方法48-2︰裸族の天使(仲間の目は気にして)
建物は中も真っ白だった。柔らかな光に満ちてる。
「すみませーん! あの、アガネアと言います。今日お会いする約束の」
すると突き当りのドアが開いて、天使が二人出てきた。こちらへやって来る。
天使の二人は背中に一対の翼を生やし、頭には金の輪っかが浮いてた。近づいてくると輪っかは小さくて複雑な部品がリング状になってることが判った。
それ以外、二人は真逆だった。一人はかなり背が高い若い女性。長くて真っ直ぐでサラサラの金髪に、快活そうな顔。
もうひとりはかなり背が低く、ぽちゃぽちゃ太った男性。金髪だけど癖の強い髪で、童顔の中年だ。ちょっと抜け目のなさそうな顔をしてる。なんか浦沢直樹のマンガとかに出てきそうだ。
それはいいんだけど、ね。
なぜか二人とも全裸だった。完璧に。モヤも謎の光もナシ。靴も履いてない。そういや絵の天使って全裸だよな、なんて思ったけどあれはだいたい子供だ。
キョロキョロするとヘゲちゃんたちはみんな平然としてる。
これはあれか。バカには見えない服を着てるっていう。いや逆か。賢いと見えない服を着てるのか。いやそんなまさか。
悪魔もけっこう裸だったりはするからそれ自体はおかしくないけど、少なくともワタシが見た範囲じゃ人型はみんな人前だと服を着てる。
「おい、ほら」
おっさんの方がもう一人の生尻を軽く叩いた。
「あ、えと……うん、よし。アガネアですね? 時間を守るとは関心です。よく来ましたね。私はアークエンジェルのハイムエル。こちらはアークエンジェルのロムシエルです」
「ロムスとハイムって呼んでくれ」
「ロムシエルさん。悪魔にそういう親しげな態度は」
「そりゃあれだ。間違いだ」
「だからそう言うときは理由を教えてくださいって」
「それも、間違いだ。な?」
なぜかワタシたちに同意を求めるロムス。それにしてもなんなんだ、この二人。
「ともかく、ここでは話しにくいでしょう。こちらへ」
ハイムに案内され、二人の出てきた部屋へ入る。そこも真っ白い応接間だった。とりあえずワタシたちは自己紹介する。天使たちは背もたれのないイスに座って、一人ひとりを興味深そうに眺めてた。
ワタシの方は目のやり場に困り、はしないというかむしろ二人の特定の部分に目が行きそうになるのをこらえてた。
いやあ、見慣れてるって言ってもやっぱ見ちゃうんだよね。特に天使はほとんど見た目人間だし。銭湯とかなら特にそんなことないのにねえ?
「どうかしましたか? アガネア。緊張しているのですか?」
ワタシの挙動不審さを察知するハイム。
「いえ。服を着てないなと思って」
「おお。そうか。あんた天使に会うのは初めてだったよな」
「知ってるんですか?」
「もちろん。四人のことはちゃんと予習してある。もっとも、サロエの情報はほぼなかったけどな。妖精から悪魔になったクチだろ? 仕方ないとは言え、本人から見たら災難だったな」
「はあ、どうも」
素っ気なく頭を下げるサロエ。誰に対してもフレンドリーなサロエがこの態度。やっぱ天使と悪魔って仲悪いんだなあ。
ロムスはそんなサロエの態度を気にせず続けた。
「服ってのはそもそも、アダムとイヴが悪魔に堕落させられて、神から授かった肉体を恥じたのがはじまりだ。悪魔もそれを自慢に思って服を着るようになった。つまり、天使には服なんて無用なんだ。だから、ま、裸ってのは純粋無垢の証だ。そもそも神がこのように創ってくださったのに、なんでそれを隠す必要がある? そういうわけで、別にあんたを侮辱するつもりはないんだ。気に障ったんなら悪かったな」
そっか。こういう席で服を着ないって、悪魔にとっては軽蔑を表してるんだっけ。
天使が裸族な理由は解ったけど、それじゃあ服着てくれることはないんだろうなあ。ワタシがなんとなく落ち着かないんだけど。
……これから天使が出てくる陵辱系の薄い本を描く人は、嫌がるマッパの天使にムリヤリ服着せるシチュエーション描くといいよ。
にしても、含むところはないんだろうけどロムスが純粋無垢とか言うと怪しさしかないな。
といっても実際、ロムスがハイムを見る目にはヤラシイとことか少しもないし、やっぱ天使には性欲ってもんがないんだろう。
予習してきたって言葉は本当だったみたいで、ワタシは百頭宮へ来てからのことをあれこれ聞かれた。尋問とか聞き取り調査みたいな感じじゃなくて、普通に興味持ってるような雰囲気で。
普通の天使がどんなのかは知らないけど、ルシファーが言ってたとおり、この二人はわりと話せる感じがした。
「あなたは天使に対する抵抗感がないようですね。私たちと戦っていないからでしょうか」
話が一段落したところで、ハイムが言った。たしかにヘゲちゃん、ベルトラさん、サロエはほとんど喋ってないし、口を開いても最低限のことしか言わない。
「サタン様から人間っぽく見えるように造られてるから、そのせいもあるかもしれません」
「たしかに、妙に人間くさい」
「ちなみに、どういったところが?」
悪魔からもそれ言われることあるけど、ワタシ自身はいまいちどこがそこまでそう思われるのかピンとこないんだよね。
「うーん。どこ、か……。そう言われると困るな。どうだハイム?」
「そうですね……。具体的にはないんですけれど……。強いて言うなら雰囲気、ですか」
やっぱ、ワタシが人間だからって以外に理由ないのかも。
「けど、本物の人間が天使に会ったらこうなる」
ロムスはムニムニした頬を両手で挟むと、目と口を思いっきり開けた。
「それか、これだ」
今度は両手を胸の前で組み合わせ、恍惚とした表情になる。
「ありゃ? 面白くなかったか」
「ロムシエルさん。人間に対して差別的な言動はやめてくださいって言ってるじゃないですか」
「差別的? それは間違いだ」
「ですからそういうときは理由を──」
この二人、これはこれで仲いいんだろうな。
「ところでアガネア。ひょっとして、何かトラブルに巻き込まれたりしてないか?」
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