方法42-3︰密着アガネア24時(ヤラセと演出は違います)

 監修パートが思いのほか早く終わったみたいで、ちょっと時間が空いた。ワタシが撮れ高効率いいからであって、やらせてみたら意外とつまんなかったという編集者判断ではない。


 ナウラはちょっと早いけどグラビア撮影するとかで、ワタシたちも見学することに。



 てっきり地下にある“例のプール”で水着撮影でもするのかと思ってたけど……。


 ワタシたちが向かったのは7階のプレイルーム。部屋の真ん中に大きな木のテーブルがあって、横になんていうか拷問器具やら大工道具なんかの並んだサイドテーブルがある。


 スタンバイしてた屈強なモデルの悪魔がテーブルへ横になると、ナウラに大きなナタが渡される。


「んじゃあ、まずスネをズバッと行っちゃってください」


 カメラマンの指示に、不安そうな目をするナウラ。さっそくさっきのアドバイスを取り入れてるみたいだ。感心感心。って、感心してる場合じゃない。どう見てもヤな予感しかしない。

 モデルの悪魔は平気そうにしてるけど……。


 とうとうナウラはナタを構えると、思いっきり振り下ろした。


 ゴっ。


 硬い音とともにナタが悪魔の脚に。ワタシは必死でその光景から目を背けないようにする。

 あれ? 弾かれてる。何度もナウラがナタを振り下ろすけど、全然ダメ。つまるところ0ポイントのダメージ。


 取材スタッフもこれは予想してなかったみたいで協議に入る。

 

「あー。じゃあナタに魔法かけますんで」


 ナタが一瞬だけボウっと輝き、今度は上手くいった。ナタは半ばまで脚を切断し、血の雫がナウラに飛び散る。悪魔が痛みに絶叫した。


「いいよいいよー。今度はもうちょっと食いしばった歯を見せて」


 ノリノリで撮影が進む。その後も腹を包丁で咲いたり、針を植えたブラシみたいなのを顔面に振り下ろしたり、とにかくゴア表現満載な撮影が続いた。

 ここで見学楽しんでないとかありえないからね悪魔的に考えて。という理性からの指令のおかげでワタシはその場を離れることもできず、ようやく終わったときにはホッとした。


 ※撮影後、モデルの悪魔はカタツムリの爺さんによってすみやかに治療されました。


「じゃあ、次は」


 へ? まだあんの?


「あの、ワタシの方もそろそろ」


 これ以上は見たくないので、編集者に声をかける。


「大丈夫です。巻いていくんで」


 いや、今なら巻かなくていいじゃん。けど、あんまりゴネて見学が嫌だとでも思われたら困る。


 そうこうしてるうちに次の準備ができた。


「あ、ナウラさんヒザもうちょっと曲げてもらえます? 鎖たるんじゃってるんで」


 ナウラは両手首を鎖で縛られ、天井から吊り下げられてる。といっても、足の下に透明な台があって、その上でつま先立ちになってるだけだから痛くも苦しくもない。


「ナウラに傷がつくようなことは禁止なのよ」


 イカばあさんが言う。


「けど、お客様が勘違いするから暴力はダメだって」

「ああ、このコーナー、妄想グラビア館ってタイトルなんで」


 ナウラ側の編集者が言う。なんだその微妙に昭和っぽいタイトルは。


「ナウラさーん。もうちょっと苦しそうな顔で」


 言われてナウラは恐怖に怯え、痛みに引きつった顔になる。なかなか説得力がある。


 撮影が進むと服がビリビリに破かれて、ウチの衣装兼メイク部が傷に見えるようなメイクを魔法で施すと──。


「じゃ、掛けまーす」


 ウチのスタッフがバケツ一杯の血をナウラにぶっかける。


「いい! いいよー。今度は後ろを見るように。そうそう。じゃ、こっち向いて。苦痛の中にある一筋の快楽みたいな顔、そーそー」


 いろんな表情やポーズ、アングルが撮影される。


「はい。お疲れ様でした!」


 拍手が起こり、とうとう終わった。ナウラは楽しそうに笑うとグルリと目を回してからアゴ引いて上を向き、舌を出す。

 あー。なんかこれアメリカ人がおどけたときによくやるやつだ。ソースはハリウッドドラマ。ナウラ、こういうのどこで憶えてくるんだろ。


 ナウラはシャワー浴びに行くっていうことで、みんなを従えて出ていった。


「アガネアさんも再開しましょう。ちょっと時間押しちゃってるんで」


 編集者が言う。んなこた知ってんだよ。誰のせいだと思ってんだ。


「まずは昼食シーンで、それからシリアルキラーを殺しに行ってもらいます」


 アっー!?

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