第5話 サクラ・リンドベル

 肌を刺す冷気に、空気も白く染まっている。私の前には、氷漬けの二人の男。カエデ姉様を組み敷いていた男達だ。私の腕の中には、カエデ姉様。

 振り向くと、そこには手足が凍り付いたサブロ王子。


「私の名前は、サクラ・リンドベル。御姉様を救出に来ました。」


 やはり、バカ王子の仕業か。さすがに、ここで殺すのは不味いか。階段の半ばで呆けている、ジロ王子を窺う。


 とにかく、御姉様を何処か休める所へ



 まずい、まずいぞ!サブロの奴、なんて化け物を召喚しやがるんだ。サクラ嬢がこちらに視線を向けた。


「ひぃっ!」


 その時、兄上が私の肩に手を置き、こう言う。


「ジロ。あとは、任せた。」


 無理、無理、無理!兄上が、いつもの様に私に丸投げしてきた。さすがに、この状況は兄上が始めから対処してくれないと無理です。


「大丈夫。サクラ嬢については私が対処するので、お前は後の処理を頼む。」


 さすが兄上!いつも以上に輝いて見えます。サクラ嬢以外の案件なら、氷の処分からサブロの暗殺まで何でもやります。


「ここでは、殺すなよ。私は父上に報告する為、城に行く。サクラ嬢には、後ほど迎えをよこすと伝えてくれ。」


「わかりました。」




「とにかく、御姉様を何処か休める所へ・・」


「わ、私が救護室に案内します。」


 名前:ヤヨイ・モーリス

 出身:転生者

 職業:モーリス男爵家長女

 称号:聖女


 転生者?聖女?話しかけてきた少女に鑑定を行い、驚いた。転生者や聖女の肩書にではなく、その情報を見逃した自分の未熟さにだ。さすがに、聖女は希少な称号だが、転生者はさして珍しくない。そして、転生者は知識チートで何をしでかすかわからない。


 だから、転生者の情報には注意していたのだが。こんな未熟者だから、御姉様を苦しめる結果になったのかもな。


「あの・・」 


 思いにふける私に聖女が話しかけた時、


「久しぶりだな、サクラ嬢。」


「ご無沙汰しております。ジロ王子。」


「言いたい事は多々あると思うが、後ほど城から迎えがくるので、細かい話は王城で。」


「わかりました。私は、聖女様が救護室に案内してくださるそうなので、そちらで待たせていただきます。」


「聖女ですか?」 「聖女だと?」


 自分の称号を、知らなかったのか?


「うおぉぉっ!我に、このような無礼を働いて、ただで済むと思うな!」


 サブロ王子が起動した。


「バカ!サブロ、動くな!(ここで死なれるのはまずい)」


 癇癪かんしゃくを起して暴れるサブロ王子。結果、凍った足が砕け転倒し、弾みに残りの手足も砕けた。まあ、大司祭様の回復魔法なら元に戻せるだろうが。



 王城 謁見の間


「頭を上げよ、サクラ・リンドベル。」


「はっ!」


「此度の事、まことに遺憾に思う。サブロ、及びにその関係者には厳しい罰を下すつもりじゃ。」


「はっ!陛下の裁量にお任せします。それとは別に、お願いしたい事があります。」


「よい。申してみよ。」


「今季、学院入学生の中には、天才の世代と呼ばれ学院や家族が持て余すほどな者達がいるとか。その者達を是非、我がリンドベル領の学校に通わせていただきたい。」


 あんな連中を、御姉様と同じ学舎に通わせる訳にはいきません。


「ほかにも、家族が手を付けられないほどな者を送って頂ければ、リンドベル領とレグルス王国の発展に寄与すると思います。」


「よいのか?かなりな者が大量におるぞ。」


「魔の森に満腹はありませんので。」


 これで、王都の治安も回復するでしょう。御姉様には静かな環境で学問に励んでいただきたいものです。そして、ダメ押しとして、


「それと、もう一つ・・


 私が学院生の教育を行いましょう。」



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