7-2 「S・B記」

7‐2 「ショーン・ボーナム記」





 西暦2285年5月20日。君はA国ブラドッグ州レドリック市総合病院にてこの世に生を受けた。





 母親のサラ・ボーナムは心臓に持病を持っていたものの、懸念されていた先天性の心臓疾患も見られずに元気な2560gの君を産んだ。





 君の父親、マイケル・ディクソンはサラが君を宿した時にひっそりと彼女の前から姿を消した。二人は結婚しておらず、サラは一人で君を育てることになった。





 サラは大変な苦労の中、心血を注いで君を育て上げた。





 大きな怪我や病気もなく成長した君は15歳の頃、隣の州にある高校へと進学を決め、母親サラと共に隣州のアパートに引っ越しをすることになった。





 そしてボーナム家が新たな生活の場へと旅客機で旅立とうとしたその時、君達の人生を大きく変えてしまった事件が起こってしまった。









 西暦2299年11月15日。A国ブラドック空港にて離陸直前の旅客機が突然操縦不能となり、あわや大惨事となり得たトラブルが発生した。





 航空関係者はその原因を探るべく調査を開始。特別に派遣された事故調査員は旅客機の隅々まで探り回り、ある驚くべき結果を上層部へと報告した。





『コックピット内における操縦制御システムコンピュータが、謎の効果によって機能を消失していたことを確認。

操縦トラブルはこの結果により引き起こされたと見て間違いない。

どのような過程でその結果を導いたかは今のところ不明ではあるが、一つその手がかりらしき情報がある。


 それは旅客機が離陸する際に乗客が妙な破裂音を聞き、その直後に旅客機の動きが停止したという証言。


 その音の正体こそが機能停止の原因と思われ、さらに一部の乗客の話によれば、操縦席に近い席に座っていた少年の肌色が突然白から褐色に変わり、電気のようなモノを発生させていたという現象についても語っている。


 その少年はその直後に気を失っていたらしく、この現象について強い関わりを持っていることは間違いないと見ている』






 コンピュータの機能を強制停止させる君の能力が、電子制御の旅客機を止めたんだ。





 そして西暦2300年2月15日。その能力に目を付けた機密組織は君を極秘に研究することに決めた。もちろん軍事利用の為にだ。





 研究チームにはこの僕と電子工学者の「ジョン・ブラックマン」他、様々な分野で名を轟かす優秀な学者が勢ぞろいした。





 君はその後機密研究施設の一室に軟禁された。そして24時間体制の監視の元、その能力発生のメカニズムを日夜研究する日々が続いた。





 一日に排泄する便の量までチェックされる毎日だった君は、プライバシーを侵害されたストレスでノイローゼになりかけ、しょっちゅう僕に助けを求めたよね。





 そこで僕は君にボイスレコーダーを渡し、悩みや愚痴をそこに吹き込むようにと進めた。僕がしてあげられることは、それが精一杯だった。





 これより先は、君がコールドスリープに至るまでそこに記録された音声データの記録である。













[2300年2月28日 22時42分記録]


『ジンボ先生からボイスレコーダーを貰った。

 この記録は誰にも聴かれない僕の唯一のプライベートにしてくれるそうだ……こんなんでも少しは気が紛らわせるかもしれない。

 これからは日記代わりに音声を記録することにする。ベッドの中でこっそりとね……。

 今日もブラックマン先生のキツイ人体実験じみたマネに付き合わされてヘトヘトだ……ルームランナーで20kmも走らせて何の意味があるんだろう? 

旅客機を壊してしまった能力……

あの時に起こったコトは僕自身にも初めてだったから何も分からない……

急に体に電気が走ったような気分になって……

いいや、とにかく母さんが心配だ……

旅客機の一件以来一度も会っていないから……』





[2300年3月2日 22時02分記録]


『今日は実験が休みでホッとした。

 でも部屋からは出られなかったので、映画を観ることくらいしかやることがなかった。この部屋では要望すればおよその物は自由に支給してくれるので、今日は[ザ・サイレント]の1作目をモニターで観返してみた。

 [2]も[3]も面白いけどやっぱり無印1作目は格別だなぁ……

暴れるチンピラの髪を思いっきり引っ張り上げておとなしくさせるシーンは何度見てもスカっとする。

再来月に4作目が劇場公開されるのから楽しみにしているんだけどな……

その時くらいは外に出られればいいけど…………

それはともかく、みんなには恥ずかしくて秘密にしていることがあるんだよな……

これはいつか喋らなきゃいけないことなのかな……? 


