第2話「まど」

自室のドアを開けると夏海なつみがいた。


「あのー、夏海さん?」

「んー?」


黒い半袖Tシャツの袖を肩までまくりあげ、下には茶色のショートパンツを穿いていた。靴下の類ははいていないから健康的な素足が丸見えになっている。

その足に見とれそうになって、慌てて頭を振って煩悩を払う。


「……スリスリしたい」


おっと、煩悩払えてないわ。まあいいや。


「スリスリ?」

「それは忘れようか。……僕が言いたいのはね。窓から勝手に入ってこないでっていつも言ってるでしょ!」


夏海の家は、僕の家の隣にある。そして夏海の部屋は僕の部屋から丸見えになるほどに近い。

それを利用してベランダからベランダに飛び移り、夏海はたびたび僕の部屋に侵入してくる。今回もきっとそうだ。


「いいじゃん、別に」

「よくないよ!」

「なんで」

「なんでってそれは常識であって、というかそもそも僕が何かしていたらどうするのさ!」

「何かってなに?」

「そんなのナ……」

「ナ?」

「なんでもないよ!」

「なんでキレてんの」


危ない、危ない。女の子に対して変なことを言うところだった。


「とにかく! 勝手に入ってこないで」

「なら鍵を閉めとけばいいのに。開いてるからわたしが入ってくるんだよ」

「他人事みたいに言わないでよ」

「てかさ、本当は入ってきてもいいように鍵を開けてくれてたりして」

「……、」

「……え、なに。図星?」


そ、そんなまさかー。ただ閉め忘れているだけなんだよなー。

べ、別に夏海ちゃんのために開けているわけじゃないんだからね!

お気に入りの場所に休みにくる猫みたいでかわいいなぁ。ぺろぺろしたいなぁ。しかたがないから開けといてあげるかぁ。もう、まったくもう。結婚しよ。

とか思っているわけじゃないし。

夏海ちゃんが遊びにくる。すると僕のベッドを占領し、僕の私物をぺたぺた触る。シーツに夏海ちゃんの匂いがつき、僕の私物に夏海ちゃんの指紋がつく。僕は興奮する。ならいつでも来られるように窓の鍵を開けておこう。でも誤解されないように口では文句を言っておこう。完璧な計画だ!

とも思っていないから。うん、オモッテナイヨー。


「この話はなかったことにしよう、うん、それがいいよ」

智樹ともきが文句を言ったくせに」

「そんなことより結婚しよ」

「は? やだ」

「じょ、冗談なのにマジトーンやめて……」


しかもジト目で僕を見てくる。悲しい。悲しいのに興奮するって僕は変態かよ。変態だね。変態だったわ。そして夏海に対してはドM 。救いようがないね!

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ボーイッシュな幼馴染がいる日常 水無月ナツキ @kamizyo7

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