方法49-1︰使い魔学会へようこそ!(適材適所を心がけて)

 魔力についてワタシに延々と説明してるうち、ベルトラさんは調子が出てきたようだった。

 魔力の源には三種類あって、消耗しちゃうからもったいないけど魂もいい魔力源になるよって話と、体内の魔力が尽きると悪魔は休眠状態になっちゃうよって話だったんだけど、例によってムダに長くて詳しくて解りやすかった。


「今日のこのあとの予定はキャンセルだな。晩餐会とか招待系はなかったはずだ」


 そこでベルトラさんは辛そうな表情になった。


「さすがにヘゲさん不在で何かあったら、あたし一人じゃ手に負えないこともあるだろう。となると明日以降も……」


 なんだかんだで食べ歩きを楽しみにしてたベルトラさん。たぶん、自分一人じゃワタシを護りきれないってことが悔しくもあるんだろう。

 ワタシやサロエも観光と食べ歩きを楽しみにしてたのは同じだ。けど、今のワタシはそれが残念というより──。


「ヘゲちゃん、ワタシのせいとか言ってましたけど、なんなんでしょうね」


 正直、マジメに思い返してみても心当たりがない。そりゃタニアとかダンタリオンとか、ワタシを狙ってるようなのはいるし、天使だって今後、どう動くか読めない。でも、ヘゲちゃんが独りで背負い込んで押しつぶされるようなことなんて。


 いや、違うな。ワタシが知らないだけで何かあるから、ヘゲちゃんあんなに追い詰められたのか。


 それとも、そう。サロエのネックレスで性格変わったときの言動がよっぽどヘゲちゃん的にショックだったのか。

 心にもないことだったんなら否定すればいいし、そこまでショックを受けない気がする。

 だとしたら、まさか本心、とか? なんてね。まさかもなにも、その可能性はずっと頭にある。特にヘゲちゃんが否定しないであの話を妙に避けてるところなんかは怪しい。


 でも、そうだって確信できないワタシもいる。そりゃ何度も危ういところで助けられてるし、ワタシに対するヘゲちゃんの言動だって、気を許してくれてるからだって思う気持ちはある。

 けど、今までのトラブルでヘゲちゃんにとって本当に危険度の高いことってなかったみたいだし、ヘゲちゃんはいつだって仕事でやってるってスタンスを崩さない。


 そもそも、あのときヘゲちゃんはワタシの好みに合わせようとしてくれてた。悪魔にそんな形の好意なんて芽生えるんだろうか?

 あとまあ、普段はわりと本気で嫌がられたりけなされたりしてるしね。


 それでも、もし、本当にヘゲちゃんの中にああいう言動をさせるような何かがあるんだとしたら……。そう思うとワタシは冗談めかして精神的な受け身を取ることもできずに、ただ思考と体が熱っぽくなる。そして同時になぜだろう。そういう気持ちはなんだか酷く危険な気もする。


 だからワタシはあのときのヘゲちゃんについて本人の前で話題にできないし、そのくせ何もなかったようには振る舞えない。変に意識して、前みたいに踏み込めない。

 結果的に会話はするんだけど、少し距離を置いてしまう。

 それなのにヘゲちゃん本人に聞かれる心配がないとなると──。


「あの、性格が変わっちゃったときのことと関係あるんですかね?」


 こうやって話題にしてしまう。我ながら情けない。


 ベルトラさんはそんなワタシの言葉を馬鹿にしたりしないで、まじめに考え込んでくれた。


「うーん。どうなんだろうな……。たしかにあれからヘゲさんも、ああ、おまえもだぞ、とにかく二人とも様子がおかしい気はするから、絶対ないとは言えないが、そこまで……いや、どうなんだろうなあ」

「そういうガネ様はどうなんですか?」


 サロエに尋ねられてワタシは動揺する。


「どうって?」

「私、百頭宮に来てまだそんなに経ってないですけど、最近のお二人は妙に生産的というか……。だから何かガネ様の方でも気にしてるのかなーって」


 妙に生産的……。なんかこの娘、難しい言葉を微妙に正しく使うな。


 サロエの質問に、気のせいって答えたり、ヘゲちゃんのせいにしてみたりしたくなる。

 けど、もしかしたらワタシのそういう態度もヘゲちゃんにとって良くなかったのかもしれないとか思ってしまって、結局、普通に答えてしまう。


「よく、解らない。どう考えたらいいのか──。ワタシ、こう見えてもわりと思ったまま行動しちゃうところがあって、あんまりあれこれ考えすぎたりしないんだけど」

「あ、そんなふうに見えてますよ」

「おまえの言動、いちいち裏の意味とか考えなくて済むのはいいところだと思うぞ」

「……とにかく、あれ以来ヘゲちゃんのことになると、いろいろ考えすぎちゃって」


 ふむ、となにやら思案するベルトラさん。


「つまり、そういうことなのかもな」

「どういうことなのかもですか?」

「なんだその言葉づかい。まあ、つまりだな。おまえがそんな感じなら、ヘゲさんもそうなのかもしれないってことだ。ヘゲさんはかなり不器用だから、無理やり答えを出そうと考えすぎて辛くなったのかもしれない」


 だとしたら。それってつまりどういうことなんだろうか。


「とにかく、アシェトさんが話してくれるそうだし、あたしらにできることはない。残念だけどな」


 するとヤニスが入ってきた。


「経営企画室のメスラニ様がいらっしゃいました」


 ヤニスの後からワニ頭の悪魔が入ってくる。


「ヘゲ様から連絡がありまして、あとは任せた、と。これはいったい──?」

「ヘゲさんは急用でしばらく百頭宮へ戻ることになった。あたしたちも詳細は知らされてない。正直、困ってるんだ」

「そうでしたか……」


 ワニの顔にはどんな表情も浮かばない。


「アガネアの警備はどうなってる?」

「5人チームを編成し、交代であたっています。他に、政府から派遣された護衛が8人体制」

「そうか。できればこちらも8人に増やして、メフメトさんはあたしらと一緒に行動してもらいたい。どうだ?」

「そう、ですね。それでもヘゲ様の穴埋めにはならないでしょうが、現状では最善かと」


 こうして、ヘゲちゃんがいなくなったと思ったら陰気そうなワニ男が仲間に加わった。

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