第5話 海に立つ悪のロボットとその操縦者の苦悩

 海に巨大ロボットが立っていた。全体的に四角い、どこか昔のブリキのロボットのような雰囲気だった。このロボットの名はゴバンナー。悪の秘密結社なたあんのつくった日本征服のためのロボットだ。

 だが、ゴバンナーは膝の深さの海に立ったままだった。ときおり微妙に姿勢を変えながら、海につっ立っていた。

 日本を制服するのだから、その国を疲弊させることは決して利口な考えではない。だから、ゴバンナーは水際でじっと待っているのだった。

 なたあんのロボットに唯一対抗できるロボット、バンガイナーが現れるのを待っていた。いや、バンガイナーでなくてもよかった。自衛隊が攻撃してきてくれてもよかった。とりあえず、無抵抗な市民に攻撃することは彼らなたあんにとっても得策ではないのだから。

 だが、自衛隊は巨大ロボットと戦うために出撃できるのか、ということでモメていた。だいたい、この巨大ロボットの出現のために被害が出たわけではない。とりあえず攻撃の意志はそのパイロットから表明されているが、それから二時間たった現在も、ゴバンナーはおとなしく海に突っ立っていた。

「バカにしおって……」

 ゴバンナーのパイロットのなたあん将校、池田裕司は通信のスイッチを入れた。

「攻撃します。一度痛い目をみせねばやつらは平和ボケでどうにもなりません」

「そうか。では、S-64ポイントの建物を破壊しろ」

「わかりました。みせしめですね」

 ゴバンナーは、あたりに気をつかいながらそろそろと歩いてS-64ポイントなる場所のビルにたどり着いた。耳にあたる部分のアンテナから怪光線が発射され、ビルは崩れた。

 廃ビルのオーナーは無料で解体してもらって喜んだ。

「こんなことで、日本征服ができるのかっ」

 池田はコクピットで地団駄を踏んだ。


 ちなみにバンガイナーは燃料切れで動けなかった。

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