方法29-4︰アソコは家に含まれますか?(探索は計画的に)

 ヘゲちゃんとソロンによるアシェトーーク! 「アシェト大好き悪魔」の回に付き合いきれなくなったベルトラさんの強引な話題変更で、ようやく話が本題に。


「身代わり札は地下のダンジョンにあります」


 いま、大事なことをさらっと言ったね。


「ダンジョン?」

「ええ。このお城の地下には1フロア約800メートル四方、地下6階層からなるダンジョンがあるんですが、その最下層がアシェト様の魔道具やコレクション保管庫になっています」

「ってことはモンスターがいたり?」

「必ずしもそんなダンジョンばかりじゃありませんが、ウチは魔獣がいます」


 いるんじゃねーか!


 ソロンの説明によると、エデニウムって趣味があるらしい。

 エデニウムってのは閉鎖空間に魔獣を放って、なるべく外部からの干渉なしに持続する生態系を造ることなんだとか。

 で、一時期それにアシェトがハマってて、城の地下で生態系造りに励んでた。


「最初は小規模なものだったんですが、やはり広い方がやりやすいですから」


 そんなわけで地下ダンジョンには完成したエデニウムの魔獣たちが今もそのままになってる。結界やなんかで護るよりも、効果的だかららしい。


「結界や警備システムは破られれば終わりですが、多様な魔獣の巣食うダンジョンの攻略は時間が掛かりますし、魔獣が騒げば警報の代わりにもなります。それに、放っておくだけで維持管理されますから」

「けどそれって、アイテムの出し入れとか大変じゃないの? あ、ここの人たちは襲われないとか」

「そんなことありません。普通に襲われますよ。アシェト様しか出入りしませんからね。ダンジョン内の魔獣クラスなら、あの方の威圧があれば恐れて近寄ってきません」


 ほほう。そんな場所へ用があるのに本人不在とは。もしアシェトがこの場にいたら張り倒そうとして返り討ちにあってるところだ。危ないところだった。


「ワタシたち、家の地下室にあるから受け取って来いって言われたんだけど」


 広い意味では一緒だとしても、それと城の地下ダンジョンからアイテム回収するのとでは全然違うんじゃないだろうかと私は世に問いたい。

 そして結果を円グラフにしてアシェトの見えるところに置いておいてやりたい。ご参考まで。


「アシェト様がそんなこと仰ってたんですか? そっくりその通りに!?」


 声の調子が変わるソロン。そうそう。自分たちの主のいい加減な発言に怒るがいい。……おや、なんか様子が変だ。ひょっとして、涙ぐんでる?


「アシェト様……。こんなに長らく離れていても、ここをまだご自分の家だと……言ってくださる……」


 え? そこ? もっと他にあるでしょう。


「どんなに離れていて長いあいだ来ていなくても、アシェト様が一度自分の家と定めた場所や共に暮らす者たちを見捨てるわけないでしょう?」


 ヘゲちゃんの言葉にソロンは何度もうなずく。

 それはどうなんだろう。アシェトのことだから見捨てる以前に、キレイさっぱり忘れてたんじゃないだろうか。


「失礼しました。つい……。ともかく魔獣はおりますが、私は保管庫までの最短ルートを知っていますし、擬人がお二人いれば苦戦することはないでしょう。ベルトラ様もお強いのでしょう?」

