方法25-3︰魔界に転生して最強召喚獣を三体ゲットしたけど、言うこときいてくれない件(事前に仕込みをしましょう)

 ワタシたち四人だけになると、アシェトが口を開いた。


「さて、ヘゲ。どう思う?」

「一番気になるのは、黒幕が誰であれアガネアだと知って狙ってきたことですね」

「それより、気になることがあるんだけど」

「なんだ」

「ティルがいたから黙ってたんですけど、最初ワーゴが、ワタシに“酸素の結晶”とかいうのを口に入れろって言ってきたんです。たしか悪魔って窒息しないんですよね?」


 みんな黙ってしまう。


 そう。悪魔はべつに呼吸できなくても死んだりしない。

 なのに“酸素の結晶”を口に入れさせようとしてきたってことは、少なくとも指示した奴はワタシが人間だって知ってる可能性がある。


「とりあえず、ダンタリオン消すか」


 アシェトが豪快なこと言いだす。ひょっとして、この人の通り名って“脳筋プレイノ”とかじゃないか?


「アシェトさん。さすがにそれは無理ですよ」

「そうか? あいつ力はそんなにねぇし、アガネアが悪魔じゃねぇって知ってるし、さっきのことに関係あろうがなんだろうが、とりあえず滅ぼしときゃスッキリすんだろ」

「スッキリどころか、どれだけの所と敵対することになるか想像もつきませんよ。それに、滅ぼし尽くせるとも思えません」

「そうですよ、アシェト様。ダンタリオン氏はひとり見たら近くに三十人は潜んでると言われてます」


 ヘゲちゃんが寒いおもしろ発言をしてみたんじゃなければ、なんだか変な会話だ。


「ダンタリオンてそんなに凄いんですか?」


 アシェトとヘゲちゃんがベルトラさんをチラリと見る。もちろん、ベルトラさんは解説する気メーターが瞬時に振り切れた。


「もちろんだ。ダンタリオン氏てのは一人じゃない。というか、一人らしいんだがいくつもの体を持ってるんだ。それを同時に動かしてる。いちおう学問の分野ごとに担当の体がひとつってことになってるが、実際どれくらいの体があるかは誰も知らない。どうも人界で学問分野が増えるごとに、ダンタリオン氏も増えるらしいしな。趣味でそれを特定しようとしてる悪魔もいるくらいだ。人間の魔導書でも“無数の男女の顔を持つ”って書かれてるんだが、あれは実際にはそういうことだ。だから滅ぼし尽くせないし、関わってる範囲が広いから、殺せばモメる相手も多い」

「じゃあ、ワタシが会ったダンタリオン以外のダンタリオンも、みんなワタシが悪魔じゃないって……」

「もちろん知ってるんだろうな。あの人の意識がどうなってるのかは特殊すぎて誰にも解らんが、おそらく情報は共有されてるだろう。──ダンタリオン氏はもともと神の意識の在り方をシミュレートするために……」


 なんか話が長くなってきた。


「とにかく、ダンタリオン氏を滅ぼすのは時間も手間もかかります。怪しいといえばタニアと“魂の気配”のラインもタイミング的にかなり怪しいですし、そもそもアガネアが魔界へ来たのが人為的なものなら、その実行者も怪しいです。ですから、ダンタリオン氏を滅ぼすなら何かの用事のついでに余裕があれば少しずつ進めましょう」


