方法24-2︰私の仮の姿を見よ!(賭け事はほどほどに)

 席順を変えながらゲームが進む。そして最後の13戦目。


 イカサマなんて使わなくても、ライネケは破格の強さだった。仕草や表情、巧みな話術で相手にババを引かせる。

 相手にババを引かせるために、わざと自分が前の人からババを引いてるんじゃないかと思う場面もあった。


 ワタシも今日は調子が良かった。今のところ2回しか負けてない。


 ベルトラさんは情報どおり弱かった。かなり本気で勝負してたのに、ここまでで5敗。

 演技や駆け引きが上手くないってのもあるけど、なにより絶望的なくらい引きが弱かった。

 あと、ライネケがちょくちょくからかってたせいもある。キレてライネケを殴りそうになって、ワタシとヘゲちゃんがなだめたことも何回かあった。


 そしてヘゲちゃん。ワタシが2敗でベルトラさんが5敗。今が13回戦。つまりそう、ヘゲちゃんも5敗してるのだ。

 立案者として開始前までは巧みに策を巡らせてたのに、肝心のゲームが弱いとか。それムービーだけ素晴らしいクソゲーと一緒だからね?


 ヘゲちゃんの方はベルトラさんみたいに引きが弱いってわけじゃなさそうだった。ただ、自分から積極的に仕掛ける駆け引きや芝居が下手。相手のブラフにも引っかかる。

 余計なことしないで普通にプレーしてたらここまで負けないだろうに。ホントにおまえは残念な娘だよぅ。


 そうこうしてる間にライネケがトップで上がった。ヘゲちゃんも運良く上がる。

 これでワタシが勝てばベルトラさんの罰ゲーム確定。

 ワタシが負けたらヘゲちゃんとベルトラさんとで最下位を決める。

 ……そういえば、どうやって決めるんだろ。ま、いっか。ようはワタシが勝てばいい。


 ワタシの手札は残り1枚。ベルトラさんが2枚。ここでババを引かなければワタシの勝ちだ。さすがに少し緊張する。


 ワタシは高鳴る心臓を落ち着かせようと、大きく息を吸った。


「ベルトラさん。本当にいいんですか?」

「もちろんだ。おまえも初めてじゃないんだろ? 思い切って早くやれ。こっちまで緊張してくるだろうが」

「じゃ、じゃあ」


 ワタシは震える手をベルトラさんの胸元に伸ばした──。なんか百合百合しいな。


 ベルトラさんが胸元に構えたカードのうち、左を取る。ハートの3。ワタシはクラブの3と一緒に場へ捨てた。


 ベルトラさんがうなだれる。解るよ。ディナーデートに逃げられ、罰ゲームがこんにちわ。

 でもこれこそがヘゲちゃんの考えた残酷な暇つぶしなのだ。ワタシはただ、命令されて仕方なくやっただけです。


「それでアガネア、罰ゲームは考えたの?」

「もちろん」


 ベルトラさんが身構えた。見苦しいことを言わないあたりに漢気が感じられる。


「飛行船を降りるまでの約1日、ベルトラさんは人型に変身して過ごしてください」

「まあ待て。ちょっと待て。な?」


 急に作り笑いを浮かべ、機嫌を取るような声を出すベルトラさん。さっきまでの堂々とした態度はどこへ消えたのか。


「どうしたんだ急に。おまえはそんなこと言うような奴じゃなかっただろ?」


 初めて反抗期に遭遇したオカンみたいなことを言う。


「前から一度、見てみたかったんですよねー。ほらワタシ、擬人じゃないですか? 人型に興味があるっていうか」

「そんなおまえが期待するような面白いものじゃないぞ。罰ゲームにならない。だいたい、それじゃ他の二人が楽しめないだろ。もう一度、一緒によく考えてみようじゃないか」

「私はそれでいいけど」

「きみの人型は永らく見てないからね。いいんじゃないか、ベル」

「…………」


 ベルトラさんは何かを物凄くガマンするような表情になると、ようやくうなずいた。


「わかった。そこまで言うならやろう。そういう取り決めだしな。ただし、あたしが呼ぶまで三人ともむこう向いてろ。──そっちの野次馬どももだ!」


 ワタシたちは部屋の反対側を向く。少しして。


「よし、いいぞ」


 振り向くとそこにいたのは──。


 え? だれ?


 恥ずかしそうに立ってたのは、ほんわかした雰囲気のお姉さんだった。

 ブカブカの服が落ちないよう体に押し付けることで、却ってその少しむっちりした感じが強調されてる。

 顔立ちは柔らかく、ちょっと垂れた目尻に泣きぼくろ完備。“はわー”とか言うのが似合いそうな癒やしパワーあふれる絶対的に可愛い──。


「なんか言えよおまえら」


 ベルトラさんだった。


「ベルトラさん」

「なんだ」


 見た目と不機嫌そうな口調のギャップがもうね。声まで変わってる。あ、ノドの形が変わってるんだから当然か。


「もうその姿でワタシと末永く幸せに暮らしましょう」

「気味の悪いこと言うな。そういうこと言えって意味じゃないんだよ」

「キモくてもいいですから」

「よくねーよ!」


 だってこれあれでしょ。ベルトラさんの自己イメージだか憧れだかが反映されてるんでしょ、この姿。そう考えただけでもう、もう!

 ダメだ。ニヤニヤが止まらない。


「くっ。殺せ……っ!」


 頬を赤くして涙目でベルトラさんが言う。

 その姿は悪魔にとってもかなりそそるものがあるみたいで、何人か襲いかかろうとして思いとどまってるのがいた。

 そんなことしたら後で大変なことになるからね。


「アガネア。本当に飛行船降りるまでこのままじゃないと駄目か?」


 上目遣いにそんなこと言われたらなんでもオッケーしちゃいそうだけど、ここは人の心を捨て去って。


「ダメです。けどその代わり、最後までがんばれたら賞品のマスク・ザ・ネドヤの食事権を譲りますよ」

「本当か!?」

「はい。無償でいいですよ。いつもお世話になってますから、たまには借りを返さないと」

「お、お、おまえってやつは!」


 ふんわりした手でワタシの手を握るベルトラさん。もうこのまま抱き寄せちゃってもいいんじゃないの?

 いや、むしろ今すぐ寝室へ。


「ヘゲちゃん! ワタシもう寝るね! ベルトラさん、こんなとこにいつまでも居ちゃダメです。行きましょう」

「そんなイキイキしたあなた、初めて見るわ。けどそうね。もう遅いし、私も部屋へ戻ろうかしら」


 そのあと何があったのかは乙女たちだけの秘密だ。

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