方法25-2︰魔界に転生して最強召喚獣を三体ゲットしたけど、言うこときいてくれない件(事前に仕込みをしましょう)
浮き輪につかまってぼんやり波に揺られてると、責任逃れのためなら命も賭ける悪魔、エイモスがやって来た。
クラゲ型のくせになんで浮き輪使ってるんだろ。触手が水の下になってて、セミをいっぱいに詰めた半透明の袋が浮かんでるようにしか見えない。
「こう見えても泳げないんです」
エイモスはワタシが何か言うより先に弁解する。こいつ、サトリか?
しばらくお互い無言でゆらゆらしてから別れる。なんかこう、ダルい空気だなあ。
いつのまにか浜から10メートルくらいも離れてしまった。そろそろ距離制限に引っかかるな。
戻ろうとしたその時。
「はぷんっ?」
急に足を強く引かれ、ワタシは浮き輪からすっぽ抜けて海中へ引きずり込まれた。
慌てて見ると、透明な何かがワタシの足首をつかんでるらしい。
そいつは沈みながらワタシを沖の方へ連れて行こうとしてる。
『擬人アガネアだな。オレと来てもらおう。と、そうだその前に、コイツを口に入れろ』
なぜかそいつの声はクリアに聞こえた。そしてワタシの口に小さなクリスタルのカケラみたいなものを押し付けてくる。
『酸素の結晶だ。おっと抵抗しようとしても無駄だ。オレには“水中無敵”って能力があってな。水の中なら甲種擬人でも勝てなっ!?』
ガクン、と動きが止まる。そいつの見えない手から酸素の結晶がどこかへ離れていく。
距離制限だ。どうやら陸でヘゲちゃんが踏ん張ってくれてるらしい。
しかしこのチート持ちの言葉は本当らしく、ヘゲちゃんと、たぶんアシェトが引っ張ってくれてるはずなのに一人で持ちこたえている。
それどころか、ジワジワとワタシはそいつの行きたい方へ引かれつつある。
えー。ここまで冷静に解説してきましたがもうダメです。人には酸素が必要でね? あと、両方から引っ張られて体がちぎれそ──。
一瞬遠くなりかかった意識が戻る。
ザバアッ!
勢いよく水上へ飛び出した。咳こみながら見れば、目の前に見覚えのある巨大な蛇体。
ワタシは逆さまに吊り下げられた状態だ。自分の足の方を見ると、ウロコに覆われた悪魔の手がワタシの足首をつかんでいた。他の部分はヘビの口の中。
ぶつり。ヘビが口を閉じる。
ワタシは水面へ落下したけど、すぐにヘビが背中へ乗せてくれた。そのまま浜辺へ運んでくれる。
赤いたてがみの生えた背中を見て確信する。これ、やっぱティルだ。
浜辺には人だかりができてた。ヘゲちゃんたちの姿も見える。
──あれ、地下サーペントじゃないか?
だれかのそんな言葉も聞こえる。はい、そうですね。
なんでこんなところに居るんだろう。
地下サーペントことティルは浅瀬ギリギリでワタシを降ろすと、素早く沖合へ姿を消した。
「大丈夫か? 何があった!?」
駆けつけてくれたベルトラさんにワタシは手を振った。
「すみません。まず水」
しこたま海水を飲んだせいでノドが焼けてる。
ベルトラさんが持ってきてくれた水を飲んで落ち着くと、ワタシは謎の悪魔に襲撃されたこと、地下サーペントに助けられたことを話した。
「誰だか知らねぇが舐めやがって!」
キレるアシェト。
「まったく。あなたは一人で5分も無事にいられないの?」
呆れるヘゲちゃん。
「すまなかった。これじゃ牧場のときと同じじゃないか」
激しく後悔するベルトラさん。
集まってきた野次馬たちはワタシを見たり、沖の方を指差したりしてガヤガヤしてる。
ワタシはといえば、すっかりワケが解らなくなってた。
あいつはワタシを知ってて誘拐するつもりだった。でもなんで? それに、どうしてティルが?
