時間
この日は俺の初登校の日だ。俺は
「ネクタイを
あらかじめネットでネクタイの結び方を調べておいたので
「兄貴ー。起きてるー?」
返事がない。おかしい。この時間はとっくに起きているはずだ。もう一度時計を確認する。目を擦ってみる。夢…か?頬をつねってみる。いや…夢じゃない…!
「と、止まってる…!」
腕時計や壁掛け時計の長針も短針も秒針も全てが動いていない。全ての時計が午前五時五十二分五十一秒で止まっている。
「こんなことが…あるのか…?」
確かに止まっていた。これは夢と関係がある。直感だがそう思った。
「そうだ、メモしておこう…」
夢のことがあってから今日あったことを忘れないようスケジュール帳にメモする癖がついていた。しかし夢の内容までは思い出せないため、実質無意味である。まぁそのためだけにある訳ではないのだが。
「だいぶ埋まってきたな…」
中学校一年生から書き続けているスケジュール帳をペラペラめくっていると、見覚えのない字が目に止まった。
「
高校一年生の春に書いてある。俺の字じゃない。兄貴が書いたのにしても綺麗すぎる。
「誰なんだ…?」
三月五日?来てください?確か一ヶ月くらい前だよな。何が何かわからないが書き留めておく。
「ほんとに時間止まってるんだな」
どうやら俺が触れた物は動くらしい。時計や人は触れてみたが動かない。取ったメモをじっと見つめてみたが、何もわからない。
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①時が止まっている
②触れた物は基本的に動く
③人と時計は動かない
④スケジュール帳の謎の文字
⑤三月五日、何かが起こった
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三月五日、何かある。いや、何かが起こった。しかし時間が止まったままでは何もできない。
「何か解決策はないかな」
とりあえず外に出てみることにした。ドアを開けて見上げると、スズメが空中で止まっており、今にでも羽ばたきそうだ。散った桜も宙を舞っている。
「散った桜か…うっ…」
夢を思い出してしまった。吐き気と頭痛が俺を襲う。急いで部屋に戻ると机の上に置いてあった薬を三錠飲み込む。動かない時計をちらりと見る。
「はぁはぁ…学校…行かないとな…」
普段通り時間が進んでいたら学校に登校するくらいの時間だろう。兄貴には悪いがこのままでいてもらおう。
「いってきまーす」
学校まで歩いてゆく。歩いて行ける距離なのも中学生の頃の俺にとっては魅力的なことだったのだろう。この付近には中学校がなく、自転車で遠くまで通っていたからだ。
「「あれが桜ノ山高校か」」
ん…?後ろから誰かの声が聞こえる。
「おはよ!瞬くん!」
その一瞬で様々な疑問が頭をよぎる。誰なんだ。なぜ俺の名前を知っている。なぜこの世界で動けてる。
「おはよう」
そうは思いながらも、挨拶してくれたのに返さないのは失礼だと思い、返しておいた。
「瞬くん、なんだか今日は元気がないね。」
誰なのかわからないためか、馴れ馴れしいお節介な美少女にしか見えない。
「あの、失礼なんですけど、名前は…?」
大体予想はついているが、怒られる覚悟で俺は彼女の名前を尋ねた。
「えー。忘れたの?春野櫻子!は、る、の、さ、く、ら、こ!覚えた?」
やはりそうか。この人が春野櫻子。テレビで見るより数十倍可愛い。
「私さ、少しテレビに出てるからって、よく女子がつきまとってくるの…」
そんな悩みを初対面の俺に話していいのか。
「そうなんだ。アイドルって大変だね…」
まぁそれもそうだろう。超有名アイドルと友達になれたら自慢もできるだろうし、なんたって男子の見る目も変わるだろう。しかし何かが引っかかる。そうだ。俺以外の人は動けないはずじゃ…。あまりの可愛さに見とれてしまっていた。急いでスケジュール帳を取り出し、お得意のメモをとる。
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①時が止まってる
②触れた物は基本的に動く
③人と時計は動かない(例外あり)
④スケジュール帳の謎の文字
⑤三月五日、何かが起こった
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よし、これでいいだろう。
「わぁー!かっこいい手帳だね!」
使い込まれた茶色い革のカバーを見ながらそう言った。その声もその瞳も綺麗だ。
「そうかな?兄貴が買ってくれたんだ」
「お兄さん、センスいいんだね!」
兄貴のことを褒められると嬉しい。自慢の兄貴だからだ。
「ありがとう!」
兄貴のことを思うと自然と笑顔になった。
「あ!笑った!へぇ…そんな顔するんだ…」
はっ…!見られてしまった!
「こ、これは…あの…その……」
必死に言い訳を作ろうとするが見つからない。
「あはは!可愛い!」
アイドルに言われている。もっと喜んでもいいはずだ。時は止まっているし、周りの目も怖くない。あれ、待てよ…。本当に時は止まっているんだよな…。疑いながらも改めて学校の時計で確認する。
「午前五時五十二分五十一秒…」
変化はない。しかしなぜ春野さんは…
「また、会いに来てくれる…?」
突然そう言うと彼女は弥生踏切の方へ歩き出した。待て…そっちは駄目だ…!俺の中の本能がそう叫んだ。
「奏子!よせ!やめろ!!奏子!!!」
ジリリリリ…ジリリリリ……。ガシャ。
「はぁ…はぁ……」
目が覚める。外では小鳥たちのさえずりが聞こえる。朝だ。
「夢…だったのか…?」
またあの夢を見たのか。確認のため、机に置いてあるスケジュール帳をめくる。起こったことは現実だった。しかし目覚めたということは俺は何かの夢を見ていた。何かは思い出せない。
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