第3話 オアース


駅から直接向かえる大型ショッピングモール、「オアース」の入口は昔のまま変わっていない。都会の中心ではないにしろ賑わっている人混みがオアースへ行き来している様は、これまた懐かしい感覚を呼び起こした。

巨大な建物は六階建てになっており、3階の真ん中から屋上まで吹き抜けで中庭のように中央広場がある。下の階にはフロアの大半を占める本屋やらフードコート、軽食が揃っており、上の階には洋服店のブランドから家電量販店まで幅広いジャンルの店が展開している。

そして五階にはゲームセンターがある。


ゲーム、漫画を買うときや、友人とゲームセンターで遊ぶ時世話になった思い出の場所。映画を見たり、ただ通り過ぎたり、ことあるごとに訪れた場所。時間と共に変化してきた町と同じく、このオアースもまた昔のままではいられなかった。


ゲームセンターが縮小されていた。



ゲームセンターが……。


「おい、まじか」


大手以外の小さな店舗の顔ぶれが大きく変わっていたのは予想の範囲内だったが。

いま目の前に絶望が広がっている…。


なんということでしょう、あの大きかったゲームセンターの実に半分の面積が「トーマ・スパーク」になっているではありませんか。対象年齢十歳以下程度の子供向けコーナーの完成です。


「なにが…、何が生き残ったんだ」


急ぎ足でゲームセンターへ入る。そこに残っていたのは大量のクレーンゲーム、申し訳程度の音楽ゲーム、そしてあまり変化の見られない奥の方のメダルゲームのコーナーだった。


「おう、なんだこのUFOキャッチャーの数は」


「ゆーふぉー…きゃっちゃー?」


「うん、このクレーンで下の景品を持ち上げて取るんだ」


少女は珍しい物でも見るかのように、まじまじとクレーンゲームを眺めていた。

特に引っ掛けてあるタイプや、ピンポン玉を使うタイプなど特殊なものを見ていた。


「どうだ?なにか欲しいものでも」


と、またこんな事ばかり聞いている。無いのなら無いで、見ていても楽しめるだろうに。


「ううん………」


「そっか…、じゃあ俺が欲しい物取るから見ててくれ」


久しぶりのUFOキャッチャー、肩慣らしに知っているアニメのミニぬいぐるみを取ろう。

なかなか可愛いなこれ。




手始めに500円入れ三回分のプレイ権を買う。


「これは二本のポールにタグを挟んであるタイプだ、これはアームで持ち上げるんじゃなくてアームが下りるときにタグをずらして取るんだ」


平行な二本の突っ張り棒、そこにタグの対角を引っ掛けぬいぐるみをぶら下げている。ケースの右下に攻略法のヒントが書いてあり、アームをタグの下に滑り込ませ、一部を持ち上げてずらせということだ。


「だがこれは罠だ」


「………嘘なの?」


「嘘じゃあないんだけどな?ここのポールはそこそこ隙間が大きい、から、こうやって……」


慎重に動かし、下す。

が、少し足りなかったのか、アームは狙い通りの場所へは行かない。


「む、ブランクか…」


二回目、アームをタグの下に入れるのではなく、あえてアームが下りる動きをそのまま引っかかっている角に当てる、開いたアームの外側の傾斜にはじかれ、さらに外へとずれる。

すると美しいほどスムーズにぬいぐるみが落ちた。


「……す、すごい………」


華麗なプレイに感嘆する少女は目をキラキラさせていた。

思っていたより楽に取ることができた、一回余らせ500円でぬいぐるみが手に入ったと考えると相当お得だ。

想像以上に感覚が残っていたのか。


残りの一回でもう一つトライしたがさすがに取れなかった。


「こーゆーのは諦めも肝心なんだ、変に執着すると沼にはまるから」


「…沼?」


「引くに引けなくなって大量にお金を使っちゃうんだ……あれ?あのタペストリーは……」





********





結局2500円使ってしまった。

片アーム引っ掛け式であのアームの弱さはまさに悪意の塊だった。


あの後いろいろな場所を回った。ちょっとしたパワーストーンなどの売ってる宝石屋や本屋、今は数階に亘る家電量販店の格コーナーを回っている。


同じ時間を共有するにつれ、少しずつ少女との心の距離が近づくのを感じた。

今では静かながらよく笑う少女だ。

新しいスマートフォンの立ち並ぶケータイコーナーで少女は最新の機種にくぎ付けになっている。


「これ……なに?変なカメラ」


「ん?スマホのアプリだな……例えばこうやってそこの机を撮るだろ?」


「うん…?」


「するとな、ほい!じゃん」


カメラは自動で地面をスキャンしてそこにARマットなしでその場に3Dモデルを表示した。映し出されたクマのマスコットはカメラの傾きやタップ、画面揺らしなどで豊富なリアクションを取る。実に自然な動きは見ているだけで面白い。

スマホを傾けると派手に手を振ってバランスを取ろうとするキャラは可愛げがある。


「ふふふっ…かわいぃ」


「いろいろ、あるみたいだな。もうちょっといじってみ?」


「………すごい、…………ハイテク…」


楽しそうに新型のスマホで遊ぶ少女をついつい眺めてしまう。

ふと視線を上げると、少し離れた所で一人の高身長の男が店員と話しているのが見えた。


「…………あれ?」


「ええ、そうなんですよ。こちらのサニーの最新機種もおすすめですね」


「おぉ、画面の大きさがちょうどいいですねぇ……。」


「あれぇ!??森ィ!!」


思わず大声を出してしまった。そこにいたのは森ユウダイ、かつての同級生であり、この町に残った旧友だ。長いこと連絡を取っていなかったが、それでもお互いすぐに認識できた。


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