少しも怖くなかったと言えばウソになるけど、死の恐怖は不思議となかった。距離制限の見えないヒモでヘゲちゃんと繋がってたからかもしれない。
……あれ? そういえば。
「ヘゲちゃん。なんでワタシをひっぱっ」
おっと危ない。ここには他の悪魔もいるんだった。あからさまに言うのはマズい。
「転移は?」
そう。なにも陸と海中で綱引きしなくても、ヘゲちゃんが転移してくればあんな苦しい思いはしなくて済んだハズだ。
ヘゲちゃんはワタシの言葉に一瞬だけハッとした表情を浮かべ、すぐ優しげな笑顔になった。
「可哀想に。なんだか混乱してるみたいね。頭でも打ったのかしら」
あ、これ焦ってそこまで頭が回ってなかったパターンだ。
「とりあえず部屋に戻って落ち着きなさい」
ワタシはヘゲちゃんに背中を押され、ホテルの部屋へ戻った。
部屋へ戻るとシャワーを浴び、ソファへ座りこむ。
「大丈夫か?」
「ダメです。なんだか胸が苦しくて、頭も痛いし吐き気もするしお腹も痛いし。ベルトラさん人型に変身してギュッとしてください」
「それだけ喋れれば大丈夫そうだな」
ヘゲちゃんが水の入ったコップを持ってきてくれる。
ワタシに親切なヘゲちゃんなんて信じられないけど、事実だ。ワタシはいま、奇蹟を目にした。
「水着はちゃんと洗って、バスルームに干したほうがいいわよ」
まずそれですか。やっぱ優しさのカケラもねぇな。
「どうだ調子は」
アシェトが入ってくる。その後ろには人型のティルがいた。
ヘゲちゃん
ベルトラさん
アシェト
ティル
ワタシを守護する4人の悪魔。
ガチャで言えばレベルMAXのSRとSSキャラで固めたようなメンバーだ。アガネア四天王と名付けよう。
それがこうして揃ってワタシのために集まってる。
そう思うとなんかこう、心が豊かになるな。かなり頼もしい。
問題があるとすれば、危険を事前に防げたことが一度もねーっていうね。
「それで、ティルはなんでここに?」
「ヘゲさんから、海に戻ってるなら警護を頼まれてほしいって頼まれて、バイト感覚で」
「バイト感覚……」
「大娯楽祭が途中で終わっちゃったから、ギリギリで借金完済できなくて」
ホントにバイトだった。
「アガネアさんを襲って来たやつのことは知ってます。海棲悪魔のあいだではちょっと知られた“水中無双ノ”ワーゴって悪魔で、金をもらって誘拐や暗殺、破壊活動なんかをしてるんです。水中にいる限りは異常なほどの体力、攻撃力、耐久力や速度を発揮するっていう、ちょっと変わった悪魔でした」
「そんなやつによく勝てたね。瞬殺してたけど」
「簡単ですよ。空気をいっぱいに含んだ口の中は、もう水中じゃありません。あいつ、水の外では普通か、むしろ弱いくらいなんで。あとはよく噛んで、喉のあたりでボキボキギューッとすれば終わりです。ウザいし嫌われてたんで、ちょうどよかったですよ」
嬉しそうに言うティルに、ヘゲちゃんがため息をついた。
「あのね。そういうときは無力化した上で尋問させてちょうだい。鉄則よ」
「あ、そうなんですか! すみません。けど、どうせ使い捨てだったろうから、何も知らなかったと思いますよ」
「それでも全く無関係でなければ、使い道はあるから」
「ま、殺しちまったものはしょうがねぇ。ティル、ご苦労だったな。引き続き警備を頼む」
出て行こうとしたティルを呼び止める。
「助けてくれて、ありがとね」
「はい。クラーケンとかリヴァイアサン級でもなければたいてい負けないので、安心してください。って言っても、今日みたいなのでもなければアガネアさん一人でどうにかなるとは思いますけど」
「それが、ワタシ水の中はあんま得意じゃないから」
ティルは笑顔でうなずくと、部屋から出ていった。
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