方法40-2︰どっこい生きて……死んでる!?(不意に事故りましょう)

 けっきょくサロエ以外には警報が反応しないことだけが確認できたところでワタシたちは解放された。

 それで疲れ果てて部屋に戻ったところでヘゲちゃんとのことを問い詰められてるこの素晴らしいワタシに女神の祝福を。


 それにしても、あらためてヘゲちゃんには腹が立つ。現場検証にも姿を見せなかったし。

 ワタシは寝たふりを続けるベルトラさんを起こした。


「ヘゲちゃん、なんで来なかったんですかね?」

「そりゃ、あれだ。警備がいるからに決まってるだろ。そんななんでもかんでもいちいち副支配人が立ち会う必要なんてない」


 それはそうだろうし、ヘゲちゃんならそもそも現場に来なくてもその場の様子は見られるんだから、なおさら必要なんてないと思う。けど、そういうことじゃないじゃん。


 喧嘩する前のヘゲちゃんならスライム倒すまでは警備に活躍ゆずるにしても、終わったらすぐ現れて“アガネア、大丈夫? ケガはない? 心配したんだから”とか言って痛いほど強く抱きしめてくれてたはず。

 で、ヘゲちゃんゴリラだからアバラにヒビが入ったりしてね。(短期間で二人のこれまでが美化されたもよう)


「それで、あれって弁償とかないですよね?」

「本当にサロエのアクセサリーが原因かはともかく、誤作動ならタダで新品と交換ってことになるだろうな。今度、呪われたアイテム集めてテストするらしいぞ。それでダメなら妖精悪魔に来てもらうんだと。こっちとしても誰が払うかはともかく、なるべくなら代金なんて払いたくないからな。できるだけ原因を調べてみるんだそうだ」


 よかった。さすがにこれ以上借金が増えたらどうしようかと。

 サロエもベルトラさんの話を聞いて安心したようだった。


「なにか私にもできることがあったら言ってください」

「「なら解呪しろ」」

「それ以外でお願いします」

「他にないでしょ。なんならあんたが寝てるあいだにやっておこうか」

「いくらガネ様でも、そんなことしたら実家に帰らせてもらいます」

「いいじゃん。新しいの買いなよ」

「そういう問題じゃありません。これは私が万物市場に通いつめて見つけた、苦労の結晶なんです」

「けどさ、みんなワタシに遠慮して言わないけど、あんたの放ってるそれ、けっこうキツいからね?」

「そんな人を臭いみたいに言わないでください」


 しばらくサロエをいじって遊んでいると頭の中で声がした。

 これは……! ガイアがワタシに語りかけている……!?


『へいへいよー』

『へいへいよー。ヘゲちゃん? なに?』

『他に誰があなたなんかに念話するの?』

『えっと、大いなる意思、とか?』

『相変わらずくだらないこと考えてるのね』

『は? ちょっと人が友好的に出たら調子に乗って……』

『そういうのいいから、今すぐ三人でアシェト様の部屋に来て。私はこの前の侮辱を許したわけじゃないの。これは純粋に業務上の連絡よ』



 ワタシとサロエ、ベルトラさんの三人はアシェトの部屋へ向かった。中へ入るとヘゲちゃんとアシェトがいる。おお、ワタシが脳内で勝手に結成した“チーム百頭宮アガネア”が勢揃いじゃないか。なおヘゲちゃんは脳内手続きが済みしだい、除名の予定。


「さっき情報が入ったわ。争奪大会の勝者が決まったみたいよ」


 とたんに緊張した空気が漂う。


「勝者は並列支部。執念の勝利ね」

「でも、なんで急に?」


 並列支部以外に三つ残ったところで膠着状態になってたはず。たしか残ってるのは“にこやか健康会”、“空虚なる封炎の絶叫創生支部”、“前記派”。いずれも最大派閥だ。

 前記派はともかく残りが敬老会みたいなのと厨二病ってどういうことかと思うけど、事実なんだからしょうがない。


「さっき、健康会が創生支部に襲撃されて敗れたの。どうも創生支部は前記派の支援を受けてたらしいわ。それで勝った健康会がその場で並列支部に即時降伏して終わり」


 んん? 敗れた健康会が勝って降伏して終わり? なにを言ってるんだコイツは。


「健康会は敗れたのに勝ったんですか?」


 サロエが質問する。さすが我が従者。主人の考えが解ってるじゃないの。ワタシたち、いいコンビになれそうね。


「要約して話すと──」

「おっとヘゲさん。ここはあたしが」


 解説の機会は逃さない女。それがベルトラさん。それにヘゲちゃんが込み入った話を説明すると、理解するのにかなりの手間暇がかかる。ヘゲちゃん初心者にして理解力難アリ女のサロエでは混乱するばかりだろう。



 残ってた三つの支部は、失礼な話だけど、そもそもワタシを加入させるのにそこまで熱心じゃなかった。協会内の序列争いって面があったから参加してただけだ。


 当初の想定では最大派閥のこの三つのうち、勝ったところが実質ナンバーワンになるはずだった。並列支部は規模が小さく、たいした戦力もないから、無傷でどうにでもできるって思われてたのだ。


 ところが、並列支部は謎の資金源によってけっこうな規模の軍隊を持つようになった。


 こうなると話が違ってくる。健康会、創生支部、前記派。どれも並列支部に負けることはまずない。けど無傷ってわけにもいきそうにない。それどころか、万が一で負けでもしたら大損だ。

 そもそも三つの支部はお互い実力が近い。よそに勝って並列支部への挑戦権を得るには少なからず犠牲が出る。

 つまりみんな、ヘタに他と戦って損失出して、さらに勝ってヤル気満々の並列支部とは戦いたくないって考えたわけ。


 こうしていつの間にか、争奪大会は“勝ったら勝ち”じゃなくて“勝ったら負け”みたいな空気になり、各支部はどうやって最小限の犠牲で相手を勝たせるか考えるようになった。

 これが膠着状態の正体だ。


「ワタシが目当てじゃないにしても、もっとみんな積極的な気持ちで戦ってほしかったんですけど」


 ベルトラさんの説明にワタシはボヤいた。


「もともと“協会内の序列を決める”ってのが自発的なものじゃないからな。仕方ない」

「いくらあなたを加入させたいからって、並列支部があそこまでやるなんて完全に予想外よ。いったいいくら注ぎ込んでるんだか。尋常じゃないわ」


 前にケムシャに従う悪魔、張姉妹が言ってた言葉を思い出す。


“私たちの支部長は変わった悪魔のことになると、少し頭がおかしくなるのです”

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