方法47-2︰パーティーからの推理コンボ(無謀な勝負は避けましょう)

 最初から、どうも同じ悪魔がずっと近くをウロウロしてるなって思ってた。しかもワタシを観察してるみたい。そのくせ声をかけてくるわけでもなく、なんか熱に浮かされたような様子で、ちょっとキモかった。

 一瞬、タニアの仲間かとも思ったけど、それにしてはワタシに気づかれるあたり、素人くさすぎる。


 ワタシに話しかけようとする悪魔が途切れた瞬間だった。そいつはいきなり飛びかかってきた。

 そこへ、身をかがめながら高速でヘゲちゃんが割って入った。掌底でそいつのアゴを打ち抜き、宙へかち上げる。

 ヘゲちゃんはその勢いのままジャンプ。天井に叩きつけられて落ちてきた相手の背後に回り、ヘッドロックの体制で着地。締められた悪魔の首から、硬いもののこすれるような音が響く。


 周囲がざわつき、警備の悪魔が駆け寄ってくる。そのとき、ヘゲちゃんの声がした。大声ではなかったけど、みんなが思わず黙って動きを止めるような冷たさに満ちてた。


「危ないところでしたね。アガネアは攻撃されるとフルオートで迎撃してしまう因果な擬人。私がこうまでしてお止めしてなければ、今ごろ滅ぼされていました」


 ヘゲちゃんはついっと周囲を見回す。


「みなさまもお気をつけください」


 襲ってきた悪魔は警備員に引き渡された。首が脱臼してるみたいだったし顔の下半分がグチャグチャになってたけど、悪魔だからたぶん大丈夫。


 しばらくすると、場はもとの雰囲気に戻った。


「災難だったね。あと、オラノーレは見事だった」


 声の主に気づいた悪魔たちがワタシとヘゲちゃんから離れる。近づいてきたのはベルゼブブとルシファーだった。


「光栄です」


 頭を下げるヘゲちゃん。


「あのサレオスが一撃だったんだ。謙遜しなくていいと思うよ。それにしてもあいつ、穏やかな性格のはずなんだけどね。さすがはソウルコレクターや古式伝統協会を魅了してきたアガネアといったところかな」

「なんか、すみません」

「気にすることはないさ」

「ああ、そうだな。しかしヘゲは、少しやりすぎたんじゃないか?」

「咄嗟のことで力加減を間違ったんだろうさ。それに場末のバーなんかならともかく、こうした場所でいきなりコトに及ぼうとするのはどうかと思う。あんまり責めるなよ、ルシファー」

「ああ、そうか。いや、そうだな」

「よし。じゃあまた。あんまり独占してると他の悪魔が話せないから」


 二人が離れていくと、再び他の悪魔に取り囲まれた。


「サレオス氏とはお知り合いですか?」

「いいえ」

「なにか魅了の術を使われた?」

「いいえ。ただどうも、自動発動系のそういう能力があるみたいで。条件は判りませんけど、それがすごく効く悪魔がいるようなんです」

「意志と関係ない魅了と反撃のセットですか。なかなか凶悪ですな」


 やがて、司会の悪魔が告げた。


「お集まりのみなさま。本日は百頭宮より贈り物をいただいております」


 扉が開き、台に積まれたたくさんの本が運ばれてくる。


「近日発売となります“新生百頭宮、仙女園完全ガイド”。こちらをですね、ひと足早くみなさまにお配りしたいと」


 へー。そうなんだ。知らなかった。


「こちら、アガネア様からもコメントをいただければと」


 げー。そうなんだ。知らなかった。じゃなくて、なんだその無茶振り。ワタシも見本誌なんてもらってないんだけど。

 ワタシが隣を睨むと、ヘゲちゃんは肩をすくめた。司会のアドリブらしい。


「えと……」


 ワタシはとりあえず本の山のとこへ行くと、1冊手に取った。これ、人数分ピッタリじゃないよね? ちょうどいいからもらっとこう。


「この本にはですね。えーと新しくなった百頭宮と仙女園の魅力が、その、余さず書いてあります。あと」


 ワタシは本をパラパラめくって確認する。


「ナウラ。あの、うちの歌手のですね、ナウラのグラビアと一日密着記事、あとワタシのも、あ、一日密着記事がですね、載ってます。あとは……あ、クーポンありますね。それと、ワタシがソウルコレクターを仕留めたときのワザを披露してて、そういうのとか写真もたくさんありますから。はい」


 終わりよ? という視線を司会に向ける。


「はい。ありがとうございました」


 なんか拍手が起こる。ワタシは会釈して元の場所に戻った。


「では、こちらご自由にお持ちください」


 さっそく悪魔たちが台の方へ向かう。


「ガネ様、お疲れさまです」


 サロエが声をかけてくれる。


「ヘゲちゃん、どうだった? ワタシのアドリブ」


 ヘゲちゃんはハッとした様子で、少し慌てて言った。


「えっ? ああ、大丈夫よ」


 うーん。なんか聞いてなかったっぽいなあ。


「やあ。いろいろあったわりには、みんな元気そうだね」


 後ろから話しかけられて、振り返ると魔界人別局の局長ダンタリオンがいた。相変わらず白い歯を見せて爽やかな笑みを浮かべてる。

 来てることには気づいてたけど、こっち来ないから油断してた。


「おかげさまで。並列支部のときはエラい目にあいましたけど」

「ウチのティルもずいぶんお世話になったみたいだしね」

「あー。いや、あれは助かりました」


 いやホント。ティルのアトラクションがなきゃサロエの借金返済は上手く行ってなかったかもしれない。


 それにしてもダンタリオンだ。ワタシが人間だって知ってて、ケムシャとしてワタシを狙ってたっぽくて、なに考えてるか解らなくて、ベルゼブブからも警戒されてる、あのダンタリオン。

 人別局の局長ってことは偉いんだろうから招待されてても不思議じゃないけど。


「ん? どうしたんだい?」

「いえ。何も。なんだか会ったのがずいぶん前みたいな気がして」


 ワタシがごまかすと、ダンタリオンは少し目を細めた。


「そうは言っても、まだ半年かそこらじゃないか。仮に人間でもそうは変わらないよ。いや、どんな経験をするかによっては短期間で変わるのかな」


 なぜさりげなく牽制してきたんだ。それなんか意味あんの? それとも、ワタシが人間だってのは二人だけの秘密だよってアピールか?


「悪魔だって半年あれば変わることあるじゃないですか」

「そうかい? たとえば?」

「たとえば」


 ワタシはヘゲちゃんの成長に触れようとして、やめた。あれこれひょっとしてダンタリオンしくじってんじゃね?

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