能性はいつだってあるのよ。私が隣にいても」

「けどヘゲちゃん、いつだって私のこと護ってくれるって」


 顔が熱くなる。そうだ。あれは性格変わってたときだから、言ってないようなものか。


「護ることと護りきることとは別よ。絶対安全なんて、あるわけないでしょう」


 ヘゲちゃんは言った言ってないみたいなことは流して、もっともな意見を口にした。

 ワタシは助けを求めてベルトラさんを見た。


「バビロニア滞在も残りは少ない。ここで決着つけるなら、ダメ元でも誘い出しを試すのは有効だろう」


 やっぱベルトラさん、ヘゲちゃんの肩を持つのか。そりゃそうだよな。上下関係絶対だもん。


「ですがヘゲさん。これはリスクが高すぎませんか?」


 絶対じゃなかった! 頼れるのは誰か? ベルトラさんでしょ!


「そういうことなら、私の魔法で幻像を走らせるのはどうですか? 妖精魔法ならそうそう見破られないと思うんですけど」


 サロエもいいねー。こう、フォローしてくれる仲間の心強さっていうの? ここへきてようやくワタシも王道の、仲間とともに勝利をつかむ系の流れに乗れたんじゃない!?


「ベルトラ。アガネアやサロエはともかく、あなたはこの計画のもう一つの趣旨を理解してくれると思ったのだけど?」


 なんか冷徹な声でヘゲちゃんが言った。


「もう一つの趣旨、ですか?」

「ヒントは、自分らしく、悪魔らしく」


 なんか難解なの来た! っていうか、それヒントじゃないでしょ。たぶん……文化祭か体育祭の副題かなんか。“きらめけ百頭魂”とか、“みんなはアシェトのために。アシェトはアシェトのために”みたいな。


 けど、どうしたことでしょう! ベルトラさんは何か答えにたどり着いたらしい。マジで? どうやって? あんなヒントで導き出せる答えとかあんの? 文化祭のポスターのデザインくらいじゃない?


「ヘゲさん。それ、本気ですか?」


 ものすごく真面目、というか怒りさえ感じるくらいの声だ。


「本気よ。アシェト様公認」


 その言い方、一気に冗談ぽく聞こえるんだけど。


「ですが!」

「判断は私に一任されてる」

「なら、なおさら……」

「どうしてそう思うの?」

「どうしてって、ヘゲさんは──」

「あのぉ。私とガネ様、置いてけぼりなんですけど」


 さすがサロエ! まったく空気読めてないけど、まさにそれな。


「サロエ。今はガマンしてちょうだい。いつか、ね?」

「そうだぞ。大人になればいずれ解る」


 なにその優しさ。子供じゃないんだし。


「うーん。そうですか……」

「いやいやいや。サロエあんた今いくつよ!? そんなことで納得しない! あと、ワタシはどうなの。無関係ってわけじゃないんだから、教えてもらうのがスジってもんでしょ」

「残念だけどアガネア。これはタニアとアシェト様の因縁にまつわる話。あなたとは関係ないの。それこそ、私の一存では明かせないわ」

「ホントにぃ? 適当なこと言ってごまかそうとしてない?」

「アガネア。知らないほうがいいことだって、当然あるんだ」


 厳しい調子でベルトラさんが言う。でもさぁ……。


 ああ、まあ、いいや。気持ちが急速に醒めてくのを感じながら思う。


 ヘゲちゃんはアシェトに何か指示されて、ワタシに言えないことをしようとしてる。ワタシを使って。ベルトラさんは立場上、それに乗っかった。

 考えてみればそんな状況でワタシにできることなんてない。言われたとおりにする以外。


 そもそもヘゲちゃんにベルトラさん、アシェトはワタシが死んだら身の破滅ってのを避けるためにアレコレしてくれてる。それ以外の何かもあるだろうけど、基盤になってるのはこの損得だ。

 だから他にもなにかがあれば、当然ワタシを危険に晒すリスクを取る方へ、損得の秤はかたむく。たぶんこれは、そういうことなんだ。


「解った。やる。やるよ。今、すぐ。どうなっても知らないからね」


 ワタシはそう言うとヤニスに声をかけて馬車を停めさせ、一人で外へ出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る