方法49-6︰使い魔学会へようこそ!(適材適所を心がけて)
そんなわけで部屋を出たワタシたちは、ロクに探索もできないまま建物の奥を目指す。一番奥のひときわ大きな部屋。そこがたぶんゴールだ。
使い魔はそこら中をうろついてた。一度なんて二人が応戦してるときにワタシの目の前のドアからいきなり使い魔が飛び出してきて、貴重な身代わり札を二枚も消費するハメになった。合わせて約89ソウルズ。
賞金300ソウルズもらって四人で割ると一人75だから、すでに14ソウルズも赤字やんけおいぃ。
それはさておき。いやよくないんだけど、とにかく。
囲まれなければどうにかなるってベルトラさんもメフメトも言ってたけど、それでも酸を浴び、ファイアブレスを受け、接近戦でいくつもの傷を負わされていた。
ベルトラさんは見ていて判るくらいのスピードで傷が治っていく。けど、メフメトは違った。
「私が押し込み強盗に手を出さなかった理由の一つがこれです。治癒速度が充分ではない」
メフメトはそう言って肩をすくめると、角を曲がってきた五体の使い魔に向ってダッシュしていった。
それからしばらくして。とうとうワタシたちは奥の部屋にたどり着いた。中へ入ると背後で分厚い鉄扉が勝手に閉まる。
部屋は広く、天井が高く、ガランとしていてバス・トイレなし、ボス付。
そう。その部屋にはいかにもボスキャラでございといったふうな使い魔がいた。
「使い魔?」
「いいかげん感覚が麻痺してますが、あれも使い魔とは」
「ミーマンのトロールに似てますよ、あれ」
「誰が造ったのか知らないが、力作だな」
そこにいたのは全身を筋肉に覆われた巨人だった。身長は5メートルくらいありそう。
腕は四本。上段の二本は太い鉄鎖を持ち、下段の二本はグリップのついた鉄製の角柱を持っている。
頭には顔が三つ。それぞれ単眼で、うち二つは左右の斜め前方向き、残り一つは後頭部についてる。つまりはトライアングル状の配置だ。
「ぐぉ、あっ!」
使い魔は短く叫ぶと、猛スピードでこちらへ駆け寄ってきた。
「ちょっと失礼」
メフメトはそう言うとサロエを抱えあげ、部屋の対角線めがけてぶん投げた。
「あわーっ!?」
叫ぶサロエを使い魔が目で追い、弧を描いて走る軌道をそちらへ変更した。あー、そうか。呪いのアクセサリーね。
サロエは宙で身をひねると態勢を立て直し、うまく着地。そして──。
「ガネ様ーっ!」
半泣きになりながら、使い魔を迂回しつつこっちへ走りだした。
「バカサロエ! ちょっ、こっち来んな!」
ワタシはサロエから離れようとダッシュする。
メフメトが使い魔めがけてどこからか取り出したナタを投げつける。高速で回転しながら頭部を狙ったそれは、けれど鉄柱であっさり弾かれた。
「まあ、そうなりますよね」
メフメトの冷静な声。
「おわあっ!」
弾かれたナタがワタシのすぐそばをかすめた。
そのタイミングでベルトラさんが右側面から使い魔との距離を詰めようとする。
「がァっ!」
使い魔は右手の鉄鎖を横なぎに払う。ベルトラさんはうつ伏せにスライディング。その頭上を鎖が通過すると勢いが消える前に手をついて立ち上がり、さらに接近する。
そして気合とともに戦斧を振りかぶった。狙いは鎖をふるって伸び切った上段の右腕。
使い魔は右下段の鉄柱で防ごうとして──。
「あーっ!」
目の前を横切ったサロエに一瞬、気がそれる。どうやらいつの間にかメフメトがサロエをとっ捕まえて投げたらしい。
「がっ!」
戦斧が右上段の腕に半ば以上まで食い込む。そのままベルトラさんが食い込んだ戦斧を捨ててその腕にしがみつくのと、苦しまぎれに使い魔が右下段の鉄柱をスイングするのとが同時だった。
「────っ!」
鉄柱の直撃を受けたベルトラさんが壁まで吹っ飛ばされる。その手には使い魔の上段右腕が握られていた。自分が吹き飛ばされた勢いで使い魔の腕をもぎ取ったらしい。
苦痛にのたうつ使い魔。腕からは血の代わりに黒い霧が吹き出してる。
一方のベルトラさんも腰のあたりが平たくなってて、口から血をガボガボ吐きながら気を失ってる。
「サロエ!」
ワタシは抱きしめるように両腕を広げて立つ。
「ガネ様! 怖かったですよー」
走ってくるサロエ。その進路と直交する軌道で走ってきたメフメトが、すれ違いざまサロエを捕まえ、そのまま肩にかついで走り去る。よし、計算どおり。
メフメトはどこからか装填ずみのクロスボウを取り出すと、使い魔めがけて撃った。その目の一つに矢が突き立つ。
「大丈夫ですか!?」
ワタシはベルトラさんに駆け寄った。口からの血は止まってるけど、呼吸のたびにゴボゴボって音が漏れてる。ただ、その音もだんだん小さくなってるようで……。回復してる、の?
ワタシは使い魔をチラリと見た。目に刺さった矢は引き抜いたみたいだけど、激痛に膝をつき、苦しんでる。
メフメトは次の矢をセットしようとして、かついだサロエが邪魔になったみたい。
「サロエさん。私が呼んだら戻ってきてください」
そんな無茶を言ってサロエをリリースした。それからあらためて矢をセットしようとして、止まった。
「そんな」
ワタシも同じものを見て思わず呟いた。
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