方法49-2︰使い魔学会へようこそ!(適材適所を心がけて)
ヘゲちゃんが消えてから四日が経った。そのあいだにワタシたちは晩餐会一回と園遊会一回に参加した。
どちらもワタシにとっては退屈だったけど、トラブルは起きなかった。
食べ歩きと観光には出かけた。あんまり気乗りしなかったけど、屋敷でじっとしてるよりは気が紛れるだろうってことで。
ただベルトラさんとメスラニが相談して、警備のしにくいところは外された。
メスラニは不思議な悪魔だった。こちらから話しかければ普通に喋るけど、それ以外はずっと黙ってる。それどころか歩いたり食べたりしてないときはピクリとも動かない。
かと思うと急にどこからか大きな紙を取り出して、おそろしく手のこんだ立体的な幾何学模様やドラゴンなんかを折ったりする。
完成するとしばらく眺めてから、またどこかにしまう。
今も居間でワタシたちが休んでいる横で、メスラニはなにか折ってる。ねじれた三日月みたいな形が小さくなりながら繰り返され、巻き貝みたいに上へ伸びていくやつだ。
「折り紙、趣味なの?」
「趣味。まあ、そうですね。私はかつて、創設期のピタゴラス教団にいたんです。純粋にその思想に共感し、人間のふりをして。ピタゴラス本人から教えを受けていたんですよ」
「? ああ、なるほど……」
さっぱり解らん。なんとなく聞き憶えがあるけど、なんの人だっけ。例のスイッチとは関係なかった気がするけど、ひょっとしたら世界で最初にああいうの作った人だったかも。
というか、それと折り紙になんの関係が?
「ベルトラさん。メスラニさんってどれくらい強いんですか?」
ワタシはふと不安になって小声で尋ねる。
「あたしよりは強いぞ」
「私の話ですか?」
かなり小声だったのに、聞きつけたメスラニが言う。そのあいだも紙を折る手は止まらない。
「そうです。メスラニさん、あたしよりも強くて、隠密行動得意ですよね」
「それなりには」
「メスラニさん、もともとは凄腕の盗賊だったんだ。どれくらい凄かったかって言うと、実在が疑われるくらいだ」
「たまたま噂話が多すぎただけですよ。そのせいで本当は存在しないのではないかと思われていたんです」
「けど、ウチに盗みに入ったときだって、ヘゲさんはすぐに気づかなかったし、あたしや警備部の奴らは取り逃がしたんだぞ」
「そうでしたね。あれは……あなたが来てすぐでしたか。けっきょく最後はヘゲ様にまったく歯が立たず、取り押さえられましたが。わざわざアシェト様が不在のときを狙ったのに、とんだ失敗でした」
「で、殺されるかウチで働くかって言われたんだよな」
「ええ。その後の予定もなく暇でしたから、まあいいかな、と。今ではいい選択をしたと思っています」
なんかこう今までただのモブキャラだと思ってたけど、ムダにキャラ濃いなあ。
折り紙が完成する。メスラニがてっぺんを押すと、折り紙は厚みのある円盤になった。魔法とかじゃないらしい。中心をつまんで引っ張ると、再び巻き貝の形に戻る。
メスラニは何度かそれを繰り返すと納得したようにうなずいて、それをどこかへしまった。
「アガネア様、盗みに入るときのコツはなんだと思いますか?」
「えっと、見つからないこと?」
「そうです。ただ、そのために必要なこと。簡単です。警備の甘いところへ盗みに入るようにすることです」
「おい、アガネア。あんまり真に受けるんじゃないぞ。この悪魔の言う警備が甘いってのは、厳重な警備の盲点とかそういう意味だから」
メスラニはまた、ゆっくりうなずいた。
「そういう意味もありますが、それはやむを得ないときの例外。やはり基本は言葉どおりの場所です。誰も警備せず、魔法も掛かっていない宝石を無人の原野から持ち出すことは、あなたでも簡単にできます。盗賊にとって重要なのは、言ってみればそういう場所をどれだけ見つけられるか。それに尽きます。私の噂話はよく知りませんが、たくさんあるようです。そのせいで大怪盗のように思われているようですが、そういった話のほとんどは創作でしかないでしょう」
それでも、ウチへ盗みに入ったときの話からすると、やっぱりメスラニはかなりの実力者なんだと思う。そしてワタシはわりとすぐ、そのことを実感することになった。
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