方法28-1︰レギュラーと廃屋(行方不明者は探しましょう)

 並列支部本部であわや惨劇の第一被害者になりかけてから二日。昨日ずっと部屋でぐったりしてたおかげで、すっかり元気になった。

 けどね。だからっていきなり登山の引率をさせられるなんておかしいと思うの。


「はーい、みんなー。引率の悪魔から離れないようにね。担当の悪魔の顔と名前は憶えたかしら?」


 先頭のイカばあさんが元気よく言った。


「はーい」


 フレッシュゴーレムたちも元気一杯だ。


 というわけでワタシは今、フレッシュゴーレムの登山遠足に付き添いで来ています。当然、ベルトラさんとヘゲちゃんも一緒。他に、どこからかワタシが山へ行くと聞きつけたアヌビオムも居る。

 その他、引率がイカばあさん入れて11名。フレッシュゴーレムは男5人の女5人。イカばあさんが全体の監督で、他は一人ずつ悪魔とフレッシュゴーレムでペアになっている。


 なんでそんな引率が多いのか? 答えは簡単でナウラ以外は基本、頭がちょっとだけ残念なのだ。


 引率を頼まれたのはネドヤ到着の翌日。


「ごめんなさいねぇ。ナウラがどうしてもアガネアさんと一緒に行きたいって言うから」


 と頼まれて引き受けたのだ。フッフッフ。それどころじゃなくなって中断してるとはいえ、アイドルデビュー目前のナウラ。

 ワタシのことなんて踏み台にしか思ってないんじゃないかとちょっぴり寂しかったけど、可愛いとこあるじゃない。


 まあ、あとで本人に聞いたら“イカ先生にアガネアと山行きたいか聞かれたから、オッケーしといたよ”とか言ってたけどね。

 なんで一緒に行きたいか聞かれて許可する形の返事なのかは深く考えまい。


 ワタシが毒を盛られた話は外部に知られてない。けどさあ、普通は誰かが気を利かせて断ってくれると思うじゃん? ヘゲちゃんとかベルトラさんとかが。


 なのに今朝、起きたらベルトラさんがリュックに荷物を詰めてた。


「起きたか。そろそろ準備しないと間に合わないんじゃないか?」


 この時点でもう、やっちまったなー、と思ってましたよ。そしたらドアをノックして──。


「おはようございますアガネア様。他のメンバーに露見しないうちにさあ! おや、今起きられたのですか?」


 アヌビオムが入ってきた。おまけにその後ろからヘゲちゃんが部屋の中覗いて、


「まだ寝てたの? あなたの責任感のなさは充分伝わったから早く。え? まだ準備もしてないの?」


 これだよ。アヌビオムが他のメンバーにダマで抜け駆けしてるっぽいことはどうでもいいとして、みんな人間の扱いが解ってない。

 もっとこう、繊細かつ優しく、たくさんの甘い言葉と甘いキャンディーで慰めて! いや、キャンディーはいらんな。


 ヘゲちゃんが“大変だったとは思うけど、部屋に閉じこもってたら精神衛生上よくないでしょ?”って言ってくれたから少しは機嫌なおったけど。

 おっ、さてはこいつ、デレてやがるな? みたいな。

 最近ちょっとした言葉から自分を誤魔化すワザに磨きがかかっている、どうもワタシです。

 いやいや、誤魔化しとかじゃないし。自信ないから絶対に本人には確認しないけど、これは間違いなくデレてるって。ゴーストが囁くの。そういうことにしとけって。……ふむう。それって自己欺瞞じゃろかー。


 そんなわけで登山に出発したワタシたち。目的地は“さっちゃん山”。近所の小学生が勝手につけた名前とかじゃなくて、ちゃんと地図にもそう書いてある。

 さっちゃん山はネドヤの中心市街からほど近くにあって標高約600メートル。

 頂上には直径10メートルほどのクレーターがあって、そこに“さっちゃんの腎臓”と呼ばれるものが突き刺さってる。

 そう、あのミュルスにある“さっちゃんの右腕”と同じシリーズの一つだ。

 ちなみに他にも左足、右耳、心臓弁膜、第八頸椎、尺骨が発見されていて、“世界の七さっちゃん”と呼ばれている。

 悪魔の中には新たなパーツの発見をライフワークにしてる“さっちゃんハンター”もいるし、ときどき“さっちゃんの下顎骨”とか“さっちゃんの眼球”なんて偽物も出てくるらしい。

 もちろん、さっちゃん絡みの出資金詐欺なんかもあるんだとか。なんなんだ、さっちゃん。

 そして心臓弁膜とかよく特定されたな。


 それはさておき、さっちゃん山はネドヤに近く、標高も低くて登りやすいので、人気の観光スポットだ。

 山道は整備されてるし、悪魔なので夜間登山とはいえ道の両脇には一定の間隔で緑に光るライトが埋めてあるから、その間を歩けば明るいし道にも迷わない。


「今日はよろしくお願いいたします」


 爽やかな笑顔で挨拶してきたのは、ワタシが担当するフレッシュゴーレムのポール。

 百頭宮ではフレッシュゴーレムといえども恥ずかしくない接客を、ということでみんな礼儀正しいのだ。見た目はドレッドヘアにアゴヒゲの似合うセクシーな男前だけど。


 てっきりワタシはナウラの担当だと思ってたけど、イカばあさんとしては他のフレッシュゴーレムもワタシと接することでレベルアップさせたいんだとか。

 実際、ナウラの影響で全体的にウチのフレッシュゴーレムの人間らしさは向上してるらしい。


 そんなわけで登り始めたものの、しょっぱなからポールはなかなかのものだった。


「あ、ほらあれ。キレイですね」


 道端に咲いてる花を見つけたポールはそれを引き抜くと、髪の間に挿した。


「どうです、似合いますか?」

「あーうん。似合わないこともなくはないかもしれないけど、こういうとこの花は勝手に摘んじゃマズいんじゃないかな」

「そうですか。知りませんでした」


 はにかんだように微笑むポール。これまで“男性のキュートな笑顔”ってなんだよと思ってたけど、こうかよ。可愛いじゃないか。


 さらに歩いているとポールが真剣な顔になった。


「どしたの?」

「お腹が空いたので、チョコ食べていいですか?」

「歩きながらならいいんじゃない?」

「あっ!」


 見るまに泣きそうな顔になる。


「美味しそうだったんで、チョコは出る前に食べてしまったんでした」


 まあ、あげたよねワタシのぶん。


 とまあそんなこんなで、肉羊の群を追い立てるほうがまだスムーズに登れるんじゃないかって感じだった。

 前にナウラはハイグレードモデルだ、みたいなこと言ってたけど、ホントにそんな問題なんだろうか。

 ワタシはこの疑問をイカばあさんにぶつけてみた。


「あら。ナウラが奇跡のフレッシュゴーレムって呼ばれてるの、ご存知ない? もちろん高級モデルってこともあるけど、その中でも奇跡的にデキのいいのがナウラなの」


 というわけで個体差もあるらしい。ふーむ。

 アシェトにヘゲちゃん、ベルトラさん、料理人としてはライネケなんかも。どうしてこうワタシの周りは規格外が多いのか。みんな検品時にB品としてハネられてしまえ。


 こうしてイケメンとのハイキングを楽しんで山頂へ来たところで事件は起こった。というか事件が起こってたことに気づいた。

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