方法43-2︰呼ばれて飛び出てくれないか?(権力には従いましょう)

 サロエの魔法は有効だった。アシェトさんは目くらましを見破れず、見せかけの壁を通って階段を降りたらさんざん道に迷ってた。道に迷ったのは同行してたワタシたちもだけど。


 念のため無限ループに入ってもらったらこれも自力では出られなくて、最後は癇癪起こして見るからにエゲツなさそうな魔法を撃って、あやうくループしたやつで自分の背中に穴を開けるとこだった。

 といってもワタシたちは中が見られないから、サロエの実況で聞いた話だけど。


 ルシファーはゴイディラとかいう偽名で身分を隠し、もともと雲の上みたいな存在で誰も顔知らない上に変身してたから、正体がバレることはなかった。

 ただアシェトが超VIPだって言ってたから、みんな有力な悪魔がお忍びで来たんだろうって噂はしてた。ついたあだ名はゴイの旦那。

 ルシファーは街中をうろついたり店内で客として楽しんだり、わりと休暇を満喫してた。

 スタッフエリアにも好きに出入りしてて、食堂でナウラと話し込んだり、セルフ式の酒やツマミで一杯やったりもしてた。


 一度なんかは就業後のワタシとサロエ、ベルトラさんと一緒にまかない飯まで食べた。


「普段はどうしてるんですか? やっぱご馳走ばっかりとか?」

「いや、そうだな。あまり食事はしない。付き合いで呼ばれたときくらいか。こんなにマメに飲み食いしたり寝るのはずいぶん久しぶりだ」

「ポケットディメンションはもう試しました?」

「ああ。あれは面白いな。2回やった。最初はゆっくり。その次はタイムアタックに挑戦したら外の時間で20分くらいで終わってな。アシェトにその話ししたら、ムキになってあいつもやってたぞ。20分切ったとか後でわざわざ自慢しに来られた」


 えっと、それだと中で23時間くらい。今のところ中で8日間切ると平均的な廃スコアラーだから、いったいあんたら何してんだ。構造体ぶち抜いてんのか。


「ゴイディラさん自身はアガネアに会ってみていかがですか?」


 ベルトラさんに質問されて、ルシファーは考え込んだ。


「ああ、そうだな。……そうだな。普通、だな。これといってトガッたところも、目立ったところもない。ああ、いや、違うんだ。馬鹿にしてるわけじゃない。そんなふうにしか見えないのに、周囲であれだけのことが起きてきたんだから、逆に得体がしれない。いかにもな奴じゃ、ただ納得して終わりだろう?」


 それってつまり、感心されてるんだろうか。まあ、モブいことにかけては定評のあるアガネアさんなので、普通ってのは納得できる。なんならモブすぎてキャラ絵なくて枠線ベタのみのシルエットしかないまである。


「そうだ! ワタシそっくりに変身した役者が代わりにバビロニア行くとかどうですか?」

「ああ、そうだな。見破られるだろう。天使だって魔界へ来るとなると、当然いろいろなことに対策を立てている。なんだ。バビロニアに来たくないのか?」

「慣れない環境は苦手です」

「そうか。まあ、それくらいなら我慢してくれ」


 そう言うと、ルシファーは背中を丸めてラザニアをモソモソ食べた。しばらくして。


「悪魔たちの好奇心に付き合うのも、天使どもに手を貸すのも気が進まないが、天界の心象を悪くすると、その、いろいろ困ったことになりかねない」


 ボソリと言うルシファー。


「そもそも、都の悪魔たちはおまえを歓待するつもりだ。晩餐会に観劇、空中庭園での園遊会。まあ、そんな感じになるだろう。今の大使たちも……おかわりもらえるか? ありがとう……大使たちも天使にしては話の通じる方だ。一度会っておけば満足するだろう。全体として、悪い滞在にはならないはずだ」


 あー。なるほど。これが上司満足度1位の実力か。そんなふうに言われたら変にゴネたりできないし、むしろいい話みたいに思えてくる。


 ま、ワタシがバビロニア行きたくない理由は招待そのものとは関係ないんだけどね。安全なここから出たくない。いつもと違う状況はリスクでしかない。それだけだ。

 “とにかく死なないこと”とそのための絶対安全第一主義。これがブレない女、ワタシのポリシー。

 でもルシファーの話を聞いたら、ちょっとだけ楽しみになってきた。やるやん、ルシファー。


 なんて思ってた時代がワタシにもありました。

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