学校

覚えていない。思い出せない。

「いつ…?誰が…?どこで…??」

思い出そうとするほど消えてゆく。

「おーい瞬!そろそろ起きないと遅刻しちまうぞー。」

「はーい!今行くー。」

急いで制服に着替え準備をする。今日もばっちりだ。入学式だから…筆箱に…スケジュール帳だけでいいか。最近、スケジュール帳を見るとふと思う。いっそのこと夢を兄貴に話してしまうのもありかもしれない。そう思いながら階段を降りる。

「おはよー。あのさ、兄貴…」

「あー、悪ぃ…今、手が離せないんだ。また後にしてくれないか?」

「あ…うん…」

そうだな。この忙しい朝に言う内容ではない。帰ってきてからでもいいだろう。

「瞬、それより時間大丈夫なのか?」

時計を見る。ん…?左から…八…一…五…?

「やっべ!!遅刻する!!!」

皿の上に置いてあるトーストをくわえながら慌てて飛び出す。

「いっ、いってきまふ!」

「ほーい、いってらっしゃい」

外に出ると小鳥たちが出迎えてくれる。が、そんな声は聞いている余裕はない。急がなければ。

「やべぇ…あと五分だ…」

あの曲がり角を右に曲がれば弥生踏切だ…。あれ…これって?どこかで…

ま、まぁ俺は少女漫画のヒロインでもないしそんなことあるわけないよな…。

少し期待しながらも曲がり角に差し掛かる。

………何も無い。そうだよな、弥生踏切の方からこっちへ曲がってくる女子高生なんていない。よっぽどの理由がないかぎり。

「間に合え…間に合え…。」

俺は息を切らしながらも二分前に学校に着くことができた。窓から誰かに見られているような気がしたが、急いでいたので気にしている暇はなかった。外ではクラス分けが発表されていた。

「おーい!瞬!こっちこっち!」

「おぉ!楓!」

あいつは秋山楓あきやまかえで、俺の幼馴染みで、小さい頃はよく一緒に遊んでいた。成績優秀、スポーツ万能、顔も爽やか系のイケメンで非の打ち所のないやつだ。楓ならもっと上の高校に行けたはずなのに「俺は、お前と一緒が楽しいからこれでいいんだ。」なんて言って、この桜ノ山高校を選んだ。ほんと頼れるやつだ。

「瞬、聞けよー!俺とお前、一緒のクラスだったぞ!」

「まじで?やったな!」

他校から入ってくる人が多いなかで、楓と一緒になれたのは心強い。

「よし、教室行こうぜ。」

そうして下駄箱に靴を入れ、教室のある階まで上がる。その途中で綺麗きれいな少女に会う。

「おい、見ろよ瞬!春野櫻子さんだ…!」

「あぁ、あれが噂の?」

「やっぱ綺麗だなぁ…」

そうだった。楓は春野さんの大ファンだった。彼女のことを話し出すと止まらない。

「楓…今日は付き合わないぞ?」

一、二時間も春野さんの魅力について聞くのは正直聞き飽きた。

「サインとか貰いにいこうかな…瞬!頼む!一生のお願い!一緒について来てくれないか?」

一瞬断りかけたが、入学式まで時間はあるし、いつも世話になってるからいいか。

「いいよ、ほら早く行こうぜ」

「さっすが瞬!」

俺たちは春野さんを追いかけた。


………いない。どこにもいない。この階段を上ったはずだ。さっきまで横にいたはずの楓もいなくなっている。どういうことだ、そう思いながらも階段を上る。やがて屋上への扉が俺の目の前にたたずむ。俺は何の疑いもなくドアノブをつかむ。ただ春野さんに会いたいという気持ちが強かった。冷たく重い扉をギシギシと音をたてながら、ゆっくりと開く。隙間から光が差し込み、太陽の下に照らされる。何かから解放されたような気分だ。こんな所で二人で弁当でも食べたいな。身体に入った力を抜き、座ろうとした瞬間だった。背後から押され、俺はその力に抵抗できず屋上から落ちてしまう。スローモーションのようにヒラヒラと。それと同時に走馬灯のように記憶が駆け巡る。


……………………………………………………


「サクラもニンゲンもいっしょ。ジカンがたつときれいにさいたサクラさんも、ちってしまう」

「ねぇねぇ、おかあさん」

「なぁに?しゅん」

「ちるって何?」

「ちるっていうのはね、サクラのはなびらさんがヒラヒラとおちることよ」

「ちったサクラはどうなるの?」

「それはね………」

……………………………………………………


目が開く。ここは学校か?俺は死んだはずじゃ…。前では先生が授業をしている。黒板の日付は四月三十日となっていた。入学式が四月六日だったので約三週間ほど経っている。どういうことだ?さっきまで俺は…俺は……わからない。何をしていたのか、どこにいたのか。ただ一つ、死ぬ瞬間に見た子供の頃の母との思い出はハッキリと覚えている。確かあの後は…

「こら!玉城!授業に集中せんか!」

「ふぁ、はっ、はいっ!!」

恥ずかしい声に怒鳴り声、クラスメイトたちにゲラゲラと笑われる声。ここでは冷静に考えれそうにもない。

「どうした瞬、らしくないぞ?」

楓だけは真剣に俺を見つめていた。いつもだったら笑っているはずだが、何かを察したのだろう。驚くほど冷静だった。

「いや、何でもない。少し悪い夢を見てただけだよ」

「そうか、それは大変だったな。」

その冷静な対応が俺は少し怖かった。いつもの楓のような気がして楓じゃない。そんなことが気になりながらも俺の一日は終わった。

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桜チル桜サク 豆野 ずんだ @zunda_mameno

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