 一目惚れした女の子がいるってコト……

研究とは関係ないとは思うけど……

僕が能力を発動した日、空港を歩いている時にブロンドで青い目の女の子とたまたまぶつかって、それで僕は転んで鼻をぶつけて……

それで彼女が僕に手を差し伸べて助け起こしてくれた……

その時はそれだけで別れたけど、乗り込んだ旅客機が偶然一緒で、その子とバッタリ合った……恥ずかしくも[運命的]だとか思ってしまった……

そしたらあの子が「さっきはゴメン、大丈夫ココ? 」と言って、僕の鼻に触れたんだ……

その時の彼女の顔がとても……なんというか素敵だった…………

それでその後自分の席に戻ったら体がビリビリってなって…………

ハハ……そんなの関係ない……関係ないよね……もう寝ます……おやすみなさい』



[2300年3月3日 22時13分記録]


『今日も実験は休みだった。

 でもブラックマン先生がいつも以上に不機嫌な表情をしていたのが気になったなぁ……それにしても母さんにはいつ会えるんだろ……? 電話だけでもしたいのに……』





[2300年3月4日 23時32分記録]


『今日は色々な出来事があった……。

 まずは嬉しいことが一つ。あの時空港で出会った女の子が突然僕の部屋に現れたこと! 

 名前は「メグ」で、なんとブラックマン先生のお子さんだったみたい……

なんだか奇妙な偶然を感じるなぁ……

ジンボ先生が言うには、僕が乗っていた旅客機にはメグと一緒にブラックマン先生も同乗する予定だったらしい。

 最近になってメグから僕とぶつかった話を聞いて、何か関係あると思い、連れてきてくれたみたいだ。

 正直言って……かなり嬉しかった! 

もう二度と会えないと思っていたから心のウキウキが止まらなかった! 

 でも部屋に入る時にはノックぐらいして欲しかったよ……

パンツを履き替えている途中で、メグにお尻を見られてしまった……

めちゃくちゃ恥ずかしい……いったん切ります』





[同日 23時50分記録]


『えーと……日記の続きです。

 メグにお尻を見られた後、気まずい雰囲気が続いて正直居心地が悪かった。

せっかく部屋の中で二人きりだって言うのに、なかなかスイングする話題が出てこなくて困った……

多分、僕以上にメグの方が困惑していただろうな……眉毛で八の字を作って露骨に不愉快な表情だったからなぁ……

多分お父さんのブラックマン先生に言われてしょうがなくここに連れられて来たんだろうな……。

 それで、ひょっとして僕が能力を発動させない限りメグは外に出られないのか? 

だなんて考えてしまって焦った。

それで僕は何を思ったのか突然メグに「あの時みたいに鼻を触って」と言ってしまったんだ……

もちろんメグは[引いて]しまった。

まぁ、自分でも気持ちが悪いと思う……でも、それが良かった。

 後ずさりしたメグは足下に落ちているソフトケースに気が付いてくれた……

そう[ザ・サイレント]のパッケージに! 彼女も[ザ・サイレント]の大ファンだったんだ! 

 それがキッカケで僕達は仲良くなった。単純に嬉しかった。 

それから2時間くらいかな? 主人公がビール瓶を自分の頭で叩き割って威嚇するシーンが面白いだとか、相棒役が女装して敵の本拠地に突っ込むけど一瞬で服を脱がされてバレてしまうシーンで涙が出るくらいに笑っただとか……

[ザ・サイレント]の魅力を、喉がいたくなるほど語り合った。最高に楽しかったな……。

 実験の時間が終わったらしく、部屋のドアが開かれてブラックマン先生が「やっぱり意味はなかったな! 」と嫌みを漏らしながら彼女を迎えにきた。

でもメグはそんな父親には目もくれずに僕に向かい合ってこう言って手を差し伸べてくれたんだ……

「今日は楽しかったよ! また会おうよ! 」って! 

 僕は緩んだ表情を隠し切れないまま、メグと握手を交わした……

で、その時……飛行機で感じた体のビリビリ! 

