方法38-8:なにか金融道(責任は果たしましょう)

 アシェトはワタシの話を最後まで黙って聞いてくれた。それから目をつぶってしばらく考える。


「まず一万ソウルズ立て替え。これは難しいな。知ってるだろ。いまウチは何かと物入りなんだ」

「お店じゃなくて、アシェトさんのお金は」

「それもずいぶん突っ込んでんだよ。一部は今後のために取っとかなきゃならねえし。だいたいそれ、必須ってわけじゃねえよな?」

「そう、ですけど……。じゃあ、それは諦めます」

「いや。諦めるこたぁねえ。言っただろ。ウチはいまカネが必要なんだ。立て替えは無理だが、他にやりようはある。サロエの借金は減らないけどな。まあ、任せとけ。それにお前の心意気、私そういうのは嫌いじゃねぇんだ」


 アシェトはニッと笑った。


「それと本題の方な。そっちは、そうだな。一カ月くらいロケテストやって、その実績が見たい。マルコと取引することになっても、多少はデータがねぇと乗ってこねえだろ。すぐにできるって話だったよな。じゃあ、ヘゲとブッちゃんと相談してなるべく早く始めろ」

「ありがとうございます!」


 ワタシはアシェトに頭を下げた。まだなにも始まってないけど、それでもスタートする見通しが立ったおかげで気が緩み、ぶっ倒れそうだった。



 ワタシが考えたのは単純なこと。ティルはアトラクションが当たって借金を返せた。なら、同じような方法で借金が返せないだろうかってことだ。

 あれこれ悩んだけど、結局ワタシの場合は普通に返済するのが一番いいんじゃないか、ってのがベースの発想だ。


 アイディアはすぐに浮かんだ。世界で百頭宮にしかない、他がまねできないアトラクション。名付けて“ポケットディメンション チャレンジ”。

 その名のとおりサロエのポケットディメンションに悪魔を送り込んで、ダンジョン踏破を楽しんでもらうって企画だ。ティルと戦うアトラクションだってウケたんだもの。これもけっこう期待できるはず。

 ためしに尋ねてみたら、ヘゲちゃんもベルトラさんも、あれがアトラクションなら楽しめたと思うって言ってたし。


 ポイントは1回ごとの単発課金と年パスの販売。タイムアタックの導入とランキング制度。ソロの部とパーティの部も分ける。

 これでリピーターが増えれば、多少かもしれないけど百頭宮自体の売り上げも上がる。


 もう一つのポイントが“ワタシとサロエが百頭宮の一角を借りて営業する”ってところ。サロエは百頭宮の従業員じゃないし、こうすれば多少の経費を払えば、あとはワタシたちの取り分だ。ただし、この利益には使い途がある。


 本当はだれが最初に出てくるか賭けもさせたかったんだけど、これは第二娯楽都市、ギャンブルの都ヘリオス=オルガンと戦争する気がないならやっちゃダメらしい。

 “いつかあいつら潰して、ウチがギャンブルも独占するけどな”なんてアシェトさんは笑ってたけど。


 これがメインの提案。ロケテストが必要って言ってたのはこのことだ。

 そしておまけの提案がもう一つ。


 マルコのところの借金を全額立て替えてもらう代わりに、ポケットディメンション チャレンジからワタシたちが受け取る利益は全額、百頭宮へ払う。返済額に関係なく、アトラクションが続く限りずっと。これが取り分の使い途だ。


 これはアシェトも言ってたけど、必須じゃない。普通に利益からマルコたちに借金を返していけばいいわけだし。

 けど、ワタシはマルコたちへ直接お金を渡したくなかった。気持ち的には“死んでも絶対イヤ”くらいに。

 それくらいならいずれ借金の額を超えるにしても、アシェトたちに払った方がマシだ。つまりこれは、ワタシの意地でしかない。あ、いちおうサロエも賛成してはくれた。

 アシェトが言う“心意気”ってのはそういうこと。立て替えは無理だって言われちゃったけど、他のやりようってどうするんだろ。


 アシェトとの結果を話すと、サロエはワタシの手を握って喜んでくれた。


「ガネ様、すごい!」


 ベッドの上で膝立ちになり、軽く跳ねる。こういうのが自然と似合う。


「アシェトさんから一発で許可取るなんて、なかなかたいしたもんだ」


 ベルトラさんも褒めてくれた。

 けど、これでようやくスタート地点。ロケテストの結果が悪ければ、いよいよどうしようもない。それでも、あの日からワタシを苦しめていた重たいものが、軽くなるのを感じた。



 ロケテストの開始は三日後に決まった。ワタシは仕事の前後に企画部のブッちゃんと打ち合わせをしたり、マルコに返済のメドが立ちそうだから一ヶ月待ってくれるよう手紙を書いたり、準備を進めた。サロエも仕事が終わってからフライヤーやポスター作りをした。


 一番時間がかかったのがPV作成。なにせ魔界初のアトラクションだし、言葉で説明するより観てもらった方がいい。

 これはベルトラさんとヘゲちゃんに土下座して、それぞれ記録石を持ってポケットディメンションに行ってきてもらった。

 これで近接戦メインと魔法戦メインの映像が撮れるし、ダンジョンも魔物も毎回違うってアピールにもなる。


 予想外だったのは様子を見に来たアシェトも撮影に参加してくれたこと。


「私も永く生きてきたけど、妖精悪魔のポケットディメンションなんざ行ったことねえ」


 ヘゲちゃんやベルトラさんが2〜3時間掛かったところを、アシェトさんは半時間くらいで出てきた。中の時間で1日と少しだ。

 映像を観て驚いた。アシェトはどんな魔物に遭っても歩くペースをゆるめない。魔物は足元へ現れる黒い光に飲み込まれ、近づくこともできずに消える。

 宙に浮いてる魔物も、後ろから黒い光が現れたかと思うと、同じように消えた。

 広い部屋の中に何体もの魔物がいたときは床全体が黒く輝き、一斉に姿を消した。


 ベルトラさんの解説によると、強烈な万能属性の広範囲攻撃はアシェト含めて一部の擬人しか使えない。特にアシェトはそれが得意で、黒い光の他にもいろいろ持ってるってことだった。


 おまけに、まるでスタートからゴールまでの道を知ってるみたいに少しも迷ってない。本人いわく勘らしいんだけど。


 こうして集めた映像素材へ文字やなんかを組み合わせて5分ほどに編集してもらうのに、準備期間のほとんどを使った。

 完成したPVはなかなかよかった。本当はもっと作り込みたかったけど、準備期間を考えたらしょうがない。


 こうしたことの諸経費は今回、ワタシの負担だ。けどこれはさすがに後精算ってことにして、ロケテストの売上から支払うことにしてもらった。


 そしてとある日曜。いよいよロケテストが始まった。

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