方法35-1︰これはアホの娘ですか?(ちゃんと世話しましょう)
寝苦しさに目が覚める。目の前、数センチ先にサロエの寝顔。鼻をくすぐるいい香りと、実体化しそうなくらいの負のオーラ。
頭だけ起こして見ると、サロエの手足と体の半分がワタシの上に乗ってる。
こういうとき嬉し恥ずかしがったり、ドキドキしたり、いま起きられたらヤバいと思ったり、とにかく何かあるんだろうけど今のワタシはひたすら眠かった。
寝よ──。
目を閉じるワタシ。けど……。
あの、あれね。実際こうなって初めて知ったけど、これメチャ寝づらいわ。考えてみれば、分散されてるっていっても全体で10キロ以上の重り載せて寝られるのかって話で。
だいたいサロエ、ワタシとベルトラさんのベッドのあいだに無理矢理もう一台押し込んだベッドで寝てたはずなのに。
リレドさんのとこから百頭宮へ帰ってきたワタシたちは、とりあえずサロエをどうするか相談した。
一人部屋に住ませるのは危険な気がするというヘゲちゃんの意見にはワタシたちも同意だった。勝手に出歩くなって言っても、当然のようにフラフラして余計なことしそうな予感しかしない。
四人部屋に移るって案もあるけど、いまは空きがない。というわけで、今の部屋にベッドを増やすことになった。
とりあえず、サロエどかそう。そう思ったとき、サロエが反対側へ寝返りをうった。そのままお互いのベッドのあいだに落ちる。それでもまだ寝てるみたいだ。
ワタシは目を閉じると、今度こそ眠りに落ちていった。
すごい音と衝撃に目が覚める。
「いったーい! あれ!?」
サロエの声。どうやらベッドの下で起きようとして頭ぶつけたらしい。
少しして、ベルトラさんの側から顔を出す。
「おはよーございます! ガネ様!」
「おはよう」
立ち上がるサロエ。自分が床で寝てたことにはなんの疑問もないらしい。
今日は休みだ。よっぽど疲れ果ててふらふらのワタシがヤバく見えたのか、ヘゲちゃんとベルトラさんが日曜でもないのにお休みをくれたのだ。
ワタシはもそもそ起きだすと、パジャマから作業着へ着替える。
そう。ネドヤから戻ったあと、ついにワタシはパジャマ用に柔らかい肌着とももひきみたいなのを買ったのだ。いやぁ、こっち来てから自主的になんか買ったことなんてほぼないから緊張した。
さて。
「ワタシはご飯食べに行くから、一緒に来て」
溢れ出るフリーダムな気配からして、サロエ独りにしとくのは不安だからね。
厨房へ行くと適当に半端な食材で朝ごはんを作る。サラダにパン、目玉焼きと焼き魚。
作ったものをトレーに載せて厨房奥の席へ行くと、サロエが座ってた。
「これ、私にですか!?」
「まあ、その」
違うけど、と言うまもなくトレーはサロエの手に。
「ありがとうございます。うわぁ、美味しそうですねー。ガネ様、料理上手なんですね!」
しかたないからもう一人分作りましたよ。
考えてみればサロエの見てる前でワタシだけ食べてるってのも落ち着かないしね。
食後のコーヒーを飲んでると、ベルトラさんが来た。
「こいつ、朝起きたら床に落ちてたぞ」
なんかモノみたいな言い方だけど、なんとなく解る。
「そうなんですよ。起きたとたん頭ぶつけちゃって」
なぜか嬉しそうに言うサロエ。そういやこの娘、会ってからずっと楽しそうにしてる。
「で、どうするんだ?」
「どうって?」
「いや、コイツ養うんだろ。お前の稼ぎでどうやってやってくんだ」
「……え?」
「従者ってのはな、主人が生活の面倒を見てやるもんなんだよ。衣食住、それに小遣い。主人が雨ざらしで何も持たない生活してるってんなら別だが」
「ちょ、ちょっと待ってください。ワタシそんなの無理ですよ。だいたいリレドさん、なんでそんな」
「甲種擬人は普通、カネ持ってるからな。それに、甲種擬人で従者の一人もいないってのは世間的に格好がつかない。リレドさんはおまえが、ちょうどいい悪魔を見つけられなくて困ってるとでも思ったんだろうな」
出た。メンツにこだわる悪魔の文化。
「けど、アシェトさんだって従者いないじゃないですか」
「その代わりにあたしら従業員がいるだろ。その前は城に召使やら家臣やら抱えてたわけだし。甲種擬人ってのはそうやって、結果的に何かの形で他の悪魔を養ってるものなんだよ」
ワタシは頭を抱えた、擬人じゃないからそんなことできないし、悪魔じゃないから体面にもこだわる気なんてない。
サロエはいつの間にか席を離れ、部屋の反対で食洗機に付属してる働き者の黒い人影にちょっかい出して遊んでる。
たしかにサロエが聞いてなきゃいけない話じゃないけど、フリーダムすぎんだろ。
「……帰しちゃダメですよね?」
「本人に問題ないのにそんなことしてみろ。ものすごい侮辱になるぞ。あと、あんまり酷い扱いもな」
「じゃあワタシ、どうすれば」
「現実的にはサロエをウチで働かせて、その対価をあんたがもらってサロエの生活費なんかにあてるってとこだろう。……あいつ、料理できると思うか?」
「それってひょっとして」
「ここで働かせるのが手っ取り早いだろ。おい、サロエ。おまえ料理できるか?」
さすがベルトラさん。ザレ町の聖女って言われてただけのことはある。
「少しなら」
「じゃあ、そこにキャベツあるだろ。切ってみろ」
サロエは積まれたキャベツを取ろうとして、ベルトラさんに止められた。
「いくら試しだからって、せめて指輪と腕輪は取れよ」
「あ、これですか? これは外せません」
ほほう。ベルトラさんに逆らうとはいい度胸だ。
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