私に訪れた命の種

ラヴィは、遠い辺境の地で育った。


熱い、とにかくいつも、何かと砂嵐に覆われ、喉が渇いている。

ラヴィの家族は、彼を置いて先に外国へ渡る船へと乗ってしまった。

彼はそれを知らなかったし、知った時もとにかく喉を潤すことばかり考えて、いつも自分の運ぶ水を横取りしていく家族が、ついて回る妹がいなくなって清々した、という気持ちでもある自分を発見し、毎日の水運びで生活を安定させてくれる実業家の下で働き、猫のパロニエも独占出来て、彼にとっては毎日が至れり尽くせりだった。

相部屋になった年長者のマニーが、いつも外国のおとぎ話を聞かせてくれ、それは彼女の妄想でもあったかもしれないが、夜寝る前には幸福な気持ちになれたし、水汲みにも何にも着いて来るパロニエさえいてくれれば事足りた。

イギリス系の顔をした軍人とサッカーをすることもあったし、同い年の子たちと市場へ盗みに入るときは非常にわくわくした。


毎日が幸福だった。猫のパロニエが死んでしまうまでは。


パロニエは、仲間たちに鍋にされてしまった。残った皮を見て、ラヴィは悲しんだ。

それから急に、家族に会いたくて堪らなくなった。


「どうか手紙を届けてください!」


そう軍人に手紙を渡しても、金を要求しに手を差し出してくる彼らを見て、ラヴィは自分は何も持っていないのだと気づかされた。


猫のパロニエだけが彼の生きがいだったのだ。


ラヴィは同じ猫を探し回った。来る日も来る日も家族からの手紙を待ちわびた。

しかし何も返事は無かった。ラヴィは捨てられたのだと、この時始めて気が付いた。


ある日、朝食のフレークの中に、マニーが「見てラヴィ、これを沢山集めるのよ」と言って植物の種を発見し、囁いた。

ラヴィは食べる分が減るだろ、止めろよと言いながらも、マニーの云う通りにした。


それからマニーは、屋敷の捨てられた容器を集めた。空の瓶、缶詰の缶、穴の開いたバケツ、などなど。


それらを白い壁のところに並べて、マニーは一つ一つ植え、水を注いだ。

ラヴィは何か清い儀式を見るように、これを眺めていた。

彼の褐色の肌に、白い壁と清潔なマニーの紅いビロードがよく映えた。


ある日、晩に、ラヴィは夢の中で、おうい、と呼ばれた。

夢の中で、ラヴィは砂漠にいた。空は白くて、薄い紫を帯びている。月だけがぽっかりと金色に輝いて、辺りは明るい。


遠くにマハラジャの王様?と思える人が、実際年齢も、というか容姿そのものすべてがラヴィとうり二つのその人が、とても綺麗な服を着て、象に乗って現れた。


ラヴィ、お前は幸福を拾ったぞ!見よ、あの星だ。


その人が指さす方を見れば、空に月の傍に輝く星があって、なんだ、北極星じゃないか、とラヴィが叫び返すと、そうさ、お前の人生は、まっすぐになるように約束されたのさ!とその偽ラヴィは笑った。


星が降り出した。

回る地球に添って、ぐるんぐるんと夜空は回る。星の軌跡は後を絶たない。

北極星が、ラヴィに向かって轟々と迫って来た。

ラヴィは光に包まれ、思わず「マニー!」と言って跳ね起きた。


マニーはびくっとして起き、どうしたのラヴィ、と言って彼の顔を覗き込んだ。

「僕は見たんだ、北極星を手に入れたぞ!」

そう言って、彼は真夜中にマニーの手を引いて植木鉢を見に行った。

一つ一つに、芽がびっしりと生えていた。


それを窓から、この家の主人が見ていた。

にんまりと笑って、この様子を見ていた。


あくる日、マニーはお呼びがかかり、聞けば旦那様の後妻になるとのことで、ラヴィには庭師を務めることを約束に、植木鉢を全て枯らさず育て終えることを誓わされた。


ラヴィの育てていたのは、ラズベリーやピスタチオ、この地では絶対に育たないものばかりだった。


「よくやった、よく耐えた」


主人はそう言ってラヴィの手を取り、その額に掌を翳した。

ラヴィはこそばゆそうに、マニーを見上げた。

マニーはゆったりと笑って、「よくやったわ、ラヴィ」と笑った。

ラヴィは、偉業を成し遂げたのだ。

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