 僕の体が日焼けしたみたいに黒く染まって……

体中の穴から空気が抜け出たみたいな感覚があって……

ブルドーザーのタイヤが破裂するようなバカでかい音が響いて……僕はまた気を失ってしまった。

 部屋のベッドで目が覚めると、ジンボ先生がそばで座っていた。

僕は何時間眠っていたんだろう?と気になって、キャビネットに置いておいたデジタル時計を確認したけど、数字が映し出されてなくて時間が分からなかった……。

 ジンボ先生はそんな僕を見て「それは君がやったんだ」と教えてくれた。

一体僕のこんな不便な能力を研究して何になるんだろう? と思った』





[2300年3月25日 22時8分記録]


『ここ最近、僕の……そう、【グレムリン効果】に関する秘密が分かりかけてきたらしい。

 まずその効果範囲はあまり広くなく、半径5mくらいが限度。

そして僕が体から発する特殊な電磁波のようなモノは、コンピュータ内にある半導体のトランジスタという部分に直接働きかけるらしい。

そしてその発動条件は…………好意を寄せる異性と……

要するに好きな女の子と触れた時……らしい…………

なんでこんな恥ずかしいタイミングなんだ……

つまりはここの研究員みんなに僕がメグにそういう感情を抱いているってことがバレてるワケじゃないか! 

このコトがメグに知られたら恥ずかしすぎる! 

ジンボ先生は「誰だって持ち合わせる感情さ」ってフォローしてくれたけど、その時の表情が半笑いだったので内心楽しんでいるコトがバレバレだよ……

もう寝よう……』





[2300年3月26日 23時6分記録]


『今日は端的に言って最悪だった……

ブラックマン先生と個室で二人っきりになってアレコレ責められてしまった……。

 それも実験のこととは関係無いような内容ばかりで……

「メグに変な感情を抱くな! 」「実験以外でメグに近寄るな! 」「メグのコトを考えるな! 」等々……

僕はメグのコトが……そりゃあ大好きだよ……

それが父親として面白くないってのも分かるけど……

僕が何をしたっていうんだ! メグが嫌がるようなコトなんてしてない……ハズだし。メグも僕のコトを恋人とまでは……思ってないだろうけど、良き友達だと認めてくれている……ハズだし……。

 何より今日は「お前がウサギみたいにメグの匂いを嗅いでいるのを知っているぞ! 」とか言って僕の鼻がもげるほど捻られたことがショックだった……

痛みよりもこんなに理不尽なことがあるのか? という絶望感がつらい…………』





[2300年3月27日 22時2分記録]


『嫌なコトは続く……今日の日記は新しく貰ったレコーダーで録音してる……

何故なら今日歩いていたらブラックマン先生とぶつかっちゃって……

ポケットに入れていたレコーダーをどこかになくしてしまったからだ……

最悪だよ……もしもブラックマン先生に拾われたと考えただけで胃が痛くなるよ……』





[2300年3月27日 23時50分記録 メグ]


『…………おおっ! こうやって録音すんのか………………

んっんー。こんばんはメグ・ブラックマンです! 

今日実験が終わった後、見慣れないモノが落っこちてたので、こっそり持って来ちゃった。後で怒られるかな? まぁいいや! 

 ショーン……ごめんね、全部聴いちゃった! 

アンタの日記をかたっぱしから楽しませてもらったよ! 

アンタ、私と直接会ってる時は「メグさん」って呼んでるのに日記じゃ呼び捨てなんだ! なんだか笑っちゃった。別にいつもその呼び方でもいいんだけどね……

まさか私が[16歳]って自己紹介したことを真に受けちゃってた? 

ごめん、ここで告白するけど私まだ[13歳]だよ。アンタより2つも年下。まぁ、私からしてみればアンタが15歳ってのが信じられなかったなぁ……。

 だってポケットに飴玉つっこんでてスケボー乗り回してそうな顔だったから……

初対面じゃ、てっきり私と同じくらいの歳だと思った。ゴメンね! 

 ……それと、パパのこともね……

ゴメン、パパは私のことになるとちょっとおかしいくらいに必死になるの……

正直最近は少しうっとおしいというか……言葉にしにくいんだけど[ヤバい]って思う時がある。パパのこと、私にもよく分からない時があるの…………。

 ママが生きてたらな…………

ゴメン、変な話になっちゃったね……

また今度会う時にコレ、返すね! 

