桜チル桜サク
豆野 ずんだ
夢
「また、会いに来てくれる…?」
「
あの日、彼女は俺の目の前で死んだ。あの制服、俺と同じ高校のはずだ。十七歳くらいだろうか。死因は…言いたくない。思い出したくもない。今にも咲きそうな桜の
ジリリリリ…ジリリリリ……。ガシャ。
「はぁ…はぁ……」
目覚ましを止めた俺は、ゆっくりと身体を起こし時計の針を
「五時か…」
ある日から俺は寝るたびに
「確か、か…か……」
やはり思い出せない。今まで何度も試みたが駄目だった。
「おーい
この声は、
「起きてるよ、今から晩飯?」
ドアを開け、廊下の右側にある階段を降りながら尋ねた。
「瞬、またなんかあったのか?」
俺を育ててきたからわかるのだろうか。兄貴は俺の顔を見ないでそう言った。
「いや、何もないよ。それより何か手伝うことある?」
「そうだな、スプーン出しといてくれないか、あと食器も出しといてくれ」
「わかった」
これが家のいつもの会話だ。兄貴は必要以上のこと以外何も聞いてこない。勘が鋭い兄貴のことだから、俺に異変があることくらい気づいているはずだ。兄貴は距離の取り方がうまい。それだからこそ十年間喧嘩することなく暮らしてきた。
「ほーい、できたぞー。今日は瞬の好きなオムライスだ」
何歳相手に話してるのだろうか。俺はもう高校一年生になるというのに。
「わ、わーい。嬉しいなー」
その優しさを受け取るように返事をしておいた。兄貴なりの励ましなのか。普段から気さくな性格だかここまでとは。
出来上がった熱々のオムライスを口に運ぶ。美味い。さすが兄貴だ。半熟卵がケチャップライスを包み、ケチャップの酸味をまろやかにしてくれる。
「今日も美味しいよ」
「あぁ、いつもと変わんねぇけどな」
何気ない会話。俺はこの空間が好きだ。
「あ、そうそう。瞬んとこの高校、なんかニュースに出てたぞ?」
「…!そ、それってどんなニュース?」
思わずテーブルに両手をつき立ち上がった。俺の見ている夢に関係があるかもしれない。
「兄貴!そのニュースについて詳しく教えてくれ!」
「おいおい、落ち着けって」
落ち着けるもんか。そのニュースが手がかりになるかもしれない。できればあんな夢、もう見たくないんだ。
「アイドルが転校してきたそうだ。それも超人気」
「名前は?名前は何!」
「えーっと、確か…」
「確か…?」
心臓がドクドクと動いているのがわかる。彼女を守らなければ。守らなければ…?
「
「そうなんだ…」
あの有名なアイドルがうちの高校に転校してくるのか。少し嬉しく思いながらも席につき、オムライスを食べ進める。違う。そんな名前じゃない。
「残念だったな。瞬の一つ上だそうだ」
そういうことじゃない。何か夢の手がかりはないのか。そう思いながら兄貴特製絶品オムライスを完食する。
春野櫻子。彼女が今後どうなるのかを俺はまだ知らなかった。
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