方法34-4:デスゲームだけはかんべんな!(少しは他人も頼りましょう)

 リレドさんは踊る妖精悪魔たちを眺めると、柔らかな表情になった。


「ヘゲっちの願いは叶えられる。それからベッさん。正解したのはキミだから、何かキミの願いも叶えよう」

「それでは、人間の料理本を貸していただけませんか?」


 リレドさんはうなずいた。


「後でリストを送らせよう。興味がある本を教えてくれれば、届けさせる。キミなら安心して貸せるよ」


 それからリレドさんはワタシを見た。


「ガネちゃんも、よく解決法を見抜いたね。褒美をあげよう」


 リレドさんはワタシに近づくと、素早く額へキスをした。


「あっ!」


 ベルトラさんが叫んだ。ワタシがキスされたのがそんな驚くようなこと? まあちょっとドキドキしてるけど。

 見ればベルトラさんは額に手を当て、アチャーって顔してる。


 そんなベルトラさんを気にせず、リレドさんは話を続けた。


「それともう一つ。キミは甲種擬人なのに召使の一人もいないんだって? そこで、わたしたちの中から一人、従者を派遣しよう。サロエ」


 妖精悪魔たちの中から一人が前へ出てきた。こっちへ来る。

 人型の悪魔女子だった。見た目の年齢はワタシと同じくらい。身長もだいたい一緒。

 蜂蜜色の髪はちょっとクセがあってゆるくウェーブしてる。活発で愛らしい顔立ちに緑の瞳がよく似合う。

 そしてなんと、猫耳猫しっぽ標準装備。へぇ、ふぅん。そう……。(冷静を装い中)

 ただ、一番目立ってるのは全身に身に着けた大量のアクセサリー。

 両耳にはピアスやらカフやらがズラリと並び、首からはいくつものネックレス。もちろんすべての指に指輪がはめられ、手首足首どころか尻尾にまでアンクレットやアームレットがこれでもかと輝いてる。


 アクセサリーひとつひとつのデザインは違うのに、全体では不思議な統一感があった。

 それに、ケバい感じもしない。両腕を露出したローブみたいな服と合わさって、化粧だけ落とした中東の踊り子さんみたいだ。


 ただ、ね。なんだろ。サロエが近づくにつれて、言いしれない不吉な感覚に襲われる。これがいわゆる“強烈な負のオーラ”ってやつだろうか。

 チラリと見たら、ヘゲちゃんとベルトラさんも何か感じてるらしい。


「サロエ。これからはガネちゃんを主人と思って、よく仕えるように」

「任せてください」


 急によそへ行って知らない悪魔に仕えろって言われたわりに、サロエは声も表情も明るい。


「ガネ様。妖精悪魔のサロエです。よろしくお願いします」


 ちょっと上目遣いではにかみながら言うその姿。心得てるねー。

 前にアシェトさんに似たようなことやったら、“なにメンチ切ってんだ”って軽く凄まれたことあるよ。


 それはさておき、言っておくことがある。


「ちょっと待ってください。急にそんなこと言われても」

「おや。不満なの?」

「いや不満とかそういうわけじゃ。こういうことは時間をかけて手順を踏まないと。サロエの気持ちだってあるでしょうし」

「それなら心配ないよ。サロエは元々ケット・シーでね。好奇心が強いんだ。しばらく外で暮らしてみたいって前から言ってたんだよ」

「そうです。ぜひ連れて行ってください。ガネ様」


 そのガネ様ってのはやめてくれないだろうか。可愛くて連れて行きたくなる。


「お願いします」


 腕をつかんでユサユサされる。


『へいへいよー。ここの悪魔にとってリレドさんは妖精女王。その好意を無にしちゃダメよ』

『けど、部外者増やしてどうすんのさ。面倒なことになったらヘゲちゃん責任取ってくれるの?』

『じゃあ、今ここでリレドさんの不興を買ったら、あなた責任取れるの?』


「ガーネーさーまぁー」


 ゆっさゆっさ。


『じゃ、何かあったらアシェト様にヘゲちゃんの責任ですって言うからね』


 こうしてワタシたちはサロエを加えた四人で百頭宮へ戻ることになった。もうどうなろうと知ったことか。今が可愛ければそれでいいんじゃい!



 帰りの馬車の中でのこと。


「そういえば、なんで急に叫んだりしたんですか?」

「あのな。妖精について一つ、忘れてたことがあるんだ」


 そこで声をひそめる。


「実は、妖精から贈り物をされても受け取るなっていう」

「受け取ったら」

「たいていロクなことにならないって言われてる。もちろん、根拠のない迷信だと思うけどな。あのときそれを思い出したんだ」


 ワタシは思わず、キスされたとこを触った。


「いや、そっちというより」


 ベルトラさんの視線の先にはサロエ。


「すっごーい! ヘゲさんって髪サラサラなんですね。たっのしー!」


 なんて言いながらヘゲちゃんの髪をサワサワしてる。

 心の底から楽しそうだけど、漂ってくる気配が異様に重い。今にも心霊現象とか起きそう。

 一方のヘゲちゃんは前を向いたままされるがままだ。


 ほほう。こうすればいいのか。どれ、ワタシも。いっちょやってみっか。

 ワタシが手を伸ばすとヘゲちゃんに手首をがっちり掴まれ、わりとマジに本気で痛かったので諦めた。この扱いの差は何なのか。

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