 なんかこう最大限アシェトの意見も尊重しつつ無理矢理まとめた感がすごい。ヘゲちゃん変なところで器用だなあ。


「そうだな。とにかくアガネアを狙ってる奴をどうにかできりゃいい。あとは任せた。何か困ったことがありゃ相談してくれ」


 最後で華麗に丸投げを決めると、アシェトはどっか行った。

 残されたのはマジメなベルトラさんにアシェト絶対主義者のヘゲちゃん、そして命が懸かってるワタシ。

 もちろん、ちゃんと話し合いましたとも。

 といっても現状では情報が少なく、せいぜいワタシを狙いそうな既知の悪魔や組織を整理するくらいだった。

 結果、疑いだすとほぼ全員怪しいということに。

 ワタシはこの広い社会の片隅でひっそり生きてるだけなのに、いったいなんでこんなことに……。

 もう一つ、ワタシの強い要望で議題になったのが“初手でアガネアが即死しないよう対策する”だ。


「私たちが護ってるんだから、そんなの必要ないでしょう?」

「それはそうですが、今日も襲われはしました。アガネアが不安になるのも当然でしょう」

「ベルトラさん。そうじゃないんです。アガネア四天王って駆けつけ警護が基本じゃないですか。事前に防げないというか」

「アガネア四天王?」

「ヘゲちゃん、そこは反応しなくていいから。……とにかくですね。いくら手厚く守られてても、現状だと事故的に殺られる可能性があるんじゃないかと」

「それは聞き捨てならないわね。そんなミスするわけないし、私たちや百頭宮の名前が抑止力になって防げてる部分は多いはずよ。それにめんど……あなたを不安にさせないよう黙ってるけど、よからぬことを企んでる馬鹿は意外と多いの。不思議なことにそういうのは行方不明になったりしがちなんだけど」 


 なんか大娯楽祭の前にもそんなこと言ってたなあ。


「けど、こうして完全には防げてないんだから、念には念を入れたほうがいいでしょ。そもそも、何か対策はできるの?」

「一回きりの使い捨てになっちゃうけど、防護結界の札で高いやつなんかを買えば」

「じゃあ、それ買おうよ」

「簡単に言うけど、いくらすると思ってるの?」

「ですがヘゲさん。アガネアが死ねば金なんていくらあっても無意味です」


 しばらく考え込んだヘゲちゃんは、諦めたようにうなずいた。


「この件はアシェト様に相談してみる」


 こんな気前のいい社員旅行するわりにワタシの防護用品買うのに渋るとか、お金があるんだかないんだか。

 それとも、防護用結界ってものすごく高いんだろうか。


 ヘゲちゃんが腕を頭上にあげて伸びをする。


「んーっ。お昼食べたら温泉でも行く?」


 まさかヘゲちゃんからその言葉が出るとは思わなかった。

 こんなこともあろうかと、ワタシは事前にガイドブックでいい貸し切りスパを探しておいたのだ。こんなことがなければ、ワタシから誘うつもりだった。


 もちろんこのチャンスは最大限に活かさないといけない。ワタシの頭がフル回転する。

 

 しばらくお待ちください………。

 ………………。

 …………。

 ……。

 フル回転でも遅せぇな。などと思うなかれ。いまワタシはあらゆる可能性とリスク計算、バランス配分を検討したのだ。


「ティルを誘おう。お礼は言ったけど、ちゃんとねぎらうべきだと思うの。アシェト様ならそうするはず」

「アシェト様が……。なるほど、それもそうね。連絡してみる」


 アシェトを出すとチョロい、つまりアシェチョロなヘゲちゃんがあっさり納得する。


「それからワタシ、イカばあさんから女フレッシュゴーレムのお風呂の入り方を監修してほしいって頼まれてるんだけど、ついでにいいかな?」

「うち、フレッシュゴーレムがお客様と入浴するサービスなんてないけど。それにナウラの影響で他のフレッシュゴーレムの質が上がってきてるって報告も」

「目に見えないことの積み重ねが普段のサービスに現れるんだってば。それに、人間の髪や肌を傷めない入浴法だってあるし。だいたいこれ、ワタシが言いだしたんじゃないし」


 ヘゲちゃんを押し切る。嘘は言ってない。頼まれてたのは本当だ。まあ、ワタシが人界での入浴について話して、イカばあさんを乗り気にさせたんだけど。


 これで合計10人。目当ての団体用が借りられる。

 2~5人用は人気が高く前日予約でないとまず空いてないけど、団体用はたいてい当日でも借りられるという情報を得ていたのだ。この辺、ぬかりのないワタシです。


 フィナヤーたちギアの会の女性メンバーは今回、惜しいけどあえて外した。あんまり人数が多いと予定の調整が手間だし、そんなことすれば男性メンバーにも何かしてやらないといけない。

 やっぱみんなのアイドルとしては公平さが大事だからね。


 こういう細かいところまで考えて仕込んでおけるかどうか。それが温泉イベントを人為的に発生させられるかどうかを分けると思うわけですよ。


 というわけで、次回はワタシの才覚と強運でつかんだ温泉回です!

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