方法21-2:水着はどこで買えますか?(備えよ常に)

 ワタシはベルトラさんの説明を遮った。


「それより相談が」

「まともな相談か?」

「はい。もちろん。──それでですね。ワタシ、水着も持ってないし旅行用のカバンとかそういったものも持ってないんですよ」


 それどころか、私物といえば普段の服以外だとヘゲちゃんの書いた設定集と古式伝統協会のパンフ、歯磨きセットとお風呂セットくらいしか持ってない。あとは最低限の身だしなみキットとか。

 大娯楽祭の晩餐会用に仕立ててもらったドレスはアシェト vs. ソウルコレクター 仙女園破壊デスマッチのときに、泊まってたゲストハウスごと灰になった。


「そういえばそうだな」

「お金もあんまりありません。ここで使ったら、向こうに行ってからのお小遣いがわびしいことに……」

「つまりあれか。買い物に連れてって、金を貸してやればいいのか?」

「ですです」

「別にかまわないが、ギアの会の奴らに頼んだほうがいいんじゃないか? あいつらなら金は出すだろう」

「あっ、なるほど!」


 その手があったか。ワタシはギアの会のみんなにたかって生きていけばいいんだった。

 プライド? 聞いたことないなぁ。何語? ドラヴィダ語?


「それは不許可ね」


 ノックもせずにヘゲちゃんが部屋へ入ってきた。


「私が弱体化したいま、ギアの会の会員と出かけて何かあったら誰があなたを守るの? あの会のメンバー、そんなに強い悪魔いないのよ? それに、今の感じだと全員を引き連れて全員にお金を出させないと、揉めるわよ、あれ」


 たしかに。誰か一人と一緒に出かけると、バレたとき嫉妬の嵐がヤバそうだ。けど、そんな大勢でぞろぞろ買い物に出たくはない。


「そうか。となると、あたしが行くしかないですね」

「ええ。お願い。それでアガネア。私も水着やバッグなんかは持ってないの。あなたの分もお金は出すから、適当に買ってきてちょうだい。忙しくて買いに行く時間も惜しいの」


 ほほう。ということはお金が掛からないうえ、ヘゲちゃんにワタシ好みの水着を着せることができるのか。

 どんなのがいいかな。スク水、は魔界に存在しないだろうし、カワイイ系? いやむしろ、あえて大胆に痴女級のヒモみたいなのとか。


 なあに。ベルトラさんもヘゲちゃんも、いくらでも誤魔化しようはある。

 それに裸が恥ずかしくないなら案外普通に着てくれるかもしれないし、そうじゃなくても世間ズレしてないヘゲちゃんさえ騙して着させれば、変だとかヤバいだとかネガティブなこと言える悪魔はいないだろう。

 アシェトも面白がって黙っててくれるはず。


「いやヘゲさん、水着は試着した方がいいですよ。フィットしてないと水の中でズレたりしますし」


 ああっ! ベルトラさんが余計なこと言いだした! ちょっ、それダメ。黙ってて。


「私も多少なら調節できるけど? 自然体じゃないからずっとだと面倒だけど、水着を着てる間くらいなら」


 言いながら微妙に身長や体型を変えてみせるヘゲちゃん。


「なら大丈夫ね。それじゃあ任せて」


 あくまでさりげない口調を保つワタシ。


 よっしゃ、これは行ける! クックック。自分から進んで罠に掛かりにくるとは。


 そんなワタシのドスい欲望を察知したのか、ヘゲちゃんが探るような目を向けてくる。


「……なんだか嫌な予感がする。あなた、何か企んでるでしょ?」

「ううん。例えばどんなこと?」

「えっと、それは、具体的には思いつかないけど……。やっぱりお店に着いたら合流するわ」


 チッ! 勘が鋭いじゃないの。ええい、ここはゴネるしか!


「えーっ! なにそれ? ワタシとヘゲちゃんは硬い信頼で結ばれたんじゃないの!?」

「それは個人的な侮辱と受け取っていいのかしら?」

「すみません、よくないです。あと、なんでそういう話になるのか解りません」


 こうして、ヘゲちゃんにお好みの水着を着せるという夢は破れた。


 けど一緒に水着を選ぶだけでも楽しいだろうし、児ポ法的にも安心だろうし、このさい贅沢は言うまい。


 ……選んでるときにワタシの好みを勧めたらワンチャンあるかもしれないしね。

 大事なのは勝つまで諦めない心。雨乞いの秘訣は雨が降るまでやめないことだって昔の偉い人も言ってた。


 そんなわけでさっそく明日、仕事が終わったら三人で万物市場へ買い物に行くことになった。おお、日常系っぽい! いいよいいよー。

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