方法49-3︰使い魔学会へようこそ!(適材適所を心がけて)

 扉の向こうからうめき声が聞こえる。そしてたくさんの足音や、ワタシたちを探す物音。


「くそっ! このままここにいても見つかるのは時間の問題だ」

「マップだとこの近くのはずなんですよ」

「廊下なら前後にだけ気を配っていれば済みます。これ以上集まる前に突破しましょう」

「じゃ、前は頼んだ。後ろはあたしが」

「サロエのバカ! アホ! 帰ったら絶対にやるからね!」


 ワタシは小声で怒鳴る。


「その話、あとにしましょうよー」

「うっさいバカ! 後も先もあるか! 今ここで決定だっての! 今度という今度はもーホントにもー」


 ワタシたちはわりとピンチに陥ってた。これまでの経験のせいで、ヘゲちゃんが今にも助けに来てくれそうな気がして悔しい。

 メスラニがドアを開けると、ワタシたちは急いで部屋を出た。



 使い魔学会というのがある。使い魔の研究と開発をする学者の集まりだ。

 とはいえ、もう長いこと魔界では使い魔離れが進んでいて、終わりの見えない冬の時代だとかいう話だ。

 ワタシはそこから功労賞を与えられることになった。“アガネアドリル飛翔形態、フライングスピアニードル”のおかげで。

 受賞理由は二つ。使い魔活用の新たな可能性を示したこと。そして、使い魔の注目度を高めたこと。


 あの技はヘゲちゃんがワタシを魔法で強化し、回転加えながらぶん投げるってものだけど、公式には使い魔をエネルギーに転換してることになってる。これが使い魔学者のハートに刺さったらしい。

 おまけにオオソラトビヘビ撃退に使われたってことでちょっとした話題になってたみたいで、もうじき出る百頭宮と仙女園のガイドブックには“改”の方が連続写真で掲載されることになったから、これでさらに注目度アップを期待したいんだとか。

 密着取材についてはあれだけずっと動画で撮ってたんだからせめて特典映像とかつければいいのに、そういう話は特になかった。悪魔が動画コンテンツにたいして惹かれないのは、未だに謎だ。


 そんなわけでヘゲちゃんの代理としてメフメトを加えたワタシたちは、授賞式会場の“ブエル生科学・生体魔法研究所”を訪ねた。学会長がブエルって悪魔なんだそうな。どっかで聞いた名前だと思ったら、姿を見て思い出した。

 ブエルは獅子と人を合わせたような顔の周りにたてがみが生えてて、周囲に放射状に山羊の脚が生えてた。

 ゲームかマンガかアニメか本か、とにかくインパクトのある外見はイラストなんかを人界で目にしたことがあったんだと思う。


 授賞式は普通だった。ブエルが演説してワタシが紹介され、賞状と記念の馬の生首(今期2個目)の授与。そのあとワタシが用意しておいたスピーチを読み上げて授賞パーティーが始まった。

 パーティーは立食形式で、ワタシは学者たちに囲まれた。

 ブエルはどうやって移動すんのかと思ってたら、ちょっと浮いててそのまま宙を滑ってた。


「使い魔をエネルギーと射出に使うという発想はどうやって思いついたんですか?」


 ……そこまではヘゲちゃんも設定考えてなかった。


「ええっと、その」

「そもそも、あの使い魔はどこで? 推定されるエネルギー還元の速度と効率性からすると、まるであの技のために作られたようだ」


 どうしよう!? 秘密ですとか答えて粘られても困るけど、ヘタに答えてボロを出すのもマズい。


「あれは、その……そう! サタン様が考案した技なんです。使い魔もサタン様がどこかから連れてきてくださって」

「なるほど。サタン様が」

「技としてはいまひとつ非効率だと思っていたが、サタン様ならしかたない」

「きっと見た目のハデさが気に入って、ノリノリで実装されたんでしょうな」

「あの頃すでに単機能特化型の使い魔という概念を持ってらっしゃったのか。さすがはサタン様だ」


 なぜか場の雰囲気がほっこりとなごやかなものになる。その和気あいあいとした空気感を見てると、やっぱサタンって勝ち気系の天才チビっ子魔王なんじゃないかって気がしてくる。そのくせ妙なとこで抜けてたり臆病だったりして、可愛いことこのうえないような。


