第2話 ジロ・アズマ・レグルス
私の名は、ジロ・アズマ・レグルス。レグルス王国第二王子だ。
私は今、生徒会執務室にて業務の引継ぎ作業を行っている。三年制のレグルス高等貴族学院は、慣例として二年生が生徒会長を務める事になっている。貴族学院とはいえ、平民にも門とは開かれており、裕福な商家の子弟なども通っている。
この国の学校には、魔法や錬金術を習う魔法学院、騎士・冒険者課程のある武闘学院、政治経済や商業を習う普通学院があるが、これら三つを合わせた教育課程を持つのが貴族学院である。
私の向かいの席には、前生徒会長が口元に微笑みを浮かべながら、こちらに視線を向けている。この国の王太子である第一王子「イチロ・アズマ・レグルス」だ。それは、引継ぎ作業が一番の山場を迎えた事を意味する。一部の新入生に対する処遇だ。
今年の新入生に問題児が多すぎるのだ。
問題児のあまりの多さに関係者は、この学年を「天災の世代」と呼ぶほどだ。
魔物の生態が知りたいとドラゴンにちょっかいを出し、それを引き連れたまま国に逃げ帰り、魔物の大氾濫を起こした大司祭の孫。
街のチンピラや犯罪者を金で雇い入れ、強姦や暴力の限りを尽くした末、ヒガシ帝国の視察団に暴行を加え帝国侵攻のきっかけを作った宰相の四男など。
こんな問題児を抱えた世代の生徒会長などやりたくないのだが、その中心にいるのが弟の第三王子「サブロ・アズマ・レグルス」なのだから私が責任を負わねばなるまい。彼は「正室の長子で王位継承権第一位」と言っているが、この国は一夫多妻制で正室も側室も無い。順番的にも第四妃である。何か良い案は無いかと兄に問おうとすると、
「サブロの事だが・・」
おお!いつも私を試す様に問題を丸投げしてくるのだが、行き詰まり手助けを頼もうとする前に、的確な助言をくれるのだ。
「リンドベル辺境伯の所へ、修行に出してはどうかな?」
おおお!素晴らしい。さすがは兄上。娘の許婚だけに辺境伯も断るまい。魔の森で事故死でもしてくれれば、サブロの母の「マグロ妃」も喜ぶだろう。最近第四王子を出産した王妃は、第四王子の立場を守るためサブロの暗殺を企んでいるようだ。後の禍根となるので、王城や王都での暗殺はやめてほしい。どのみち暗殺するなら、辺境伯領か王妃の実家のカナリ侯爵領でしてほしいものだ。
「父上に相談のうえ、辺境伯に打診してみるよ。」
あとは、兄上に任せておけば万事上手く収めてくれるだろう。
「そろそろ、下に顔を出そうか。」
生徒会執務室は舞踏会場の二階にある。他の生徒会役員と有志の者が現在、新入生の接待にあたっている。執務室を後に舞踏会場に降りようと階段の半ばに差し掛かった時、それを目撃する。
「あのバカは、いったい何をしているのだ・・。」
組み伏せられた、辺境伯家長女カエデ嬢。組み伏せているのは、例の大司祭の孫と宰相の四男。そしてサブロはカエデ嬢の頭を踏みつけようと足を上げる。それを止めようと階段を駆け下りようとした時、
世界は白く染まった。
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