この音声を聴いたら返事ちょうだい! またね』





[2300年4月1日 22時50分記録 ショーン]


『メグさ……メグ……

レコーダー、拾ってくれてありがとう。

それとメッセージも……なんというか……色々恥ずかしい……

僕の日記で気を悪くしちゃってたらゴメン……

それで、君が16歳だと思ってたことも……歳のワリには幼いなぁ……とは思ってたけどまだ13歳だったなんて……

いや! これは良い意味で言ってるからね! 

 …………今日は上手い言葉が出てこないから……

とりあえず……これからも僕と友達でいて欲しい……

君のおかげでこの状況も耐えられているんだ……本当にありがとう……。

 それで、一つお願いがあるんだけど……

今度から会う度にボイスレコーダーを交換してメッセージのやりとりをできないかな? あ、その……嫌ならいいんだけど……

通話やメールのやり取りは禁止されているし、外の人とコミュニケーションをとるには今のところこんな方法しかなくて……

文通ってやつをやりたいんだ……

出来れば。でいいんだけど……』





[2300年4月2日 17時23分記録 メグ]


『ショーン……アンタ何を考えてるの? 

自分の立場を考えてよ。

アンタは未知の能力を備えたトップシークレットの被験体……

最近じゃ私も色々と検査を受けたりしてるし……

これからどんどん監視が強くなって、そんな中で秘密のやり取りなんて………………。


 最高じゃん! なんだかスリルがあるし楽しそう! トイレに流す水の量にまで気を使ってそうなアンタが考えたアイディアとしてはバシっと思い切ったね! 

 これからお互いにレコーダーを交換しよう。

メールじゃ話せない内容を……[良き友達]同士で……ね! 』









 ここからショーンとメグの二人は、数十件のメッセージのやり取りで、どんどん親密な関係へと深めていった。





 表向きでは【グレムリン効果】の研究におけるビジネスライクに振る舞ってはいたが、ジョン・ブラックマンは娘の表情が日に日に緩やかに、晴れ晴れと変貌していく様子に疑問を抱き始めていた。









[2300年6月17日 14時56分記録 ジョンとジンボの通話記録]


『ジンボ君、少しプライベートな話になるんだが……ちょっとだけいいか? 娘の……メグのことについてだが……』



『いいですけど……誕生日プレゼントの相談ですか? 』



『それならいいがね、違うんだ……娘が最近妙にあの……ショーン・ボーナムと親密なのがね……少し気になるんだ……何か知らないか? 』



『知らないか? と言われましても……若い子同士で気が合うんじゃないですか? 初対面の時も映画の話で盛り上がってたじゃないですか? それに二人の仲が良いことはこちらにとっても都合の良いことじゃないですか? 研究にも協力的で助かってますよ』



『ジンボ君……君は何にも分かっちゃいない! 二人の距離が縮まるということは、いずれ越えてはならない一線を越えてしまう可能性もあるということなんだ! それを軽く見ないでもらいたい! 』



『ブラックマン先生……落ち着いてくださいよ……ショーン君はともかく、メグちゃんはまだ13歳の子供なんですよ? まぁ……雰囲気は大人びてますが……』



『それが心配なのだ……あのショーンのガキ、一度忠告したハズなのに……クソッ! 』


『忠告? 先生、ショーン君に何かしたんですか? 』



『あの小僧に道徳を教えただけだ……それにジンボ君、勘違いしないでくれ……一線を越えるというのはショーンとメグのことじゃない……』



『え? どういうことですか? 』



『……いや、何でもない…………すまなかったな……変なことを相談して……』



『はあ……』



『実験中にショーンが変な動きをしないか注意を払ってくれ……じゃあな……』





[2300年6月30日 18時27分記録 ショーン]


『最近になってから【グレムリン効果】を発動しても気を失うことが無くなってきた。

 まぁ、出した後はスゴく疲れてヘトヘトになるけど……

今度からは一日に何回発動出来るかの実験もするらしい……

いよいよ人体実験って感じがしてきたよ……

メグがいるからなんとか耐えられてるけど、そろそろいい加減外に出てみたいな……

それに、もう母さんの声を半年も聞いていない……

元気だといいけど、心臓の持病が心配だ……』





[2300年7月10日 19時43分記録 メグ]


『今日の実験、大変だったね……

でも2回もあの力を使っても気を失わずにいたんだからスゴいじゃん! 