「となると使い魔はサタン様お手製ということか!?」


 誰かがハッとしたように言った。


「おお! それはぜひ見せていただきたい」

「あ、いやあれはまだチャージ中で」

「チャージ中。なるほど」


 ブエルが納得したように言う。


「おまえさんが連れてきたわけじゃない以上、その形しかないか。おそらくコアのようなものがエネルギーに還元されずに残り、魔力を吸収してあの形を再構成するのだろう」

「くわしい仕組みはよく知らないんですけど」


 そんな会話にヒヤヒヤさせられながら、ワタシはパーティーが早く終わることを願っていた。



 それからさらに1時間ほどが過ぎ、時刻は午前2時。急に一人の悪魔が壇上に立った。


「さてここで、我々使い魔学会からアガネア嬢にサプライズです」


 あらかじめ知ってたらしい使い魔学者たちが盛り上がる。


「これから百頭宮のみなさんにはゲームにチャレンジしていただきます」


 はー。出たよ。これだよ。まただよ。どうせこの後、面白半分でヒドいことさせられるんでしょ。一歩間違ったら死ぬような。


「これからみなさんには、転移ゲートで遠方にあるブエル氏の実験場へ移動していただきます。そこでヒントやアイテムを集めて、みごと帰還用ゲートから戻って来られれば賞金最高300ソウルズをゲット。ただし、実験場には我々の持ち寄った使い魔が放たれています。またいくつか禁止事項がありまして、これを破れば失格です」


 禁止事項は四つあった。一つ目はワタシが戦うことの禁止。二つ目はサロエが妖精魔法を使うことの禁止。あとの二つは空を飛ぶことの禁止と地中に潜ることの禁止だった。本当はあともう一つ、ヘゲちゃん用の禁止事項もあったみたい。

 それと、賞金額はどこかに隠されてるメダルの数で変わるらしい。ゼロなら賞金なし。一つ見つけるごとに100ソウルズで、最高が300。ただし、サービスでメダルの数は四つ以上ある。


「さてそれではさっそくゲートの準備を──」

「ちょっと待った!」

「アガネア嬢、どうされました?」

「えーとあの、これってどれくらい時間かかります?」

「長くても一日あれば。たしか次の予定は二日後でしたよね? いちおうその辺りは調整いただいたはずなんですが……」

「そうなんですけど、実はこちらで別の用事を入れてまして。ちょっと調整させてください」


 そしてワタシはベルトラさんを連れて廊下へ出た。


「どうしたんだアガネア」

「どうしたもこうしたも、あんな危なそうなの、参加できませんって。ヘゲちゃんもいないのに」

「けどおまえ、成功したら300ソウルズだぞ。4人で分けても一人75。ウチの給料からすれば大金だ」


 え? なんでベルトラさん急に金に目がくらんでんの? ワタシの安全が第一でしょ。


「そもそも使い魔って言えばほら、猫とかカラスとかネズミとか、ああいうのだろ。やたら数が多いとか多少の仕込みはあるんだろうが、メインはヒント集めとかの方なんじゃないか? パズルとかクイズみたいなのを解かなきゃならないとか」


 ワタシは疑いの目を向けた。


「そもそも、さっきの禁止事項を聞いたろ。あれ、逆に言えばそういうことされたらゲームとして成り立たなくなるって意味だ。飛ばれたら困るなんて、危険度は低いってことなんじゃないか?」


 ワタシは念のため、メフメトとサロエの意見も聞いてみることにした。二人を廊下へ呼び出す。


「どう思う? 罠ってことないよね?」


 メフメトはワタシが人間だって知らない。だからベルトラさんとは別の角度から尋ねてみる。


「さすがに罠ではないでしょう。純粋な余興かと。使い魔といえば小動物か、せいぜいフレッシュゴーレム程度の人型あるいは低位の悪魔くらいですから、謎解きが中心なのでは?」

「いざとなれば妖精魔法でどうにかできるくらいなんですよね?」

「ご自身の信念には反するでしょうが、失格を受け入れるなら使い魔くらいアガネア様の力でどうとでもできるわけですし」


 それができないから警戒してるんだけど、とにかく他の三人はこのチャレンジを危険だと思ってない。ってことは本当に危ないわけじゃないのかも。

 ワタシはつい念話でヘゲちゃんにも意見を聞いてみようとしてやめた。

 どうせ返事なんてあるわけないし、なんだってヘゲちゃんに頼るのが癖になってきてるみたいで、厭な気分になったから。


「まあ、それに、なんだ。ブエル様はかなりの有力者。よほどのことじゃなけりゃ、あたしらには断れない」


 ベルトラさんの言葉で決まりだった。ワタシたちは中へ戻ると、用意されてた壁面のゲートを抜けて実験場へ転移した。

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