方法28-4︰レギュラーと廃屋(行方不明者は探しましょう)
他の小屋も同じようなものだった。部屋によっては実験用の器具が散乱してたり、焼かれてボロボロになった本の残骸が放置されてた。使い込まれた黒板が壁にかけられた小屋もあった。
そのうちでひとつだけ、床に紙くずの散らばった小屋があった。書斎とか事務所とか、そんな雰囲気だ。中へ入ってみる。
棚や机の中は空っぽだった。紙はどれも書き損ねの符や、無意味な魔法陣の下書き。けど、一枚だけ違うのがあった。
「ヘゲちゃん、これ」
ワタシの差し出した紙に書かれていたのは、求人の案内だ。
“急募! 研究所手
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この、募集してる職種に対してどこからツッコんでいいのか判らないような文面。
「タニアの手紙に似てない?」
「そうねえ。けど、似たような文章なんて他にも書く悪魔いるだろうし、そもそも求人情報なんてこんなもんじゃないの?」
しまった。ヘゲちゃんって、どっちかって言うと水商売寄りの求人をする側だった。タニアもか。
それに魔界じゃ本当にこういうのが普通なのかもしれないし。
「こちらもこれくらいですね」
アヌビオムが紙の切れ端を持ってる。
そこには手書きで
“とした。
H.Y.R.より”
と書いてある。
「手紙、か? ここの悪魔が書いたのか、受け取ったのか」
考えてもそれ以上は何も解らなかったし、手掛かりになりそうなものもなかった。
そして、この世界は課金するか30秒の動画視聴でヒントをくれるようにできてない。
そこでワタシたちはいよいよ調査の目玉、2階建ての建物の1階部分へ戻った。念のため確認してみても、誰かが戻ってきた跡はない。
中へ入るとアヌビオムが震えだした。
「大丈夫?」
「ギリっす」
よっぽど限界なんだろう。口調が変わってる。
ワタシたちはそれぞれ持参したシャベルで、先日アヌビオムが掘ってた山を崩していった。
すぐにアヌビオムはダメになった。シャベルを投げ捨てると、また両手掘りになる。ワタシたちも一緒に掘り続ける。
やがて山をすっかりどけると、そこには何もなかった。ただ、木の床に液体をぶちまけたような染みがある。アヌビオムはその染みに顔をこすりつけていたかと思うと、隣の山を掘り返しはじめた。床の木材がささくれだってるせいで顔中トゲだらけだけど、気にしてない。
そうして他にもアヌビオムを手伝って6個の山を掘ったけど、どれも一緒。
そして7個目。いい加減ウンザリしたワタシたちは乱暴に山を崩していく。
ガツン!
ベルトラさんのシャベルが何か硬いものにぶつかった。とたんにアヌビオムがそちらへダイブ、しようとしてヘゲちゃんの電撃を喰らい、気絶する。
「あのさあ、2回目なんだからもっとマイルドな方法用意しとこうよ」
「忙しかったんだからしょうがないでしょ」
一緒に遊び回ってたくせに。
掘り出してみると、それは大きな缶詰だった。側面にベルトラさんのシャベルが開けた穴があり、そこから粘っこい液体が染み出していた。
ヘゲちゃんがどっからかガムテみたいなのを取り出して、穴をふさぐ。
「これは私が預かっておくわ」
どこかへ缶が消える。考えてみたら、ヘゲちゃん謎の収納空間持ってるんだから旅行用バッグとか登山用リュックとかいらなくね? まあ、気分の問題なんだろう。“私をアゲてくれるハッピーアイテム”みたいな。
「これって、あれよね。それもかなり濃い。原液とか濃縮液とか、そういうものよね」
「そうですね」
二人は顔をしかめている。
「え? なに?」
「あの缶の中身、“魂の気配”よ。おそらく床のシミもそれ。この粉で漏れ出さないよう隠してたみたいだけど、アヌビオムはほら、魂感受性の競技会で永世チャンピオンになったくらいだから」
“魂の気配”。それはタニアがどこからか調達した、悪魔を狂わせ強烈に魅了する謎の液体。悪魔を惹きつける魂の作用を人工的に再現したというものだ。
ヘゲちゃんは粉をひとつかみ手に取ると、どこかへしまった。
「じゃ、ここで製造してたってこと?」
「さあ。でも、ここで研究はしてたんでしょうね。助手を募集してたみたいだし。魔法陣や符も、関係してるのかもしれない。あとで誰かよこして記録を採らせましょう。運が良ければ製法を再現してウハウハよ」
ウハウハって、ヘゲちゃん……。
こうしてワタシたちは広場の調査を終えた。謎の建物はその謎めいた謎と引き換えに、ハッキリした謎を残しやがった。
符や魔法陣は何なのか。誰がここで研究していたのか。いつ、どうして破棄されたのか。ここへタニヤも来ていたのか。などなど盛りだくさん。
───
※今回出てくる作中の場所は怪談 新耳袋 第四夜「山の牧場」をモデルにしています。
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