方法51-3︰仲間がなに考えてるか解らん件について(溜め込みすぎないように)
受付でダンタリオンに会いに来たことを告げると、ワタシたちは応接室に案内された。
「やあ。もう来てくれないんじゃないかと思ったよ」
ダンタリオンはいつもの爽やかな笑顔で言うと、歓迎するように両手を広げた。
「もっと早く伺いたかったのですけど、ようやくスケジュールの調整ができました。お会いするのは、初日のレセプション以来ですね」
「ああ。僕はあまりパーティーなんかが得意じゃなくてね。ああいうのってほら、だいたい退屈だろ」
「あれは楽しみというより政治ですから」
「なら、なおさら僕には無縁だ。でも先日の使い魔学会の授賞式には行ってみたかったな。新聞で読んだよ。僕もその場で中継を見てみたかった。なのに、そういうのに限って招待されてないんだ」
なんだろう。この普通な感じ。とてもじゃないけどケムシャとしてワタシを攫おうとした悪魔とは思えない。ひょっとしてケムシャ、ダンタリオンじゃないとか? いやでも、これくらいの演技なんて簡単か。
そこから話はあのときのことに。ベルトラさんがサロエで使い魔をぶん殴ったところで、ダンタリオンは大笑いしてた。
「いやあ。機転が利くっていうのは、まさにこのことだね」
まだ笑いに肩を震わせながら、ダンタリオンは言った。
「それにしても、さすがは百頭宮だ。人材が揃ってる。あの使い魔たちは学会が政府に売り込もうとしてたんだよ。特に最後のやつは学会が総力を挙げて造った、史上最強って触れ込みだったんだけど……どうやら実用化はまだ先になりそうだ」
そんな感じで、なごやかな会話が続いた。他にも食べ歩きの話とかムック本の密着取材裏話とか。ダンタリオンはなかなかの聞き上手だった。
「失礼します」
悪魔が一人入ってきた。
「ベルゼブブ様が急用で、少し早いですがこれから来られないか、と仰せです」
「ベルゼブブ様?」
ダンタリオンが聞き返す。
「このあと、ベルゼブブ様のところへご挨拶に行く予定なんです。私が百頭宮へ戻っていましたから、アシェト様の近況が聞きたいとのことです。ルシファー様はなにやらお忙しいそうで、予定が合いませんでした」
ヘゲちゃんが説明する。
「そうか。てっきり僕は、ベルゼブブ様が僕の様子を知りたがってるのかと思った。しばらく会ってないからね」
「なぜあなたの様子を?」
「あの方はどうも、僕を疑ってるフシがある。他の悪魔とは根本的に違うからね。胡散臭く思われるのはしかたないさ」
ダンタリオンは寂しそうに微笑むと肩をすくめた。
「それでは失礼して、私とベルトラはベルゼブブ様のところへ行ってまいります。終わったら戻りますので」
ワタシは驚いてヘゲちゃんを見ようとして、どうにかこらえた。ダンタリオンのとこにワタシとサロエを残してくって、ヘゲちゃん本気なの!?
「アガネア君とサロエ君はいいのかい?」
「ええ。仕方なかったとはいえいくつか公式行事に参加できなかったことのお詫びと、アシェト様の近況報告ですので。共としてベルトラがいれば失礼ではないでしょう」
「まあ、僕は構わないけど……」
こうしてヘゲちゃんたちは本当に部屋を出ていってしまった。
ワタシは膨れあがる不安を押し込めるので精一杯。サロエもいざとなれば自分一人でワタシを守らなきゃならないからか、心配そうだ。
「さて」
ダンタリオンは笑みを浮かべると足を組み替えた。
「天使たちに会ったそうだね。彼らはどうだった?」
「どうって」
「職業柄、僕は誰がどんな人物なのかに興味がある。天使は悪魔大鑑に載らないし、僕は大使と接点がない。そもそも、大使と接触する悪魔は限られてるからね。もちろん今の大使についても会った悪魔からヒアリングはしてるんだけど、キミのユニークな視点からも話を聞いてみたい」
“ユニーク”という言葉を強調する喋り方がケムシャに似てるような気がしたのは、先入観のせいだろうか。
とにかく、いきなり襲われたりしなかったのでひと安心。
ワタシは天使について、会ったときの様子や感じたことを正直に話した。全裸のインパクトや、あの二人が見た目より頭のキレること。聞いていたイメージよりもずっと親しみやすいこと、などなど。
ダンタリオンはワタシが悪魔じゃないって知ってるし、たぶん人間だってことも知ってる。ヘタなウソでボロが出ても困るし、そもそも天使についてはウソをつく必要がない気がした。
「やっぱりキミは面白い。天使が悩み相談を受けていることは知ってたけど、キミみたいに考えたことはなかったな。悪魔ならみんな、天使を悩ませたいと思ってるからね。上手く方向づけてやれば、相談者が大挙して大使館に押し寄せるだろう」
「特に今はかなり困ると思いますよ。いや、逆かな。ロムスは喜ぶかも」
「どういうことだい?」
「なんだか頭の痛い問題があるとか言ってました。中身は聞いてませんけど」
「それは……興味深いね。けど、心配だな。天使は僕らに対して、何か重大な疑念を抱いてるのかもしれない。もしそうなら大変だ。このことは誰か中央の悪魔に報告したかい?」
「いえ。マズかったですか?」
「いや。もし天使が疑ってるなら、自分たちで何か言うだろう」
天使たちが大量失踪事件について問い合わせてることは知ってるけど、ワタシは何も知らないふりをした。ひょっとしたらダンタリオンもそんなことは知ってるのかもしれない。
というか、知ってるな。うん。たしか最初に失踪に気づいたのって、人別局の職員だったはず。
それから少しして、ヘゲちゃんたちが戻ってきた。時間もちょうどよかったから、ワタシたちはダンタリオンのところを後にした。
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