方法50-2:呪いなしではいられない(借りれる力は借りましょう)

 ジェラドリウスはミイラ一歩手前の半魚人って感じの見た目で、ワタシとデザインは違うけど作業着を来てる。たぶん同じメーカー。っていうか、魔界で作業着を作ってるのってあそこしかないっぽい。


「私になんの用だい?」


 ジェラドリウスの声はカスッカスにかすれてて、男か女かも判らない。


「ローザリーンドの紹介で、相談に来ました」

「彼女か。それで、どんなものを探している」

「じつは、呪物を探してます」

「呪物? はっ!」


 ジェラドリウスは馬鹿にしたような声を出すと、風が吹くような音を立てた。どうも笑ってるっぽい。


「それで、どんなものが欲しいんだ。最適な職人を紹介してやってもいい。紹介料はもらうがな」

「オーダーメイドじゃなくて、在庫があればと思って」

「あたしらはアクセサリーを探してる。身につけると外せなくなって、運が悪くなるようなやつだ」


 ベルトラさんが補足する。


「そんなオモチャ、どうしようってんだい」

「在庫はあるんですか?」


 なによりもそこ重要。


「あるさ。呪物ならなんだってある。が、売る気はないね」

「たしかに、どこの誰とも知れず、そんなものを買いたがる相手には売れないですよね」

「いや、そうじゃない。ウチは呪物屋じゃないんでね」

「でも、在庫はあるって」

「そりゃあ、もったいないから残してはある。傷むものじゃないし、いつかまた開業できるかもしれないからな。けど、今のウチは専門性の高い特殊工具店。それが金になるからって、畑違いの商品を売るわけにはいかない」

「でも、もともとは呪物も専門だったんですよね?」

「もちろん。でも、廃業したから今は違う」


 うーおー。面倒くせえなコイツ。偏屈ってそういうことか。たぶんプライドとかこだわりとか美学とか、そういうアレ的なアレなんでしょ? 知るかよ誰得だよ。


「じゃあ、タダでください」

「馬鹿言うな。仕入れはタダじゃないんだぞ。そもそもお前はにとってそれは、1ソウルチップの価値もないものなのか。違うだろ」


 うっわ殴りてー。


「じゃあ、どうすればいいんですか!」


 思わず声が大きくなる。


「単純なことだ。私が呪物屋を再開する気になれればいい」

「それはまた……。無茶を言いますね。つまり、呪物屋を再開するメリットを作れということでしょう?」

「そうなるな」


 メフメトの言葉にジェラドリウスは同意する。ダメだこの一夜干し。売る気なんかこれっぽっちもないわ。けど、ここで諦めるわけにもいかない。どこか他の街で在庫をまだ持ってる呪物屋が見つかる保証はないし、なによりコイツのアホみたいなこだわりに負けたくない。


「解りました。少し考えさせてください」

「ああ。名案があればいつでも来るといい」


 こうしてワタシたちは、手ぶらでジェラドリウスのところを後にした。



 帰りの馬車でのこと。


「なんで呪物屋ってのはどいつもこいつもああなんだ!」

「やはり呪いに関わっていると人格が歪むんじゃないですか」

「で、アガネア。なにかアイデアでもあるのか?」


 それな。アシェトさんが出向いて頼めばさすがにジェラドリウスも折れると思うけど、ワタシとサロエの問題なわけだし、無償で動いてくれる可能性は低い。

 リレドさんに頼んでもらうって手もあるけど、それなら最初のプランと似たようなものだし、そもそもアシェトさんほど成功の見込みがない。魔界の序列的に。


「最悪、多少のリスクを負う気があるんでしたら私が盗み出すこともできますが」


 ワタシが答えないでいると、メフメトがそう言ってくれた。


「それはありがたいけど、できれば最後の手段にしたいかな」


 そう言いながら、他に頼れそうな悪魔がいないか考える。自力解決? なにそれ?


 ルシファーやベルゼブブ、もたぶんダメだろうなあ。えーと他には……。ああ、いる。いるわ。モロに頼ってくれって言ってたのが。

 ワタシは御者台との仕切り窓を開けると、ヤニスに声をかけた。

「あのさ。悪いんだけど天使のとこに行ってくれない?」


 そう。天使だ。たしか困ったときは相談に乗ってくれるって言ってた。それはまさに今・オブ・ザ・今。

 ヤニスは少しだけ迷ってから、馬車の方向を変えた。 


「おい、まさかおまえ」


 ベルトラさんが腰を浮かせる。メフメトも目を細めた。


「アガネア様。まさか天使に頼るおつもりですか?」

「そうじゃない」

「なら、なぜ天使なんかのところへ?」

「頼るとか、助けてもらうわけじゃない。こう考えてみて。天使に悪魔の手伝いをさせるんだ、って。そんな機会、他にある?」


 二人は驚いたみたいだった。


「……そう聞くと、なんだかこき使ってやりたくなりますね」

「でしょう? 天使なんて無理難題を押し付けて使い潰しちゃえばいいんだよ」

「たしかに、通常ならあり得ない状況だな」


 これこそ、前回みんなから非難されたワタシが考えに考えて編み出した秘策。他人に頼るための労力は惜しみません! あとよろーっ!


 こうしてワタシはそれ以上責められることもなく天使のところへ到着した。

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