方法47-3︰パーティーからの推理コンボ(無謀な勝負は避けましょう)
とにかく怪しまれちゃダメだ。ワタシは頭に浮かんだことを口にする。
「たとえば、えーと、大怪我したりとか」
ワタシの言葉に、ダンタリオンは楽しそうに笑った。
「さっきのこと? あれは驚いたね。僕はてっきりキミが……。ああ、いや、ここで言うのはふさわしくないな」
そしてウインクしてくる。ダンタリオンて本当にこういうしぐさが自然に見える。あの、いかにも芝居がかって見えるタニアとは真逆だ。
「とにかく、ワタシたちはおかげさまで誰も何も変わらずです。大怪我してもう治ったとかもなく」
「そうみたいだね。そうだ。この本」
ダンタリオンは持ってた本を差し出した。すぐそこで配ってるウチのガイド本。
ちなみに洋書のペーパーバックらしく、オビはなくて表紙に宣伝文句が刷ってある。
“貴族のあいだで話題沸騰! たちまち重版!”
発売前のにこう刷ってあるのを見ると、逆に仕事って大変なんだなあ、と思う。
「ああ、その宣伝文句は見なかったことにしたげてください」
「あ、これ? こういうのを見ると、仕事って大変だなあと思うよね」
まさかの思考かぶり。
「それはさておきモルド氏。彼のこと、殺したんだね」
「あー、あのシリアルキラーの。マズかったんですか? ワタシはちゃんと許可取ったほうがいいんじゃないかって言ったんですけど」
もちろんそんなこと言ってない。
「ずいぶん昔のことだから今さら問題はないよ。ただ、彼を閉じ込めることになった経緯には僕も少し関わっていたんだ。それを思い出したよ」
「関わったって」
「僕はそもそも神の意識の在り方を探るため、大勢の優秀な悪魔が協力して造られたんだ。彼はそのプロジェクトリーダーだった。その頃まではまともだったんだけど、デキの悪い僕の身体を殺すようになってから段々と……」
「関わったっていうより、思いっきり関係者ですね」
「そうだね……」
なにかを思い出すように遠くを見るダンタリオン。考えてみれば体がたくさんあるんだから、同じ期間でも人間や他の悪魔よりはるかに大量の記憶ができてくのか。そりゃゴッチャにもなるわ。
「さて。キミとも話せたし、僕もそろそろ帰ろうかな。忙しいだろうけど、もし人別局へ来てくれたなら歓迎するよ」
そしてダンタリオンは帰って行った。みれば他にも帰る悪魔が出てきてる。時刻は12時近い。そこでワタシたちも帰ることにした。
帰りの馬車でのこと。
「あのサ……なんとかは、やっぱり?」
「ああ。サレオスな。本人には災難だが、魂の感受性が強すぎたんだろう。それにしてもヘゲさん。言いにくいんですが、あれはやはり」
「あれもやり過ぎだって言うんでしょ。解ってるわ。反省してる。けど一瞬のことだったし、手加減するのは難しいの」
「それはそうでしょうが……」
と、程よく空気が重くなったところでダンタリオンが何をしくじったのか、正解発表といこうじゃないの。
「ワタシ、ケムシャがダンタリオンだって証拠を見つけた、かも」
まずはちょっと弱気な態度で話題を切り出す。
「さっきの会話でか? 嘘だろ!?」
「……ベルトラさん。“本当か!? は信じられない。嘘だろ!? は信じてない”って格言があってですね。似てるようで大違いなんですよ」
「あ、すまん。続けてくれ」
「ヘゲちゃんが関係してるんですけど。ヘゲちゃん、初めてワタシと会ったときより成長してるよね?」
ヘゲちゃんは驚いた様子だった。
「気づいてたの?」
「そりゃさすがに気づくよ。当たり前だよ。ベルトラさんも気づいてましたよね?」
「まあなあ。百頭宮がリニューアルしたから、連動するヘゲさんも変わったんだろうと」
「誰も何も言わないから、てっきりみんな気づいてないのかと思ってたわ。変化もゆっくりだったし」
それはたぶんヘゲちゃんの友達が少ないとか、あんまり興味持たれていとか、そういうことじゃなかろうか。
「とにかく、ヘゲちゃんが変わりだしたのって初めてダンタリオンがティルと来たときより後、ケムシャと会うより前のことってわけでしょ?」
「ええ」
「なのにさっき、ダンタリオンそのこと言うどころか、みんな少しも変わってないって言ってた。ワタシの髪や爪の微妙な変化に気づいたダンタリオンがだよ?」
「続けて」
「だからさ。ダンタリオンはケムシャとしてヘゲちゃんに会ったとき、本当は変わったことに気づいてたわけ。でもケムシャとしては、それは言えないから黙ってた。初対面のはずだから。ここまではいい?」
みんなうなずく。
「で、さっきダンタリオンが“みんな少しも変わってない”って言ったのは、ケムシャとして会ったときからヘゲちゃんが変わってないから。どうかな?」
「……つまり、ダンタリオンがヘゲさんの変化に触れなかったのは、ケムシャとして会ったとき一度それに気づいていて黙ってたせいだ。そういうことか?」
「そうです。言い忘れたことを後から言った気になっちゃうのと似てます」
なるほど! 的なリアクションを期待してたのに、みんな黙ってる。というかサロエはさっきから尻尾の毛並みを気にしてて、ロクに聞いてないなありゃ。
「苦しいな」
「ちょっと無理があるんじゃないかしら。だいたい、今の話を聞いてもあなたがなぜそれをケムシャがダンタリオンである証拠だと思うのか、今ひとつピンとこないのよね」
「だからさあ。髪の色に例えるよ? 最初に会ったときと、次に会ったときで髪の色が変わってたとするじゃん?」
「ええ」
「でも、そのとき言わなかったとするでしょ」
「ええ」
「で、3回目に会ったとき、髪の色は2回目に会ったときからは変わってない。けど、髪の色が変わったって言わなかったのを思い出さなかったら?」
「変わった、とは言わないわね。むしろ2回目のときに言ったような感覚で喋るかもしれない」
「そういうこと」
「まあ、理解できたような気がするわ」
「そういう可能性も否定はしないが、しかしおまえの意見より説得力のある説明なんていくらでもできそうだがなぁ」
「それ以前にケムシャと会ったあとも、しばらく変化は続いてたのよ」
「え!? そうなの?」
「そうよ。緩やかに変わっていったから、いつ頃までかはハッキリしないけど」
じゃあワタシの推理は成立しないじゃん。はい終了みんな解散! 打ち上げ? ねぇよ! ……せっかく大発見したと思ったのになあ。
「そもそもケムシャがダンタリオンだって証明できたとして、どうするんだ?」
「それは、攻めてきた落とし前をつけろってダンタリオンに要求して、しばらくはヘタなことしないよう牽制するとか。タニアと同時になんかしてきたら、かなり面倒そうじゃないですか」
そう。今のところワタシが警戒すべきなのはタニアとダンタリオン。ダンタリオンが身動きしにくい状況になれば、タニアとそのバックにいる組織だけ心配してればいい。
「ああ、そうよ。逆だわ!」
突然ヘゲちゃんが言った。
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