まぁ、めちゃくちゃ汗かいて犬みたいにゼーハーしてたけど……。

 でもさ、だんだん[必殺技]っぽくなってカッコよくない? 

私とアンタで力を合わせてドカーン! って感じでさ! 何だか楽しくなってきちゃった! 

ま、アンタにとってはたまったもんじゃないと思うけどね。

 ……それと、アンタのママのことだけどさ……

それとなくパパに聞いてみたの……

そしたら「お前が知る必要はない」とか言われてそれ以上聞けなかったよ……

ゴメンね……早く会えるといいね』





[2300年7月12日 22時13分記録 ショーン]


『良い知らせだよ! 

ジンボ先生が25日に一日だけ外出許可を認めてくれた! 

久々に外の空気が吸えるよ! 

 ……でも、母さんには会えないらしい……

理由は実験に影響が出るとかどうとかはぐらかされてしまった……

それに、外出中は研究員が常に付き添ってて、しかもメグとは絶対に接触させないという条件付きなんだ……

せっかく[ザ・サイレント4]を一緒に観られると思ったんだけど……

残念だな……』





[2300年7月12日 19時41分記録 メグ]


『ママに会えないのは本当に残念だったね……

全くパパは偉いポジションにいるってのに、なんでそういうところで協力してくれないのかな!  外出だってゴチゴチで堅物の研究員だけが付き添いじゃ楽しめないじゃん…………。

 それでさ……ショーン。ちょっと面白いこと思いついたんだけど…… 』





[2300年7月13日 23時14分記録 ショーン]


『確認するよメグ……25日の外出中、僕は付き添いの人と一緒に映画館[ドリームシネマ]で[ハートオブサンシャイン]を[E6番]の席で観る。

劇場内が暗転したら、ポップコーンをわざとこぼし、そのどさくさに紛れて僕に変装した君の友達と入れ替わり、その隙に[ドリームシネマ]を出て君と合流する。

 [ハートオブサンシャイン]は3時間15分もある長尺の映画だからその間は誰にも見つからずに2人で自由行動出来るってことだね…………

よく考えるねこんなコト……バレたら滅茶苦茶怒られるだろうなぁ……

でも……ちょっとやってみたいって気持ちもある……

一日だけ考えさせて……』





[2300年7月16日 0時32分記録 メグ]


『ありがとうショーン! 作戦にノってくれてありがとう! 優柔不断なアンタがよく決断してくれたと思うよ! コレは誉めてるんだよ。

 それじゃあ当日にね! うわ~楽しみ! なんだか私達、イケないことしちゃってるね。……あ、ちなみに忘れないでね。私達が2人で行く映画館は[クラブ2]って名前の所だから』





[2300年7月24日 23時32分記録 メグ]


『明日が楽しみ……パパには学校の友達と一緒に遊びに行くってことにしといたし……口裏も合わせるように準備した……完璧だね! 』





[2300年7月24日 23時50分記録 ショーン]

『緊張して眠れない……大丈夫だろうか……メグと一緒なのはうれしいけど……【グレムリン効果】が発動しないように気を付けないと……それだけは……』









[2300年7月25日 18時50分記録 ジョンとジンボの通話記録]


『ジンボ君! マズイことが起きた! 緊急事態だ! 』



『一体どうしたんです? トイレの水漏れですか? 』



『ジョークを言っている場合じゃない! あのクソガキ! 街中で発動させやがった! 』



『クソガキ……まさか! そんな! 【グレムリン効果】を? 』



『ジンボ君……君の責任だぞ! 私は反対だったんだ! アイツに外出許可だなんて! 』



『メグちゃんがいなければ出せないハズだ! 』



『あのクソガキは小汚い浅知恵で付き添いを騙し、メグと合流してたんだよ! 』



『なんだって!? 』



『しかもだ……今回の【グレムリン効果】の規模はどういうワケか実験の時とは桁違いだぞ! 

街一帯の光が消え、コンピュータが全滅! 

信号機は止まり、通信端末はガラクタに! 

企業の顧客データが消失した! 電子制御のバスや電車が動かなくなった! 

他にも様々な被害が出ているが、最悪なのは病院への被害だ! 

今のところ死者は出ていないが、手術や治療を中断せざるを得ない事態が続出だ! 