「ああ、まあ。ただアガネアは諸事情あって、よほど身に迫った危険でもないと戦わないぞ」

「それでしたら実質三人パーティですか。そうなると、村から二人くらい腕に自信があるのを手伝いに呼んだ方がいいですね」

「ワタシたちは同行しなきゃダメなの?」

「駄目といったことはありませんが、なにぶん私も他の者も戦闘は不得手でして。手伝いに呼ぶ二人はまだマシですが、それでも私たちだけだと最悪、回収失敗の可能性も……」


 どうやらこれは、回避不能の強制イベントらしい。私はヘゲちゃんとベルトラを見る。


「それで、地下にはどういった魔獣が?」

「ザコウガニにフエキスライム、グラインドガーランドやレイハリーオーク、あと他には確か……」


 ベルトラさんに尋ねられ、ソロンはあれこれ名前を挙げる。


「トラップなんかは?」

「ないはずです。もしあっても、とっくに魔獣が作動させてるか、故障してるでしょう」


 その言葉にヘゲちゃんがうなずいた。


「それくらいなら確かにたいしたことないわね」

「ヘゲちゃん。ワタシの目を見て」


 急に言われて、素直にワタシの眼を見るヘゲちゃん。その青灰色の瞳は──。もう、間違いなくワタシのこと誘ってるね、これは。

 唐突に脈絡なくこんなこと思えるからこそ、ワタシは今日まで魔界で心を病まず生き延びてこられたんじゃないかと思う。

 元気の秘訣は突発的な欲望丸出しの妄想です。いや妄想じゃない事実認定。


「いま、変なこと考えてたでしょ。で、なに?」

「あのさ。真剣に答えてほしいんだけど、本当にたいしたことないの? 見落としとか勘違いとかない? 自分の胸に手を当ててよーく考えてみて」

「あっ!」


なぜか胸に手を当てて考え込んだソロスが、ミナに耳打ちされて声を上げる。


「失礼しました。一点だけ、言い忘れていたことがあります。地下6階は魔獣が入り込むと保管している物が傷むので入れないようにしてあるのですが、そこへ行く階段のある部屋にですね、最終防衛ラインとして二相式ドラゴンが一体配備されています」

「は?」


 またドラゴンとか。ちょっと芸がないにもほどがある。強い魔獣ったら他にもいろいろあるでしょうよ!


「アガネア、またドラゴっ、プッ、クスクス。ドっ、ドラゴンスレイヤー……」


 ヘゲちゃんも肩震わせて笑わない。


「あの、その、違うんです。最終防衛ラインと言いましたがそれは今のことでして、元々はよくできたエデニウムで生態系にヌシがいないのはありえないという理由で」

「それは何の役に立つ情報なのソロンさん」


 ワタシは思わずツッこむ。


「申し訳ありません。つまりドラゴンといっても比較的小型で、ファイアブレスとアイスブレスを使い分けることを除けば、見た目の良さ以外にこれといった特徴のない他愛ないやつでして」


 なに言ってんだコイツ。ドラゴンに他愛ないもクソもあるか。ブレス吐くだけで充分じゃゴラぁ!

 ワタシがヂュってなったりカチンってなったりしたらタチの悪いことになりますよ?


 なんてヤクザめいたことを思ってみてもしかたない。ここはタフなビジネスのプロっぽさに定評あるヘゲちゃんとベルトラさんの意見を聞いてみましょう。


「それがどの部屋かってのはもちろん解るな? それで、ドラゴンは部屋から出ない」

「はい。他に誰もいないときはずっと寝てますから」

「なら、あんまり大人数で部屋へ入るより、あたしとあと一人か二人くらいで中へ入って、制圧したら残りも部屋に入ってもらった方がいいな。味方撃つと厄介だ」


 もっともらしい意見を言うベルトラさん。やっぱ頼れる。


「解りました。それとドラゴンは補充が大変なので、なるべく殺さないでいただけると……」


 ベルトラさんは渋い顔をする。


「いちおうアシェトさんのだもんな……。睡眠薬でも麻痺毒でも集めておいてくれ。それくらいはあるだろ」

「かしこまりました。では私はさっそくもろもろ手配いたしますので、みなさまは城内の見学でも。ミナが案内いたします」

「あら、そう? なんだか悪いわね。迷惑じゃないかしら」


 遠慮してみせるヘゲちゃんだけど、声にも顔にも抑えきれない期待感がダダ漏れしてる。

 ヘゲちゃん、このために速カゴとかの代金三人分負担してまで急いで来たんだもんね……。


「迷惑だなんてとんでもございません。せっかくのお客様ですから、最大限のおもてなしをさせていただきます。プライベートな寝室や浴室なんかもありますので、お楽しみに」


 なんだか通じ合った視線を交わすヘゲちゃんとソロン。ずいぶん楽しそうだな。 

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