方法38-5︰なにか金融道(責任は果たしましょう)

 ワタシはサロエとヘゲちゃん、ベルトラさんとリレドさんたちの所に来ていた。前回と同じ部屋に、妖精悪魔が勢揃いしてる。

 なぜかアシェトも一緒に来てる。リレドさんに挨拶したいってことだったけど、たぶん最近出番少なかったせいだと思う。


「リレドさん。お久しぶりね。たまにはウチにも来てくださったらいいのに。でも、アガネアがその娘を従者にさせていただいたおかげで、これからはもっとお付き合いさせていただけそうね。あ、これはお近づきの印に」


 アシェトはワンドリンクサービスチケットくらいの気軽さで、リレドさんの手にグレーターVIP招待券を握らせる。

 最近すっかり招待券配りのおばちゃんと化してるアシェト。今後の活躍にご期待ください! まあ活躍より、自分の心に正直に行動してワタシを窮地に立たせてくれたことの方が多いけどね。


「リニューアルのレセプションにも招いてもらってるのに。サロエが迷惑かけてないといいんですが。あ、これはお持ち帰りください」


 リレドさんがアシェトにフェ・ロワのボトルを渡す。


「まぁ、こんないいウイスキーを。かえって気が引けますわね」


 とかなんとか、二人は社交辞令を繰り広げた。


 そのあとワタシがこれまでのことを説明すると、リレドさんはそれまでのなごやかな態度から一転、厳しい顔で頭を下げた。


「まさかこいつにそんな借金があったなんて知らなかったよ。このとおり。謝る。もし引き取って欲しいって言うなら、このままこちらで引き取るから」

「そういうつもりで来たわけじゃないんです」


 その言葉に一番驚いてたのはサロエだった。


「え!? 私をここへ置きに来たんじゃないんですか!? 私てっきり」

「そんなわけないでしょ」


 ワタシは安心させるようにサロエへ微笑みかける。ニタリ。

 振り回されてばっかりだけど、ワタシはわりとこの、ゾクセイオオモリカワイメノロイマシマシな従者を気に入ってるのだ。


「そもそも本当に借金があるかも判らないんだし。ここにはあなたの借金について誰か何か知らないか、確かめに来たの」


 もし記録があるならうっかり流出しないうちに処分したいし、誰かが知ってるなら口止めしたい。


「もちろん、できるだけの協力はするよ。といっても、わたしには心当たりがないけど」


 他の妖精悪魔たちも首をひねってる。よしよし。これなら大丈夫そうだ。


「900年以上も前のことだから、無理もないですね。もし何か思い出したり見つかったら、必ずワタシに教えてください」


 そっと闇に葬るから。なぁに。万が一にも流出してピンチにならないための保険だよ。


「900年前といえば、モンツァ=オルガンからどこかへ引っ越したころでしたか」


 ドワーフ似の妖精悪魔が言う。


「ロロウかヤクベトかのどっちかじゃなかったっけ」

「あの頃は詐欺集団呼ばわりされて大変でしたな…………あ?」


 ヤバい。ドワーフなんか余計なこと思い出したクサい。いいから。そういうのいいから! とにかくここはスルー一択──。


「どうかなさいまして?」


 ね? ほらアシェトだから。余計なことでクリティカル出すの得意だから。なんかこっち見てニヤニヤしてるから。


 ドワーフは失敗したことに気づいてるのか、ワタシの方を心配そうにうかがった。もちろん睨み返してやったとも。


「私、接客業が長いでしょう? だから嘘とか誤魔化しとか、そういうの見抜くのが得意なの。あなたはどうかしら? 隠し事とかないかしら?」


 ドワーフの頭を両手でそっと挟み、その瞳を覗きこむアシェト。いまにも口づけしそうな雰囲気だけど、実態はゼロ距離からのプレッシャー。


「うあ。え、あ、その。なにぶん昔のことでして。少々調べてまいります」


 “いい子ね”みたいな顔で微笑むアシェトから解放されると、ドワーフはよろよろした足取りで部屋から出て行った。

 ありゃもうダメだ。アシェト派に堕ちたわ。


「それで、サロエはちゃんとやってるかい? つまり、サロエなりに」


 リレドに尋ねられる。


「広報の仕事を手伝ってくれたりして、ワタシの名前を高めるのに貢献してくれてますよ。見てて飽きないですし」

「そうか。ならよかったよ。キミの従者ってことで実用性よりエンタメ性を重視してみたんだ」


 なんでその基準なのか気にはなるけど、たしかに有能な秘書タイプとか参謀みたいなのを寄越されても持て余してたろうし、正しいチョイスなんだと思う。


「借金が本当ならどうするんだい? もし返すならこちらの不手際なんだからこちらで負担したいところだけど、さすがに1万ソウルズも出すと資金繰りが……。もちろん分割なら組めるだけの予算を組むけど」


 情けなさそうに言うリレドさんは、まるっきり中小零細企業の社長だった。

 たぶんここ、有名なウイスキーメーカーっていっても大手じゃないんだろうな。そんな気はしてた。


「なるべく返さないで済ませたいって考えてます。だから、ここに借金の証拠になりそうな情報がなければ強気でゴネやすいと思ってるんですけど……。もし払うことになったら相談させてもらうかもしれません」


 ドワーフの顔が浮かんで、つい皮肉っぽくなる。


「とにかく、どういう結果になってもサロエを見捨てたりはしませんよ」


 キリッとした顔で宣言する。どう? どう? 頼れるご主人さまをサロエ見てる? ちゃんと好感度上げてよね。

 ワタシはさりげなくサロエを確認する。きっと感極まった顔で目をうるませてるか、うつむいて顔を赤くしてるはず……。


 うん! いない!! なるほどね!!!


 見ればサロエは離れたところで仲良しっぽい妖精悪魔たちとキャッキャしてた。

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