方法50-3:呪いなしではいられない(借りれる力は借りましょう)

「ベルトラさんたちはここで待っていてください。二人がいないと何もできないワタシですけど、サロエの主人としてせめて一つくらいは自力で成し遂げたいんです」


 ワタシは最高のキメ顔で言った。

 相談ウェルカムな相手を頼りに行くだけなんだけど、言っちゃいけないことの線引きができる二人に同行されると、決壊したダムのように全力で頼りにくいからね。


「アガネア……。おまえ、成長したなぁ」

「私としても、そうしていただけるとありがたいですね。やはり、天使と会うのはどうも抵抗が……」


 驚いたように言うベルトラさんと、気まずそうに言うメフメト。

 よし、成功! ここまで思いどおりになるなんて。今日のワタシはまるで雲量ゼロの青空のよう。なんて浮かれてポエムも飛び出すくらいだ。“雲ひとつない”とか言っちゃわないあたりに詩人としての才能を感じる。


 出迎えてくれたのは、女天使のハイムだけだった。相変わらずナチュラルに全裸だ。

 案内されたのは前と同じ部屋。こちらも全裸の男天使、ロムスがテーブルにだらしなく突っ伏してる。


「あの、ロムスさんはこれ?」

「気にしてはいけません」


 すると、ロムスが顔をこっちに向けた。


「ちょっと厄介な話になってきてて、頭痛いんだ」

「はあ。よく解りませんけど、それは大変ですね」


 というか、ハイムがロムスのことメッチャ怖い顔でにらんでるから、あとで大変なことになると思う。

 今の、なんか言っちゃいけないことだったんじゃなかろうか。ワタシも口封じで消されたりしないよね?


「それで、今日はどうしましたか?」


 ハイムは暖かい微笑みを浮かべる。さっきまでの顔見た後だと、裏があるようにしか思えない。


「じつは、相談がありまして」

「えっ!? ホントに来たの!?」


 よっぽどビックリしたみたいで、口調が素になってる。ロムスも体を起こして、信じられないものを見たって顔してる。


「ひょっとして社交辞令でしたか? ホントは来ちゃダメだったとか?」

「いえいえいえいえ。そんなことはありません。ただ、実際に悪魔が相談に来ることはめったにありませんから。さあ、お座りなさい」


 ものすごい力で肩をつかまれると、椅子に座らされた。絶対に逃さないって強い意志を感じる。相談受けた回数が査定にでも影響すんのかな。


「それで、相談というのは?」


 ロムスの隣に座ったハイムが尋ねる。


「呪われたアイテムの需要を生み出してほしいんですけど」


 まずはざっくり丸投げしてみる。


「呪われたアイテム、ですか?」

「呪物です」

「おお! あれか」


 ロムスが手をたたく。


「悪魔が人界に行くとき、土産に持ってくやつだな」


 まあ、そういう見方もできる。


「しっかし、需要の創出なんて無理だろ。相談って範囲を超えてる。なんでも相談してくれとは言ったが、なんでもやる、解決するとは言ってない」


 やっぱだめか。アシェトとヘゲちゃんなら“解りました”の一言で、あとはヘゲちゃんがよろしくやってくれるのに。


「じゃあ、方法を考えるの手伝ってもらえませんか? ほら、天使ならではの視点とかでアイディアもらえれば」

「案出しにつきあうくらいなら」

「いえ、その相談は受けられません。あなたが言っていることは、間接的にであれ、呪いを推奨するようなもの。天使としてそんなことには関われません。あなたもそんな罪深いことはやめなさい」

「へぇ……。なんでも相談してってのは嘘だったんですね。他にどうしょうもないからって、いろいろ天使に思うところはあるけど、その気持ちは噛み殺して、世間体なんかもリスクにさらして来てみればその対応。初めてお二人に会って、聞いてたより天使ってヒドくないなって思ってたのに。やっぱみんなの評判は間違ってなかったんですね。ちなみにお二人の上司はどなたですか? この残念な気持ちをぜひ直接お伝えしたいんですけれどもー」


 言葉に詰まるハイム。どうよこの鮮やかなゴネっぷり。やっぱり今日のワタシは冴えてる。


「おいおいハイム。それは間違いだ。いや、理由はちゃんと話すからさあ。ちょっと聞けよ。あのな、呪物ってのは相手を呪う道具だろ。その需要を作りたいってことは、いま悪魔が他人を呪う需要はないってことになる。つまり、それ以外の用途を考え出さなきゃならない。なら、呪物を通して悪魔を教導できるような用途を考えてやればいいだろ。だいたい俺は少しでもあの頭の痛い問題と向き合わなくて済むんなら、なんだってやるぞ」


 ハイムは歯を食いしばり、机のフチを両手でつかみ、肘を開いてる。言い返せなくて悔しいみたいなんだけど、そうしてると無防備にさらされた脇から胸のあたりがなんともエロい。それは良いものだからまあいいとして、ここはもうひと押し。


「そうです。攻撃のための呪いの道具。そんな案じゃむしろダメなんです! そうでなければどんな方向性だろうと、このさい構いません」


 この二人、私を丸め込もうとしてる!? 悔しいっ! でも、丸め込まれちゃう……。そんな表情を浮かべるハイム、いいよいいよー。けっこう満足したし、今日はもうこれで帰ってもいいくらいの気分。

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