方法35-2︰これはアホの娘ですか?(ちゃんと世話しましょう)
アクセサリー外せと言うベルトラさんにサロエはまさかの拒否。
これちちょいとばかし締め上げて、教育してやる必要がありますね。あ、なんなら釘バット取ってきやしょうか? ゲヘヘヘヘ。
というようなことを視線でベルトラさんに語りかけてみたけど、ベルトラさんは胃が痛そうな顔をしただけだった。
そりゃそうだよ。ベルトラさん、人格者だもん。ちょっと反抗的な態度取られたからって締め上げるなんて、どこぞのアシェトさんや蛮族みたいなマネするわけない。ベルトラさんに失礼じゃないの!
これぞ忍法、変わり身の術。変わり身の早さには自信があります。アガネアです。
「で、取れないってのはどういうワケだ?」
「私アクセサリーとか好きで、よく万物市場の露店とか行くんですよ。そしたらたまーに、すっごくいいのにすっごく安いのがあるんです。不思議なんですけど、そういうのに限って着けたら取れなくなっちゃうんですよね」
えっと……もしかしなくてもアレだよね。
「おまえそれ、呪われたアクセサリーだろ」
「やっぱりそうなんですね! みんな相談しても微妙な笑顔になるばっかりで」
ひょっとしてこの娘、知能がフレッシュゴーレム並なんじゃあ……。そんな気はしてました!
「そうか。なるほど……。いやな? こいつから異様に禍々しい気配が漂ってくるだろ。あれ、アクセサリーにこもった呪いのせいだったんだな。ひとつひとつの気配は弱くても、あれだけ集まれば。お互い増幅もしてるだろうし。普通は身に着けた奴に不運をもたらすんだが、妖精は生まれつき莫大量のラックを持ってるっていうから、それでマイナスにはなってないんだろう」
とうとう誰も質問してないのに自分から解説しだしたベルトラさん。最初のころほどワタシも質問しなくなったから、欲求不満なんだろうなあ。
けど、そういうことしてると中ボスあたりに真っ先にやられて、けど決して死ぬことはなく、以後、解説とリアクションに徹するポジションになりがちだから気をつけてくださいね?
とはいえ、ここは何か質問するのが優しさだろう。
「そういう呪われたやつって、むしろ高そうな気がするんですけど? 白雪姫の毒リンゴみたいに使えそうで」
「呪われても解呪できる。おまえの言う用途なら即効性のある強烈なやつじゃないと。そういうのは普通に高いぞ。それも発動前に魔法で調べられるし。サロエが着けてるようなのは何かの理由で自然と呪いを帯びた天然モノだ」
ベルトラさんは満足そうにひと息。サロエはワタシたちの話をほんほん、ふんふんと熱心に聞いてる。
「呪いじゃないかって気がしてたんなら、解呪できるやつに調べてもらったら良かったんじゃないか?」
「別に困ってないですし、解呪したら消えちゃうんですよね?」
「そうだ」
「それはちょっと」
自分で自分を抱きしめるようにするサロエ。
「いったん解呪して、アクセサリーはまた新しいの集めたらいいじゃない。……それ、伝染らないよね?」
「けどこういうの普通はすごく高いし、気に入ってるし思い入れもありますから」
うーん。説得は難しそうだ。あと、答えてくれなかったけど呪いが伝染るなんてことないよ、ね?
