方法38-9︰なにか金融道(責任は果たしましょう)
そして1カ月が経った。ワタシとヘゲちゃん、アシェトは応接室でマルコと向かい合ってた。
最初にアシェトがアゴをクイッと動かすと、ワタシはテーブルの上に箱をおいた。フタを開けると、中には100ソウルズごとに束ねたものが10個。
「現金で1000ソウルズ。来てそうそうだけど、これ持って帰って」
「そうしろとは言われてるが、こりゃなんだ? 分割払いにでもしたってのか?」
「いいえ。あなた達が手にするのは、これで全部」
するとヘゲちゃんが口を開いた。
「サロエの債権は百頭宮が1000ソウルズで買い取りました。これが証書です。何も知らされてないんですね」
ヘゲちゃんは一枚の書類を取り出す。
「ちょっと待ってろ」
しばらく無言になるマルコ。念話だろう。
「本当らしいな。けど、アガネアさん。あんた、返済のメドが立ちそうだって言ってただろ。なんで上は1000なんかで債権手放したんだ?」
「さあ」
ワタシが肩をすくめると、またヘゲちゃんが言う。
「あなた方が回収しようとしていたのは最初の100年ほど。あとは放置でコストが掛かっていません。また、これからあれこれ手間がかかるよりは、元々80だったものが1000になるのだから、早く手放したほうがいい。そう判断したようです。それに、返済のメドがたったのはつい先程。売買契約が成立した後のことです」
ワタシは新アトラクションとロケテストのこと。それがさっき終わって、集計したら売上好調だったことなんかを説明した。
マルコはロケテストのあいだミュルスにいないでよその街で仕事をしてたらしく、このことを知らなかった。
「あんなとこに金払って行きたがるやつがいるなんてな」
「マルコも、取り立てのときじゃなければなかなか楽しめてたんじゃない?」
「そういうもんかね」
マルコは1000ソウルズあるのを確かめると、箱を手にして立ち上がった。
「じゃあ、これで終わりだ。アガネアさん。あんたはもう少しあがくと思ったんだがな。せいぜい、新アトラクションで借金返済に励んでくれ」
こうしてマルコは帰っていった。なんとも呆気ない。
「取り立て屋にはああいうやつ多いよな。取り立て絡みのいざこざに魅せられてるっつーか」
アシェトが言う。
「けど、あいつはたいしたことねぇな」
「そうなんですか?」
「ああ。なんせあいつんとこは金貸しだが、高利貸しじゃねえ。普通の金貸しだ。そんな忙しくないはずだぞ。もっとイカれてんのは高利貸しんとこにいる。だから、ま、ヘタレだ」
ヘタレ……。ワタシがあれほど苦しめられたんだから、せめて手強い奴だった、くらいのことはウソでも言ってほしかった。
だいたいやっぱおかしいと思う。
普通、主人公がギリギリまで精神的に追い詰められて、ドン底で無力さを噛み締めてそこから逆転、人間的にも成長するって展開はもっと1巻まるごと使うようなドラマチックで熱い場面なわけでしょう?
なんでこんなしょっぱい金貸しマンガみたいな流れでそうなるわけ。相手の悪魔の奥の手が“嫌がらせの街宣”だよ!?
サロエを身売りさせずに済んだし、お店やら妖精悪魔にも迷惑かけずに済んだのは良かったけど。
そりゃあワタシ、主人公じゃないよ? 人間的にも成長してないけどさ。それってこういう展開のしょっぱさのせいでもあると思うの。
でも、いいんだ。これでワタシはサロエにとっては英雄。小さいことかもしれないけど、ワタシにとってはこれで充分。
よし、部屋に戻ってサロエとイチャイチャしよう。これだけのことしたんだから、まさか嫌とは言うまい。ベルトラさんにはライネケのとこにでも行ってもらうとして……。
「ただいまー。上手く行っ──あれ?」
サロエもベルトラさんもいない。今ワタシに必要なのはあの二人の暖かい癒やしなのに。
そこでふと、ワタシは一枚のメモに気がついた。
“スタッフホールに来てください”
ははあ。なるほど。きっと二人っきりでささやかな祝勝会をするつもりなんだ。
お金がないからお酒や料理は第2厨房の安いやつですが、その代わり百頭宮の上の部屋を取ってます。軽く一杯やったら部屋へ行って、朝まで寝かせませんよ、ってな感じとか。いやあ、こりゃたまらないねどうも。(開放感から急激におっさん化が進行中)
そんなわけで、ワタシはのこのこスタッフホールへ。けど、おかしい。明かりが消えてる。
そのとき、パッと明るくなった。
「ガネ様、ありがとうございます! それと、おめでとうございます!」
そこにいたのはサロエだけじゃなかった。ベルトラさんにギアの会のみんな。広報部と企画部のみんなも揃ってる。さらにはヘゲちゃん、アシェトまでいる。
えっと、これ。……最終回?
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