どうやって責任を取るつもりだ! 』



『……【グレムリン効果】の効果範囲はせいぜい半径5m……ここまで大きな被害が出るなんて……』



『なぁ、ジンボ君……君の考えを教えてくれないか? 何故今回ここまで効果が広範囲に及んだのか? 薄々分かっているんだろう! 』



『……効果増大の可能性として考えられるのは……単純に【グレムリン効果】を引き起こす脳内物質がいつもより大量に分泌されたということ……つまり……』



『つまり……なんだ! 言ってみろ! 』



『考えられるのはショーン君とメグちゃんの2人の間に……いつもより大きな興奮を引き起こす接触があったということです……』



『………………あのクソガキめ』



『ブラックマン先生! 待ってください! そうと決まったワケじゃな……』









[2300年7月25日 21時34分記録 研究所個室でのショーンとジンボの音声記録]


『ハァ……ハァ……ジンボ先生……ごめんなさい! ごめんなさい! 全部僕が……』



『ショーン君! 落ち着いて! 』



『ハァ……まさか……あんなコトになるなんて! あんなに! あんなにも!! 』



『ショーン君! 呼吸を整えるんだ! 』



『ハァ……ダメです……僕はどうなっちゃうんだ……』



『ショーン君! 1+1は? 』



『ハァ……ハァ……』



『答えるんだ! 1+1は? 』



『……ハァ…………2……です』



『よしいいぞ。さぁその水を飲んで』



『はい……』



『ゆっくり飲むんだ……全部飲まなくいいからね』



『…………』



『少し落ち着いたかい? 』



『……はい』



『じゃあ、何があったのか喋ってくれるかい? 』



『はい……まず僕は……』









『ジンボ君、交代だ! 』









『ブラックマン先生!? ダメです! あなたでは……』



『黙って外に出ていろ! 』









『ブラックマン先生! ドアを開けてください! 先生! 先生! 』









『……ショーン……これで私と二人っきりだな……どうした? そんなに体を震わせて……まるでライオンに睨まれたウサギじゃないか? ん? 』



『…………』



『……私は初めて会った時から貴様が嫌いだった。カゴの隅でビクつくハムスターみたいな情けないツラを見るたびにムカつきが沸いてどうしようもなかった……』



『……すみません……でした』



『ハァ? 今何て言った? 』



『……すみま……』



『聞こえんわァ! 』









『何をしているんですか? ブラックマン先生! 今の音はなんですか! 』









『ウッ……うう……』



『おいおい、お前の血でテーブルが汚れちゃったじゃないか? んん? 』



『うう……』



『君に後で掃除してもらおう。それでショーン。君はメグに何をしたのか聞かせてくれないか? 娘をたぶらかして浅はかなプランを立案して、最終的に何をしたのかを? 』



『……僕が……全部……全部考えたことです……』



『そんなコトは知っている。私が聞きたいのはお前がメグに抱く感情だ』



『…………へ?……』



『言葉を理解出来ないのか? お前はメグのコトをどう思っているんだ? 』



『……それは……』



『はぁ? 』



『……好きです……』



『はぁ? 』





『…………彼女のことが……』

『はぁ? 』



『……だから……2人きりになりたくて……』



『ショーン? もっとシンプルに答えろ』



『……え? 』



『娘を性欲のはけ口にしたかった……それだけだろう? 』



『……違う! 僕は……』



『何が違うんだ! この色欲狂いのウサギヤロウ! 』









『先生! もうやめてくれ! おい! マスターキーはまだか! 』









『またテーブルが汚れちまったな……ああ、今度は床まで……掃除が大変だ』



『うう……ううう……』



『私はな……メグの父親だ……彼女を守る義務があるんだ……メグはまだ13歳だぞ……子供だ。そんな子供にお前は何をした? ええ? 』



『…………』



『喋ることが出来ない……か……。おお、良いところに水のたっぷり入ったコップがあるなぁ……ショーン……喉が乾いただろう? 』



『うがっ! 』



『こうやってお前の鼻をつまんでな……水を飲ませてやろう……お前が大好きな映画でスキンヘッドの男が同じことをやっていたんだ……全く、映画を作る人間ってのは面白いことを考えるよな』



『うぐっ……うがっ……』



『ショーン。お前は最悪な人間だ! 幼女に手を出し! 多くの人間に迷惑をかけて! あまつさえ自分の母親まで殺しちまってるんだからなぁ! 』



『ううっ!? 』



『知らなかったのか? ショーン! お前の母親の心臓はなぁ! 

