方法8-4︰突然ですが、クイズです(質問はよく考えて)

「やれやれ。こんな何も知らない娘相手に、よく引っ張ったもんだ。もうおまえさんに出せる問題なんてありゃしないよ」


 言われてようやく確信する。

 クイズは「知能」ではなく、「知識」のレベルに合わせられる。

 そしてワタシは悪魔としての知識がほとんどない。

 ラズロフたちは今の人界の知識がない。

 つまり出題範囲は限りなく狭く、問題は簡単になる。これが秘策。

 あ、ワタシの知能レベルは高い前提死守で。


「私は最初の兄のラズロフ。ここへ誰かが来るのは本当に久しぶりだ。

 では、これから質問に答える。一度しか言わないからな。


 まず最初の質問の答えだが、“判らない”だ。

 いちおう質もサイズも最上級は対応できるよう作ってはいるが、それも数字上の話で、実際の検証はできていない。

 ましてやそれ以上など保証外だ」


ワタシは必死で手帳にメモる。


「次の答えだが、これも“判らない”。

 そういう噂はあったが、どれも噂止まりだ。今でもまだなら、できないのかもしれないな。

 そういえばワタシが現役のころは“卑屈なヨーヴィル”という悪魔が研究していた。その分野では有名人だったはずだ。

 先にそっちへ行かなかったのなら、もう街を出てしまったのかもしれんな」


 思わずペンを握る手に力がこもる。

 知らないんなら先にそう言えっての。

 どんな質問か知らないけど、ここまで来てどちらの答えも“判りません”って。使えねーな!

 それにこれ、どう考えてもワタシ関係ないよね!?


「ところで、おまえさんも見事クイズに答えてここまで来たんだ。特別に一つ、何か質問に答えてやろう」


 質問? ないよ。あったとしても、どうせ“知らない”で済まされそうだし。


 あ、そんなことないわ。いま疑問に思ったばっかりじゃん。これならどれだけ最初の兄のラズロフが耄碌してても答えられるだろうし。


「ワタシが知りたいのは──」



 帰りは数時間かけて下った坂を登る。

 もうね、アホかと。普通こういうのは用がすんだら出口までワープとかがあるべきなんじゃないの? ボス倒して帰りのダンジョンでパーティが全滅するようなゲームは嫌われちゃうぞ☆


 というかね、途中で心が折れました。

 壁にもたれて座ってたら、よほどヤバい感じだったのか、寝てたラブロフが起きて話しかけてきた。


「大丈夫か」

「ダメです。疲れました。なんていうか、疲れました」

「普段からラズロフ兄弟社印の健康ドリンク、ブラドガン・オメガを飲まないからだ。

 あれさえ飲んでればこれくらい何でもない。デキる悪魔はみんなブラメガと呼んで愛飲しているぞ。

 私らが定期購入者に行ったアンケートでは回答者のじつに9割が定期購入をしていた」


 なんで定期購入者相手のアンケートで定期購入が10割にならないんだ。


「どうせ人間が飲むと大変なことになるんでしょ」

「む。まあ、そうだな。眼球が破裂するな。いやいや、これはこれは。私も少し歳かなあ。はっはっは。ではおやすみ」


 おやすみ、じゃねーよ。スキップ不可のCMか。ワタシは立ち上がると、よろよろ歩きだした。


 ようやく最初の小部屋に戻ると、二番目の兄のラズロフが待っていた。


「おお。戻ったか。おまえさんならたぶん大丈夫だろうと思っていたよ」


 たぶん? だろう? 安心して本音がポロポロ出ちゃってるラズロフ。ワタシはツッコむ気力もなく、あいてる椅子に座る。


「それで、返事は?」


 ワタシから手帳を受け取ると、書かれてることを確認するラズロフ。


「アシェト様たちにも見せに行こう」

「ムリ。歩けない。行ってきて」


 ラズロフは部屋を出ると、すぐに戻ってきた。背の高いラズロフが一緒だ。


「この七十六番目のラズロフに背負わせて行こう。ここよりも応接室の方が快適だ」


 というわけで、背の高いラズロフに背負われるワタシ。なんだか金木犀と柑橘系を合わせたようないい香りに包まれる。


「判るかな? いい匂いがするだろう」

「はぁ、まあ」

「これはウチの香水ラズロフレグランスの今季期間限定商品だ。気に入ったならぜひ早めのご購入を。残りわずかだからね」


 嬉しそうに商品説明をするラズロフ。ふたたびのCMタイム。


「試供品ちょうだい」


 もはやワタシには恥も外聞もないのだ。


「それなら、“ラズロフレグランス無料お試しキット〜10のいざない〜”を帰りにあげよう。10ものサンプルが入ったオトクなセットだ。きっと気に入るだろう。ウチは香りはもちろん、人間でも使えるくらい肌に優しいのが自慢だ」


 動植物や鉱物といった薬種は香水の原料にもなる。そんな説明を聞きながら、ワタシは眠りに落ちていった。



「着いたぞ」


起こされたワタシはズルズルとラズロフの背中から、すぐ後ろのソファへずり降りる。


 部屋には二番目と七十六番目、一番上のラズロフとアシェトが居た。一番とアシェトは手帳のメモを読んでうなずく。


「字が汚えな」

「ですな」


 はったおしてやろうか、こいつら。


「しかし、これで裏付けは取れましたな」

「ああ。アガネア、よくやったな。けど、この卑屈なヨーヴィルってのは」

「心当たりはありません。ですが、これでいくつか見えたものもある。まずはそこからでしょう」


 扉をノックする音。


「どうぞ」

「あら、みなさんお揃いで」


 イカばあさんだった。2本の触腕でグッタリした女性を抱えている。


「アシェトさん、アガネアさん。どうです? この娘」


 ワタシたちはイカばあさんのところへ行くと、抱えられた女性を見る。


 まず、スタイルがいい。地味な服の上からでもスラリとしていながら程よい肉付きで、出るところは出ているのが判る。

 顔立ちは親しみやすく可愛らしいといった感じで、褐色の肌。よく知らないけど中東系みたいだ。

 歳は20歳前後といったところ。ただ、表情が……。

 開いた目は天井を向いてるけど、何も見てない。口も半開きだ。


「フレッシュゴーレムは起動して2日くらいはこんな感じよ。大丈夫」


 ワタシの視線に気付いたのか、イカばあさんが言う。


「不手際の詫びだって、頼んでたよりグレートの高い奴をくれたの。あら、ラズロフのみなさんの前で言うことじゃなかったわね」


 ほほう。これがフレッシュゴーレム。

 たしかに人間にしか見えない。そしてワタシには似ていない。

 みんな一点ものらしいから、同じなんてことはそもそもないんだろうけど。


「せっかくだからセットアップまで済ませましょうってことになったんだけど、時間が掛かっちゃって。お待たせしたんでなければいいけど」

「いや。こっちもこっちで時間が掛かった。気にすんな」


 こうしてワタシたちはフレッシュゴーレムを無事に受け取ると、百頭宮へと帰った。

 ワタシは馬車の中でまた寝てしまい、起きると自分の部屋のベッドの上だった。

 後で聞いた話では、ベルトラさんが運んでくれたらしい。しかも姫抱っこで。

 マジか。寝てる場合じゃなかったわ。


 本日、命を賭けてクイズに挑んだ報酬、香水の無料サンプルキット。

 うわっ...ワタシの命、安すぎ...? みんなが長寿と健康を願い、今、もっとも死んではいけない人物の扱いじゃないよね、これ。

 どうなってんだ。

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