方法28-3︰レギュラーと廃屋(行方不明者は探しましょう)

 山頂へ戻ったワタシたちは、気絶した二人を森の中で見つけたと説明した。

 今回もなぜかまた地下水路に居たというカタツムリの爺さんに急いで飛んできてもらって、アヌビオムを診察してもらった。


 爺さんはひととおり確認すると、腹の傷と背中のヤケドに粘液を塗りたくった。


「何日か安静にしてれば治るだろ。放っておけば衰弱して危なかったな」


 こうしてワタシたちはさっちゃん山を後にした。あの不気味な建物の謎は未解明のまま、二度と訪れることはなかった。



 ってことにしたかったんだけど、駄目だった。だってヘゲちゃんが調査するって言うんだもん。


 なんだかんだ言って、ホントはいつもワタシと一緒に行動して噂の二人になりたいんじゃないの? “ヘゲさんってアガネアさんと付き合ってるってホント?”みたいな。

 ……ヘゲちゃんなら赤面してキョドる代わりに、相手の頭を無造作に握りつぶしそうだ。新ジャンル、暴力っ娘。あるいは暴デレ。

 暴力ふるってたかと思うと急にデレてくるって、それただの情緒不安定だな。



 アヌビオムが意識を取り戻すと、さっそくワタシたちは何があったのか尋ねた。

 アヌビオムの話によると、山道を歩いてたら奇妙な、そのくせ馴染み深い感じがしたらしい。

 なんだろうと気を取られて、我に返るとアマンダがいない。慌てて探してあの道を見つけ、下っていった途中からの記憶がない。


「そう。……ねぇ、アヌビオム。あなたにうちの誠実なスタッフとして、同じギアの会のメンバーとして頼みたいことがあるの。私たちあそこをもう少し調べたいんだけれど、一緒に来てくれないかしら?」

「ですが、またあんなことになりましては」

「大丈夫。今度はあなたも警戒してるし、私たちも居るし、怪我の原因になった結界はもうないはずだし」

「いや、ですが」

「ワタシからもお願い。アヌビオムだけが頼りだから」


 ワタシはそっとアヌビオムの手を取ると、愛用のハンカチをねじ込む。もちろん使用済み未洗濯。


「おお、これは!? わかりました。参りましょう」


 さすが、ワタシのためなら死なないことも厭わないギアの会のメンバー。知ってる? 死ぬより死なない方が難しいんだぜ? 最後なんか買収したっぽい感じだったけど見なかったことにしてね?


 というわけでアヌビオムの回復を待つあいだ、ワタシたちは大食い大会に出たり、ビーチバレー大会に出たりと、ラノベならいかにもSSで書かれそうなニオイがプンプンの数日間を過ごした。書かれないけど、たぶん。


 そしてついに今日、ワタシたちは再びあの広場へ戻ってきた at 昼。

 昼の方が登山する悪魔が少ないし、怖くないから。だってあそこ、思い出すとかなり心霊スポット臭がして怖くなったんだもん。


 アヌビオムはまた意識が飛びそうになってたけど、頭を振ったり手の甲を傷つけたりしてどうにか耐えてた。


 まずは牛舎みたいな2棟の建物から。結界はなく、中を覗いたけど荒れてるわりにキレイで、どうも一度も使われてなかったらしい。


 外へ出るとベルトラさんが言った。


「なあ。あの屋根のヘコみ、そこでひっくり返ってる荷車と同じ大きさじゃないか?」


 見ると確かに屋根が大きくヘコんでて、荷車がぶつかったようにも見える。


「ちょっ、変なこと言わないでくださいよ」

「荷車を担いで飛ぼうとして落とした、とか? けど、なんでかしら」


 次はあの、アヌビオムがいた2階建ての建物。2階部分に窓が見えるけど、周囲を回っても階段はなかった。しょうがないから飛んで入ることに。

 ワタシが飛べないことをアヌビオムに疑われないかと思ったけど、“抱いて飛んで”って言ったら、アヌビオムはなんかもう細かいことはどうでも良くなってた。チョロいな。


 窓を割って中へ。そこは狭い部屋だった。床に大きな板が伏せてある。そして、天井や壁には呪符や魔法陣がビッシリ。

 ワタシは板をどけてみた。


 下にはたくさんのフランス人形が転がってた。

 薄汚れた人形たちが、じっとこちらを見てる。


「なかなかいい趣味だな」


 ベルトラさんが呟く。それは皮肉なのか、悪魔的なセンスなのか。


「こういうのって、よくあるんですか?」


 部屋全体に染みついた狂気の気配が、ワタシにじっとり迫ってくる。


「いや、見たことないな。新しい百頭宮のリラクゼーションルームの内装に提案してみたら採用されそうだ」


 こんなときでも仕事を忘れないベルトラさんの姿勢は正直すごいと思う。にしても、これって悪魔的にはアリなんだ。……いま、リラクゼーションって言った?


「こちらの符や魔法陣は人間どもが使うものと似ております」

「けど、それっぽく書いてあるだけで意味のない記号を並べただけみたいね。全体に漂う癒やしの雰囲気といい、どこかの保養所だったのかも」


 なるほどねぇ。って、いま癒やしの雰囲気って言ったか?


 ワタシたちはドアから廊下へ出てみた。廊下の先はL字型に曲がってて、その先は行き止まり。どこにもつながってなかった。外から見たときは他にも窓あったのに。


 しかたがないので、入ってきた窓から外へ出ると、他の部屋を覗いて回った。

 どこもさっきと同じような呪符や魔法陣が壁や天井、床を埋め尽くしていた。


───

※今回出てくる作中の場所は怪談 新耳袋 第四夜「山の牧場」をモデルにしています。

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