ペースメーカーで動いてたんだよ! 

お前は自分の母親を【グレムリン効果】で殺したんだよ! 

性欲で母親の命を絶ったゲス野郎なんだよぉ! 』









『そこまでです! ブラックマン先生! 』









[2300年7月26日 4時50分記録 自室にてメグの記録]


『ママ……ママ……天国で聞いてくれる? 助けてよ……ママ……私……とんでもないことをしちゃったの……ごめんなさい……。

 今日、みんなを騙してショーンと一緒に映画を見たの……

その後、一緒に歩道橋を渡って……そこから見える夕日がメチャクチャ綺麗で……

それで……この日の思い出を特別なものにしたくって……

思わず……私からショーンに……しちゃったの……キスを……。

 でもそれは、絶対にしちゃいけないコトだったの……

何度も実験で知っていたのに……

何回も頭の中でショーンに触れちゃいけないって気を付けてたのに…………

その瞬間に……ショーンの体が真っ黒になって爆発するような、いつもの実験とは比べものにならない大きな【グレムリン効果】が現れて……

私……怖くなっちゃってどうしていいか分からなくて……

おどおどするしか出来なくて……ショーンは私を庇って全部自分の責任するって言って私を助けようとしてくれた……。

 それでさっき見ちゃったの……研究所の個室で血塗れになったショーンを……

うう……なんで? パパ……なんであそこまで………………それに……私はショーンに謝っても謝りきれないことを……。

 ショーンのママのこと……私が原因で……それなのに私……能力がカッコイイだとか……必殺技だとかバカなコト言って浮かれてて……』





『メグ……こんな時間に何をしてる、入るぞ』



『パパ!? 』



『電話でもしているのかい? 』



『……別に、何も』



『メグ、もう心配ないよ。ショーンにひどいことをされたんだろう? ごめんよ……研究とはいえ、君をあんな小僧と付き合わせてしまって』



『……違うの……』



『違う? 』



『全部……私が悪いんだよ! 今日のコトは全部私が考えたの! ショーンは乗り気じゃなかったけど私が無理矢理押し通したの! それに……キスだって私が勝手に……』



『キス! ……メグ……あの小僧に……そんなコトを……? 』



『そう! だからもうショーンにヒドいことをするのはやめて! 悪いのは私! 殴るなら私を殴ってよ! 』



『メグ……』



『それと……お願い! ショーンに会わせてよ……謝りたいことがあるの! 』



『メグ……何を言っているんだ……君が謝ることなんて何もないんだよ……君はもう今までのことを忘れて、毎朝普通にバスに乗ってスクールに向かう生活に戻るんだよ』



『私の話を真面目に聞いてよ! なんで? なんで私を怒らないの? なんで私に罰を与えないの? なんで? 私は悪いコトをしたんだよ? そんなのおかしいでしょ? 』



『メグ、全然おかしくなんてないよ……君は本当に素直でいい子なんだから、もう何もしなくていいんだ。

 メグ、パパは分かっているんだよ。

君はショーンに罪を被るように脅されたんだろう? 

可哀想に……無理矢理に娘の唇を奪った上に濡れ衣まで着せるだなんて……』



『…………おかしいよ……パパ……やっぱりパパ、おかしいよ……』



『メグ、今の君は取り乱しているんだ……ほら、こうやって……』



『触らないでよ! ショーンを殴った手で私に触れないで! 』



『どうしたんだ? ハグだよ……いつもやっているじゃないか? 』



『……私ね……ショーンと一緒に過ごしてきて分かったコトがあるの……

パパが私に触れる感触とショーンが私に触れる感触、それが全然違うってコトを…………ねぇパパ……私のことを娘として、いや……人間として見てないんじゃないの? 』



『何を言っているんだメグ……お前は大事な私の一人娘だよ……かけがえのない宝物だよ』



『……もういい……私、ショーンの所に行くから! 』



『メグ! 待ちなさい! 外は雨だぞ! 』



『止めないでよ! クソッたれ! 』









『行ってしまったか……まぁいい、車で追いかければ…………ん? 何だコレは……? 録音中……………………ボイスレコーダーか? 』






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