番外5:消えた服の謎

※“方法13-3:粘液とワタシ(実験には協力しましょう)”で返ってこなかったアガネアの服についての後日談です。

──────


 その悪魔の名前はオルレー。蜘蛛に似た姿をしている。

 オルレーは今、一人で物置にいた。洗剤を取りに来たらしい。


「あなたがオルレー?」


 ワタシは声をかけた。


「そうだ、って、アガネアさん!? ヘッヘッヘ、どうもこんちわ。

 ……あー、じゃ、俺はこれで。さいならっ」

「ちょっと待って」


 逃げ出そうとするオルレーを呼び止める。


「あなた、ワタシの服売ったでしょ? それも三回」

「ええ、と。なんのことだか俺にはさっぱり」

「ヘゲちゃんが見てた」


 ヘゲちゃんの名前を出すと、オルレーは目に見えて動揺した。


「い、いい、いや、そんな。人違いでしょう」

「そう? なんならいつ、どこで、誰に売ったのか、どんな会話をしてたのか教えてあげるけど」


 いきなり背後の物陰からヘゲちゃんが姿を表したので、オルレーは驚いて腰を抜かした。


「3ソウルズ4ソウルズ、2ソウルズ。合計9ソウルズ」


 ヘゲちゃんは座ったままのオルレーに歩き寄ると、冷たい目で見下ろした。


「何か言いたいことは?」


 オルレーは言葉が出ない。冷酷そうな美少女にそうやって尋ねられたら、ワタシだってビビるわ。 だって今のヘゲちゃん、ガチ暴力のニオイしかしないんだもん。


「言いたいことは?」

「あ、あ、あ、あの。アガネアさんがお金に困ってるって聞いてて、ギアの会の悪魔たちがその服を売って欲しいっていうじゃないですか。こりゃあ売ってお金を作ってお渡しすれば喜ぶんじゃないかなぁ、と」


 ヘゲちゃんがワタシを見る。ワタシは手を差し出してヒラヒラさせた。

 我ながらこの女二人カツアゲの図はヒドい。


 オルレーは私の手に紙幣を置いた。9ソウルズあるのを確かめると、そのうちの1ソウルをオルレーに返す。


「もし今後あなたであれ他の洗濯係であれ、とにかくワタシの洗濯物がなくなったら、その責任はあなたに取ってもらうから」


 ヘゲちゃんを真似て、なるべく冷酷に見えるよう気をつける。

 オルレーは1ソウルを握りしめ、ガクガクうなずいてる。


「じゃ、仕事に戻って。これからもよろしく、ね……」


 ワタシが肩を叩くと、オルレーは落とした洗剤の容器を拾い、走り去った。

 ワタシは少し感動した。


「これが、力の力……」


 ヘゲちゃんが残念なものを見る目でこっちを見ている。

 そして、ものすごい速さで私の手から8ソウルズを取り上げた。


「最初の情報料が4ソウルズ。オルレーの監視費用が1.5ソウルズ。さっきの証言費が2ソウルズ」


 ヘゲちゃんは8ソウルズをしまうと、私の手に500ソウルチップスを置いた。


 ──あれ?


「ああ、いい気分。7.5ソウルズなんてはした金なくてもいいけど、あなたを出し抜けて最っ高の気分」


 そしてヘゲちゃんは心の底から嬉しそうな、いい顔で笑うとワタシに向かってバイバイして消えた。見惚れていたワタシもつられて手を振り返す。


 ──あっ!? 逃げやがったあのヘゲ!


 じっと手を見る。残ったのはオルレーの取り分より少ない0.5ソウルズ。約5000円

 あれえー?


 後日、ギアの会のメンバーを集めて「第1回、その場で脱ぎたて! アガネアの服オークション」を開催したところ、異様な熱気と跳ね上がる金額に怖くなって中断したのはナイショだ。

 だってあれ、絶対に服だけ渡して終わりで済まされる金額じゃなかったもん。みんな目が殺る気だったし。

 中止のお詫びとして一名を後日、アガネアプレゼンツ・スペシャル企画にご招待するオークションを開催したことでその場は収まったけど、欲望と倍々ゲームって怖いもんだなと思った。

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