「伝染るようなものじゃないが、とにかくそのままだとウチの厨房で働かせるわけにはいかないぞ。食材も異様な空気のせいで落ち着かないみたいだし」
「あ! 今日、生きてるのが妙に猛々しいと思ったらそういうことですか!」
話をまとめながら、さりげなくワタシの疑問も拾ってくれるベルトラさん。もはや無意識のレベルなんじゃないか。
「かといって、未経験者歓迎でそれなりに稼げそうなのはホステスくらいだしなあ」
ベルトラさんは腕を組んで考え込む。
もしかしたらお客さんにウケそうな気もするけど、ワタシもいきなりサロエに接客させる度胸はない。
「ここじゃウイスキーの醸造なんてやってないし」
「私、ウイスキー造ったことないですよ。ずっとデザイン室にいたんで、パッケージとかボトル、フライヤーのデザインなんかやってました」
デザイナーなのか。その返事に一人の悪魔の顔が浮かぶ。ベルトラさんも同じらしかった。
「借りは作りたくないですけど、相談はできます」
「あいつの場合、嫉妬とか心配なんだが」
「そこはなんとか、なると思います」
「なにか考えがあるなら止めはしないぞ」
「少しでも稼いで欲しいんで」
こうしてワタシとサロエはフィナヤーのいる広報部へやってきた。ここならデザイナーの需要もあるはず。
「お邪魔しまーす。って、フィナヤー、どうしたの!?」
フィナヤーは顔面蒼白、茫然自失で椅子に座ってた。
「ああ、アガネア様ですか……。これはこれは、よぉ、こそぉ」
力なく微笑む。そのまま薄くなって消えそうだ。
「大丈夫、じゃないよね?」
「じつは第二リニューアル完了のポスターを作ってたんですが、どうしてもアシェト様の許可が降りず。もう何度、修正したことか。デザイナーも悩みすぎて迷走してますし、私もどう戻したらいいのか……」
フィナヤーの机の上にポスターが広げてある。エントランスホールにホストとホステスが奥へ向かって並び、見ている人を出迎えてるような写真だ。中央、列の一番奥には着飾って艶然と微笑むアシェト。
写真の上にキャッチコピーやら文字が配置されてるけど、素人目にはどこが悪いのか解らない。
「これ、リニューアル感が薄いんじゃないですか?」
横から覗きこんだサロエが言う。
「最初のラフってあります?」
机の上の紙の山から、何枚かを引っ張り出すフィナヤー。
紙にはどれも鉛筆描きの大まかな線で、どんな写真でどんな文字が載るのか書いてある。
「今のやつはラフからアシェト様が選んだものをベースに進めてきたんだけど……」
フィナヤーが説明する。いきなり現れたサロエが誰か、気にする元気もないらしい。
サロエは渡されたラフを見比べると、一枚を選んだ。ドアが途中まで開いてて、そこから部屋の中が見える構図だ。
「リニューアルってことは、これ新しい部屋の中を廊下から見てるってことですよね? こっちに変えちゃったらどうですか? 寂しい感じがするなら、部屋の中に誰かいることにすればいいと思いますし。いっそ笑顔でこっち見てるとか。たぶんですけど今ので進めても、時間いっぱい修正繰り返して時間切れモヤモヤエンドじゃないですか?」
ワタシはポカーンとしてサロエを見た。というか、ホントにサロエだよね? アホの娘がピンチになったときだけ出てくる別人格とかじゃないよね?
「たしかにこのまま進めるくらいなら……。いっそ差し替えて作り込めば……」
サロエの選んだラフを見ながら、なにやらブツブツつぶやいてるフィナヤー。
「合言葉はヤケクソ、ですよ」
ニッコリ笑うサロエ。やっぱ別人格じゃなくて本人だわ。
「ヤケクソ……」
フィナヤーの瞳に光が宿る。
「じゃあ、忙しいみたいだしワタシたちはまた」
「お待ちください。大丈夫です」
フィナヤーは部屋の奥にいた悪魔にラフを渡すといくつか指示を出し、戻ってきた。
「さて、どうされましたか?」
問題が解決されそうだからか、すっかり立ち直ってる。
「ここじゃなんだから、クラブハウスに行かない?」
本当に、本当にやりたくないけど、ワタシには前から考えてたフィナヤー懐柔のための秘策がある。ここで試してみるのも悪くない。
けど、そのためには他人の目が邪魔だ。クックック。フィナヤー、おまえはワタシの密室芸で完墜ちするのだ!
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