方法50-4:呪いなしではいられない(借りれる力は借りましょう)

 やがて、ハイムは力を抜くと大きく息を吐いた。脇が閉まる。


「解りました。相談を受けましょう。けどロムシエルさん。これって後から天界で問題になったりしませんよね?」

「いま受けるって言ったから答えるけど、問題にはなるかも」

「じゃダメじゃないですか!」


 立ち上がるハイム。


「バレなきゃ大丈夫だって。それに、問題になってもギリギリグレーゾーンだから」

「天使なんだからそれもうアウトですって!」

「いやいや。粘ればアイツらもどっかで追及できなくなるから。執行猶予になれば実害ないから。よくあるよくある」


 オッサン、そういう考えだから魔界に左遷されたんじゃ?


 とにかくこれで、ようやくスタートラインに立てた。


「それで、悪魔が悪魔に呪物を使わないのはなんでなんだ?」

「呪物って、悪魔が触ると独特の刺激があって、すぐ解るんです。それにもし呪われても、悪魔ならあっさり解呪できるんで」

「つまり使えないってことか。で、おおかたあれだろ? サロエのアクセサリーをうっかり全損したとかで、代わりを探してるんだろ?」


 ワタシたちのことは事前に調べたって言ってたけど、ここまでの話だけでそこまで読み取るとか。


「そうなんです。けど、元呪物屋が売ってくれなくて──」


 ワタシはジェラドリウスのところであったことを話した。


「なるほどね……。たぶんそれ、あんたが需要を生み出さなくてもいいと思うけどなぁ」

「そうなんですか?」

「商人ってのは実際に需要が出来上がってなくても、そこに金儲けのチャンスがあると思えば放っておかない。だからあんたがいかにも儲かりそうなシナリオを考えてやれば、ジェラドリウスとかいうのは必ず乗ってくるはずだ」


 ええっと、つまりそれって。


「ブームになってなくても、流行りそうだって思わせられればいいってことですか?」

「ま、そういうことだ。どうせあんたらはそいつから呪われたアクセサリーが買えればいいんだろ? だったらジェラドリウスが呪物屋を再開したあとで、読みどおりにブームが来なくったって構わないじゃないか」


 ロムス、いい悪魔になれそうだなあ。


「ロムスさん。それじゃあんまり無責任じゃないですか。騙すようなものなんですから」


 真面目なハイムがとがめる。


「そりゃ間違いだ」

「そうですよ。ワタシたち悪魔は騙し騙されるのを前提にしてるんですから、騙したところでそれが普通です」


 ホントはそんな単純なことじゃないけど、ハイムにゴチャゴチャ言われると面倒だ。


「こういうときはまず、いろんなものを逆に考えてみるんだ。たとえば、呪物は相手に使うものだろ? その逆ってことは、自分に使う。どうすれば自分に呪物を使おうなんて考えるようになるんだろうな?」

「うーん。さっぱりです。サロエはすごくいいアクセサリーでも呪物なら安いからって言ってましたけど」

「じゃあ、呪物だから身につけてたってわけじゃないのか……」

「そもそも呪物はアクセサリーだけじゃないですしね。効果もいろいろありますし」


 ワタシたちの会話を見ていたハイムが口を開く。


「呪いの逆は祝福ですよね? 呪いを祝福に変えられれば……」

「あ、ハイムさんも考えてくれるんですね」

「相談を受けると言った以上は当然です」


 やっぱ真面目だなあ。


「悪魔が祝福されたらダメージ受けるぞ。そもそも呪いを祝福に変えるのは難しい。けど、いいじゃないか。その調子だ。こういうのはとにかく質より数を出すことが大事だからな」


 そんなわけでワタシたちは“逆に考える”をあれこれやってみた。けど、いまいち使えそうな案は出ない。


「じゃあ今度はみんなが欲しがるってのはどういうことか、って線で考えてみるか」

「どういうことなんでしょうね?」

「うーん。俺たちは物を欲しがるって感覚がないからなあ。そこはむしろ悪魔のほうが何か思いつくんじゃないか? どうだ、アガネア」

「必要ないから需要がないわけで……。あとは持ってると自慢できるとか、なんか欲しくなるとか、楽しめるからとか、話題だから、とか」

「呪物に当てはまりそうなのはあるか?」

「今のままじゃ物としての魅力はたいしてないですし、話題でもないし、持ってたところで自慢にもならないし」


 ワタシたちはしばらく、呪物が欲しがられるものになるにはどうすればいいかを考えてみた。けど、出てくるアイディアは時間も手間も掛かりそうだし、難易度も高そうなものばかりだった。ってかこれは、さすがに呪物業界の悪魔が考えるような話だと思う。

 ただ、今ある呪物に新しい見方とか価値を与える方向じゃないとダメだろうってことは解った。


「今ある……。呪いそのものはどうでしょうか? これって相手を不幸にする、苦しめるものですよね。これをどうにかして──」


 ハイムが言ったそのとき。


「それだ!」


 ロムスが叫んだ。


「「それってどれですか?」」


 ワタシとハイムがハモる。


「だから、つまりだな──」


 ロムスはワタシたちに自信たっぷりな笑みを向け、語りはじめた。

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