方法34-3︰デスゲームだけはかんべんな!(少しは他人も頼りましょう)

 こうしてワタシたちは二日目も、三日目も、四日目もダラダラ酒盛りをしてた。おかげでリレドさんともすっかり仲良くなれた。まあ、ワタシ一人人間の肝臓で付き合ってたわけだからズタボロなんですけどね。

 二日目からはフルーツやチョコレート、チーズ、生ハムなんかのツマミが用意してあった。


「食べるものがないと酔いが回って判断力が落ちやすいからね」


 なんてリレドさんは言ってたけど、自分も最初から飲みに加わってたし絶対あれ自分が食べたかっただけだ。


 そして五日目。行ってみるとなんだかリレドさんの様子がおかしかった。元気がない。


「実は、今日で終わらせるように言われたんだ。いつまでキミらに高い酒バカスカ飲ませてるんだって怒られてね……」


 ですよねー。むしろよく四日も我慢してくれてたと思う。ワタシが部下なら三日目突入確定した時点でキレてたよ。


「わたしも一緒に飲んでたからあまり強くは言えないけど、さすがにあれだけ飲んだら目星くらいはついてるんだろ?」


 ワタシたちは顔を見合わせる。正直言って、三人とも途中から適当にカタログ見て気になったやつ頼んでたから、目星ついてないどころか何飲んだかさえあんまり憶えてない。


 もちろん、何も考えてなかったわけじゃない。ワタシは攻略法があるはずだって主張して、働いてる間もみんなであれこれ正解を出す方法を考えたり、真面目なベルトラさんは比較的飲んだもの憶えてたからその中で怪しいのをピックアップしたりしてた。

 ヘゲちゃんはこれまでリレドさんが取引でやったゲームの情報を集めて、そこから解法を見つけようとしてたし。


 けど、今のところ確実そうなアイデアは誰からも出てない。かといって、勘で当てられるような数じゃないし、味で見分けるなんて不可能だ。こちとら美食倶楽部じゃねーんだよ。

 だいたいこれ、いくつあるんだっけ。えーと、たしか457か。まだ三人合わせても多くて3分の1くらいしか飲んでない気がする。

 つまり、全部確かめるまで今日を入れてあと八日はイケる! じゃなくて。

 仮に許されてもそんなに連日ハイペースで飲んでたら最終日にはワタシだけどうにかなっちゃう。今日だってほぼ戦力外だったし。

 人生でこれほど機械伯爵から機械の肝臓を奪い取りたいと思ったことないよ?


 ワタシは壁際に積まれた樽を眺める。あの中から三つに絞り込むとこまでは何か方法があるはずなんだけどなぁ。というか、あってくださいお願いします。

 それにしても、ホントに樽の数、そんなもんなんだろうか。もっと多いように見えるけど……。

 えーと、ひい、ふう、みい…………。あれ? クッソ数えにくいな。こっちは酒が残ってるうえに今週ほとんど寝てないってのに。あー。ひい、ふう、みい………………。


『へいへいよー』

『へいへいよー。どうしたの?』

『樽の数、かぞえてみて。そっと』


 ヘゲちゃんの口がかすかに動く。それが止まり、少ししてまた動きだす。また止まり、今度は首をかしげた。


 そのリアクションだけで充分だ! むしろご褒美です!(寝不足とアルコールによる心身の限界)


「はーい! はーい! リレドさん!」


 ワタシは元気に手をあげる。


「なんか、樽の数が三つ足りないみたいなんですけど!」


 キョトンとするリレドさん。またまたぁ、とぼけちゃって。


『へいへいよー。足りないのは四つよこのバカ!』


 珍しくヘゲちゃんの罵倒がストレートな直球だ。……それはただのストレートか。


「間違えました! 四つです!」


 指を四本立てて訂正する。ついでにピョンピョンしちゃおうかな。ピョンピョン。

 さぁて、リレドさんは揺れ動く指の数を正しくかぞえられるかな? 


「そんなことはない。この部屋には457個の樽がある。保証する」


 ほほー。言い回しで誤魔化したつもりだろうけど、古式伝統協会にネチネチ粘着されてるのはダテじゃない。


「じゃあ、そこに見えてない四つを出してください」


 眉間にシワを寄せると、リレドさんは乱暴に腕を振った。


 ガラン──。


 樽の山が少し崩れる。


「出したぞ」


 いやいやいや。山の中に樽が四つ増えたのかもしれないけど、どれが増えたかなんて今ので判るわけないじゃん。

 リレドさんは少し頬を膨らませ、そっぽ向いてる。子供か!


 そのとき、一人の悪魔が入ってきた。見た目ドワーフに似てるけど、肌がラベンダー色の鱗に覆われてる。


「お嬢様! またそうやって明日も客人にタダ酒飲ませるおつもりですか! もう充分楽しまれたでしょう。だいたいその態度は何です。みっともない。王族らしく潔くなさってください。他の者も見ております。示しがつかんではないですか」


 この悪魔がリレドさん叱ったのか。

 その時だった。急に壁も天井も消えて、周囲が野原に変わった。

 壁があった辺りより向こうで、大勢の妖精悪魔が酒盛りしてる。向こうもワタシたちが気づいたことに気がついて、拍手とふざけ混じりの歓声があがる。


 こいつら最初からずっと、あそこで見物してたのか……。


 ワタシとベルトラさんはキョロキョロとあたりを見回す。ヘゲちゃんは平然としてるけど、壁が消えた瞬間、びっくりして小ジャンプしてたのをワタシは見逃さなかった。


「ほら、お嬢様」


 リレドさんがしぶしぶ指を動かすと、山の中から四つの樽が前に出てきた。


 そこから先は簡単だった。ベルトラさんがグラスのウイスキーを味わい、あっさり正解した。


「客人の勝利。これでゲーム“飲んで飲まれて飲まれて飲んで”を終了する」


 どうにか気を取り直したリレドさんが宣言した。また拍手が起こり、ヤジが飛ぶ。

 何人かの妖精が演奏をはじめ、みんな踊りだす。エンディングが集団ダンスって、インド映画か。

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