方法36-1︰愛され上司になりたい(やる前によく考えて)
サロエが来て1週間が経った。広報部で働く件は割とあっさり決まった。再建とリニューアル絡みでとにかく人手が足りないんだとか。
とりあえず3ヶ月の試用期間があって、そのあいだに問題がなければ本採用。とにかく余計な仕事を増やしさえしなければいいらしい。
全体朝礼での紹介も終わり、ギアの会の緊急お茶会でも挨拶させて、とりあえず一段落。“実家”から届いた荷物はほとんど服だった。
サロエはフリーダムすぎる言動とむらのある集中力、いつも楽しそうな態度でなかなか見てて面白かった。
全体朝礼の自己紹介のときいきなり歌って踊ったり、閉店後の見回りしてた警備員を謎の魔法で遭難させかけたりと、いろいろやらかしてはいたけど。
一度、スタッフホールでアシェトの幻像を作って寒い一発ギャグをさせだしたときは流石にベルトラさんと一緒に止めた。
何日か一緒に過ごして解ったのはサロエが陽気で遊び好き、ワタシや他の悪魔からしたらイタズラみたいな行動も悪気ないし冗談のつもりでしかないってこと。
まあそれって、限りなくいじめっ子の思考パターンに近いわけだけど。その意味では百頭宮イチの危険思想の持ち主かも。
ただ仕事ぶりは(集中力が向いてるときは)真面目だし、なかなか腕もいいらしい。フィナヤー情報だからどれだけ本当か迷うにしても。
それに悪ふざけみたいなのもサロエに嫌がってることが伝わるようハッキリ言えばすぐやめて謝る。
ヘゲちゃんは妖精悪魔一般の話と、ここ数日観察したサロエの行動から対処マニュアルを作ってるらしい。監修メガン。近日配布予定。
最近知ったんだけど、メガンの“副支配人代理”って役職の主な仕事は、ヘゲちゃんの独特すぎるセンスを常識的なものに翻訳するってことだそうだ。出番はわりとちょいちょいある。
いかにも万能属性の才女ぶってるけど、ヘゲちゃんもいろんな悪魔の犠牲に支えられてるんだなぁ。
そんなこんなでサロエの新生活は本人的には順調にスタート。一方、ワタシはスッキリしない気分でいた。
まず、従者ってなんなのか解らなかった。何させればいいのかも。
けどこれは、あっさり解決した、ようなしてないような。ワタシ的通り名が“解説ハイツモノ”になりつつあるベルトラさんのおかげで。
「従者ってのは決まった役割がない召使いだ。だいたい主人のそばにいて言われたことはなんでもする。アシェトさんにとってのヘゲさんみたいなものだな」
つまり、これが正解、みたいなのはない。けどそうなると、よけいワタシはサロエに何させたらいいのか解らない。
もう一つ気になってるのが、サロエの本心。サロエがワタシのことほとんど何も知らないのは確か。
いくらよそで暮らしてみたいと思ってて、ボスに命令されたからって、いきなりそんな悪魔の従者にさせられるなんて普通はかなり嫌なんじゃないかと思う。
けどサロエは今の暮らしをすごい満喫してるみたいだし、正直、どんな気持ちでいるのかよく解らない。もしかしたら表に出さない闇や病みなんかがあるんじゃないだろうか。
ケース1︰ベルトラさんのご意見
ウチならアシェトさんに言われるようなもんだ。嫌もなにもないだろ
それに大事なのは今どう思われてるかじゃなくて、こらからおまえが主人としてどう忠誠と敬意を勝ち取ってくかってことだと思うぞ。
まったくもって正論だけど、そんなことできる気がしない。
ケース2︰ヘゲちゃんのご意見
私だったらあなたの従者なんて恥辱死だけど、あなたを知らないならそうね……。とりあえず厳しかったり面倒臭そうな主人じゃなくて良かったと思うでしょうね。
そもそもあなた、サロエを従者っぽく扱ってないでしょう。関係に悩む以前の段階よ。
これも正しいけど、ワタシが悩んでるのは“じゃあどうすればいいのか”ってこと。
ケース3︰アシェトのご意見
なんでそんなこと気にしてんのかわかんねぇな。どう接したらいいかの参考にしたい? じゃ嫌われてんならどう接するってんだよ。
だからあいつがどう思ってるかなんて気にしてもしょうがねぇと思うぞ。だいたい主人と従者の関係なんてそれぞれだ。大事なのはナメられるな、憎まれるな。それだけだ。
それでも気になるってんなら、あれだ。一度二人で飲みに行って、腹割って話しゃいいんだ。グレーターVIP招待券? ありゃそう安々とバラまくようなもんじゃねぇ。自腹切れ、自腹。
アシェトのアドバイスは豪快にもほどがあったけど、いちおう具体的にやることご含まれてた。
飲みに行く、か。過去にそれでヘゲちゃんとティルが和解したっけなあ。試してみてもいいかもしれない。
サロエもお酒は好きなはず。最低でも好感度のアップは期待できるかも。
ネドヤでちまちま倹約してたおかげで、アシェトにもらったお金はまだ残ってる。従業員割引のない百頭宮でおごりる思い切りはないけど、第2厨房でならまあ、いいか。
サロエに声をかけると、かなり喜んでくれた。そんなわけでワタシたちは仕事終わりに、軽く一杯やることになった。
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