方法42-2︰密着アガネア24時(ヤラセと演出は違います)

「アガネアさんとナウラさんと、基本は別枠なんですけど、どっか交差する場面があってもいいかなーと」


 軽いノリで編集者が言う。

 そんなこと言われたって、うちのフレッシュゴーレムたちはナウラを見てできるだけもう学習しちゃってるわけで、ぶっちゃけワシが教えることはもう何もない。

 あとは脳をいじるか同キャラを組み合わせて覚醒なり限界突破なりしてもらって、知能とか学習能力とか高めないと伸びないだろう。55段階式でさえどうにもならん気がする。


「特にどうなればいいとかないんで。やってる感が出てたらオッケーです」


 やってる感て……。普通にやってもそんなもん出ないんだが?



 どうしたもんかと思ってるうちに、ナウラがやって来た。向こうは取材スタッフ三人に広報室長、イカばあさんまでいる。あと、監修される役のフレッシュゴーレム。リッキーって呼ばれてる、ラテン系男子だ。


「ハイ! アガネア。そっちはどう?」


 言いながらナウラは近づいてくると、ワタシに正面から体を密着させた。おまけに左腕を背中に回してくる。

 お!? ハグか? ハグすんのかコノヤロー。とか思って両腕を広げたのがマズかった。ナウラのゼロ距離パンチが脇腹にめり込む。


「おぐうっ!?」


 え? ちょっとどういうこと!? って思いと、悪魔のフリしてんだからダメージ通ってない感じでお願いします自分、という理性からの指令が同時に渦巻く。現場は大混乱。

 とりま殴り返そうとしたらイカばあさんの声が飛んだ。


「やめてちょうだい! ナウラは悪魔ほど丈夫じゃないのよ! それに他のお客様が記事見て真似されたらどうするの!?」


 しかたなく、ワタシは左の脇腹にナウラの拳を受け止めたまま抱きしめる。両方のカメラマンがここぞとばかりにワタシたちを撮る。

 なるほど。ナウラは取材を意識して、“悪魔+親密度マックス=暴力”っていう、何度見ても左辺と右辺が一致してなくね? って感じるアレをやったのか。

 にしてもホント痛い。ガマンしてるせいでよけい苦しいし。


「ナ、ナウラ。暴力ふるう、ときは、ためらった、ほう、が、人間らしい」


 ワタシはどうにかナウラに伝えると、その髪に顔を埋めて、思いっきり顔を苦痛に歪めた。ナウラの髪はバラ水の香りがして、首筋から漂うほのかな汗の匂いと混ざって何かがワタシの中で目覚めそう。クンカクンカ。



 さて、どうしようか。とりあえずナウラに最初やらせたみたいに、注文取って料理運ぶのやらせてみたけど、特に言うことはない。

 注文受けたとき、ただ閉じた口の両端をきゅっと持ち上げて、うなずいてみせたあたりなんかも良かった。

 フレッシュゴーレムはあんま賢くないから、下手に喋るより魅力的に見える。


「よし。100点」

「ありがとうございます!」

「リッキー、やったじゃない!」


 笑顔のフレッシュゴーレム二人。一方、他の悪魔たちは渋い顔だ。


「あの。それだけだと、ちょっと……」


  編集者に言われる。チッ。やっぱダメか。うーん。どうしたものか。


「あのさ、リッキー。お客様のお皿やグラスが空だったらどうするかやってみて」


 リッキーは少し緊張しながらワタシのところに来る。


「やあ、どうしたんだい? お皿もグラスも空じゃないか。おかわり持ってこようか?」


 なんか違う……。“空いた食器お下げしましょうか?”じゃないのか。

 あ、でもウチの接客マニュアルだとこうなのかも。“ご一緒にポテトはいかがですか?”的な。いるなら先に頼んでるっつーの。


「そのヒゲ、似合ってるじゃない」


 リッキーは無精ひげみたいなのを生やしてる。


「ありがとうございます。よく言われます」


 照れたように微笑むリッキー。


「それに笑顔もカワイイし」

「ありがとうございます。よく言われます」


 ん? ワタシはいくつかリッキーのことをほめてみた。結果、さっきのやつと“そんなこと言われたの、はじめてです”の2パターンしか返しがないことが判った。


「あのさ。これもっと増やした方がよくない? 一人ずつ専用のセリフ用意したほうがいいし」


 ワタシはイカばあさんに言う。


「解ってはいるのよ。でも、人間らしいセリフ考えるの大変なのよ」


 それもそうか。けど、どうしたら……。ふとワタシは思いついてサロエを呼ぶ。


「サロエ、サロエ」


 って、あれ? いねえ!?


 もう一度大声で呼ぶと、サロエは厨房から小走りで戻ってきた。なんか口モグモグさせてる。唇の周りが脂でテカってるけど、カワイイからまあいいや。


「呼びました?」

「今度リレドさんとこ行って、なるべくたくさん人間の恋愛小説借りてきて」


 洋モノならこんなときにピッタリのセリフもいろいろ載ってるはず。

 ワタシはイカばあさんに、本が来たら使えそうなセリフを抜き出してそれ使うように頼む。


“へいへいよー。あなた、どうしてこういうとき以外は頭悪いの?”

“日常系に向いてるんじゃないの? あとワタシ、つねに頭脳明晰だよ”


 このあたりは監修してる感が出てたみたいで、今度はオッケー出た。いやぁ、社畜値が上がるから悪いクセだと思うんだけど、仕事のこととなるとつい本気になっちゃうんだよね。我ながら困ったものだよ。ハッハッハ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る