どんぐりころころ
おっさんが、歩いてるな、と思った。
和幸は二階のベランダから見ていた。
それから、おっさんの禿げ頭めがけて、どんぐりを落とした。
昨日公園で拾った、どんぐりの実。
今、母親は家にいない。
マンションを出て、買い物中だ。
和幸は5歳だが、お留守番できないほど馬鹿ではない。利巧すぎる訳でもないが、昨日来ていた従姉妹のみきちゃんが、母親を独占していたのが許せなくて、叩いた。
そしたらみきちゃんは和幸に馬乗りになって殴って来た。
人形でびしばし殴られた。
それからわーんとみきちゃんは泣いて、和幸はほけっとしていた。何が起こってるんだ、という感慨。
わーっとみきちゃんは、そのまま走って家に帰ってしまった。
同じマンションの、4階に住んでいるみきちゃん。
ぽろりと落としたどんぐりが、おっさんのパーカーの中に入った。
おっさんは気づかずに歩いていく。
みきちゃんと拾った、母親と拾ったどんぐりの実。
おっさんと一緒に行ってしまう。
みきちゃんは、今日お引越しだ。
和幸はさっきから見ていたトラックに、みきちゃんが乗らないか見張っている。
「ただいまー」
母親が帰って来た。
「和幸、みきちゃんね、ちょっと会いたいんだって」
振り返ると、みきちゃんがベランダの前に立っていた。
二つくくりの可愛いみきちゃん。
「あのね、」
手を出した。
「あげるね」
和幸は受け取った。
その実を未だ持っている僕は、こじらせた恋心を、今日みきちゃんの命日と共に、この公園に返しに来た。
みきちゃんは19歳の時、旅行先から帰らず、行方知れずとなった。
多分、もうこの世にいない。
僕は愛犬のロハスと一緒に、土を軽く掘ってどんぐりを一粒、埋めた。
「さよならみきちゃん」
ロハスがふんふんと匂いを嗅ぐ。
僕は振り返らずに、歩き始めた。
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