番外4:再構成されたヘゲちゃんの仮説

※“方法13-2:粘液とワタシ(実験には協力しましょう)”で省略された、アガネアとベルトラが聞き出したヘゲちゃんの話の全文です。設定を深掘りしたものなので読むと色々はかどりますが、読まなくても本編には影響ありません。

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 ワタシとベルトラさんがヘゲちゃんの話から再構成したのは、実際にはこんな話だった。

 


 魂はその質、つまり輝きの強さとサイズで五つの等級にわけられる。

 5が最高で1が最低。ただ魂にバラつきはほとんどなく、99パーセント以上は質、サイズともに等級3だ。過去に見つかった最高品質で質5サイズ3。最大サイズで質4サイズ5。


 ところがワタシの魂は、むりやり等級に当てはめるなら質、サイズともに10は超えるらしい。つまり規格外の魂ということだ。なぜなら、ワタシもまた特別な存在だからです。


 そして魂の等級が一つ上がると、その魂を所有する悪魔に与えられる補正効果は10乗になるという。

 その計算からすると、ワタシの魂には莫大な補正効果があることになる。

 正確な数字ではないけれど、ワタシの魂ひとつでミュルス=オルガンの消費する全エネルギーを数百年でも余裕でまかなえるくらいらしい。


 “最初にあなたが来たとき、私たちはあなたから目をそらしてたでしょ。あれは魂の輝きが強すぎて直視できなかったから”


 ヘゲちゃんはそう言ったけど、正直あの時はそれどころじゃなかったので憶えてない。


 “ちなみに魂の等級はその人間の能力や人柄とはなんの関係もないから。最高品質の魂の持ち主はくだらないゲスなチンピラだったそうよ”

とも言っていた。

 わざわざそれ言わんでも。実際ちょっと調子乗りかけたけどさ。


 とにかく、そんな魂でもツノをつけてから誰にもバレてはいない。

 けれど不安要素がある。ギアの会の悪魔たちだ。


 ワタシとしては納得いかないけれど、ヘゲちゃんやアシェトからすると、会員たちがあそこまでワタシに惹かれる合理的な理由はない。

 そして、会員には共通点があった。みんな“魂の感受性”が飛び抜けて高いのだ。

 と言っても、悪魔には身体測定も能力検査もないので、あくまで本人の話や周囲の評判でしかないけど。


 魂の感受性は悪魔や一部の魔獣が持っている知覚能力で、これがあるから悪魔は人間の魂がわかる。感受性が高いほど遠くの魂を察知できたり、魂が密集してても一つ一つをはっきり見分けられたりする。


 そこでヘゲちゃんとアシェトは一つの仮説を立てた。


 ツノは確かに魂を隠している。

 ただ、魂の感受性が特に高い悪魔が無意識に感じ取れるくらいには、何かが漏れ出しているんじゃないか。


 悪魔は魂に惹かれる。ましてや今の魔界は魂禁止。その誘惑力は絶大だ。

 ギアの会のメンバーは知らず知らず、ワタシから漏れ出す魂の気配みたいなものに魅了されているんじゃないのか。

 ただそれはすごく微弱なので本人たちは無自覚。おまけにワタシが擬人だと信じ切っている。だからワタシが人間だとまでは見抜けない。


 この仮説なら色々なことの辻褄が合う。たとえばヘルズヘブンで仙女園の悪魔が、ワタシに魅了の術を使われてると思ったこととかもこれで説明がつく。


 もしこの仮説が正しいなら危険だ。もっと魂の感受性が鋭い悪魔や、勘の鋭い悪魔はワタシの正体に気づくかもしれない。

 今まで大丈夫だったということは、その可能性はあったとしても非常に低い。けど、ゼロじゃない。


 そこで対策を考える一方、ヘゲちゃんたちは仮説を検証したいと思ってた。

 そこに都合よく現れたのがサンビナだ。サンビナは盗みを習性にしてるだけあって、各種の知覚能力が魔獣の中でも特に高い。当然、魂の感受性も。


 そしてサンビナたちは魂が大好きだ。魔界が魂禁止になる前は、せっかく手に入れて厳重に隠しておいた魂をサンビナに盗まれるということもあったらしい。


 そんなわけでワタシがサンビナとご対面して、もしサンビナが魅了されれば仮説は正しく、魅了されなければ間違っていたという検証実験ができる。たぶん。きっと。できるといいなあ。

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