第7章 S・B記

7-1 「わすれもの」

7‐1 「わすれもの」





「ふう……随分……遠くに来てしまったな……ここはどこだ? 」





 アリー達から逃げ去るように姿を消したラーズ・ヴァンデは、単独用脱出ポッドを使って【アースバウンド】から脱出し、誤作動でオートパイロットにより運ばれ[エリア112]の海岸に座礁していた。





「あの象頭の連中め……しつこく追いかけ回しおって……! 」





 彼はジーツとアリーが撃ちそびれた【象頭兵】の残党により襲撃され、逃げまとっているうちに濃い闇の地下水路へと迷い込んでしまっていた。





「はぁ、はぁ……体が重いぞ……酒というモノはここまでも肉体を蝕むモノなのか……納得だ……禁断物資に指定したオリコウサンの聡明な判断だったな……」





 アルコールの過剰摂取により多大に体力を失われてしまった現実を自嘲気味に反省しつつ、微かなペンライトの光源を頼りに水路の奥へと歩みを進める。





「ん……? あれは……? 」





 暗闇の中を10分程さまよった頃、ラーズはライトの光を眩く反射させる「何か」を発見した。





 恐る恐る近寄って見ると、そこにはフタの開かれた棺桶を思わせる銀色の物体が、散乱するガラクタに紛れて直立していた。





「なんだ? これは……」





 それはジーツが冷凍保存されていたコールドスリープカプセルだった。





 宿主を失ったその円筒形の装置は、抜け殻のように寂しく放置され、中には埃が溜まってまさしく棺桶そのものと言ってもいいくらいにネガティブな雰囲気を漂わせていた。





「何か使えそうな物はないか? 」





 【象頭兵】に対抗出来るような武器でも入っていないか? と、ラーズはカプセル内を物色する。すると中に一本のコーラ瓶程の大きさの金属筒が上部に固定されているのを発見した。





 金属筒には小さなボタンが付いていて、ラーズがそれを押し込むと「プシュゥゥゥゥ」と中に溜め込まれていた空気が吹き出して、上下二つにパッカリと割れた。そしてその中にはカード型の小さな映像再生端末と、いくつもの小さなメモリーチップが納められていた。





「これは……掘り出し物の匂いがするぞ」





 ラーズはまず映像再生端末の電源を入れ、保存されている映像データの一つを再生した。





 小さな画面に映し出されたのは、一人の30代と思われる男の姿だった。真っ黒な髪にブラウンの瞳。フレームが顔の形に合っていないのか、右に傾いた眼鏡を掛けている。ラーズ大佐はその姿にどことなく見覚えがあった。





 そして数秒の間を空けた後、映像の男はゆっくりと語り始めた。









 ■ ■ ■ ■ ■









 この資料が外の空気に触れられているとしたら、ショーン・ボーナムが永い眠りから目覚め、再び生命を謳歌しているということだろう。





 まず一応自己紹介しよう。僕は遺伝学者の[ジンボ]。この資料の作者であり、君の特殊能力の研究に携わった者の一人だ。君が覚えているなら久しぶり。忘れているなら、初めまして。かな? 





 これより先は、ここにコールドスリープされた少年、ショーン・ボーナムに関わる情報を出来る限り詳細に記載した音声と映像の資料となっている。何故そんな物を残したかというと、長いコールドスリープから目覚めた時、凍結者はその代償として記憶を失っていることがあるからだ。





 もしもショーン君が記憶喪失になっている場合はそのまま映像を見続けてくれ。





 正直ショッキングな内容も含まれているが特殊体質の君にとっては必要な真実なんだ。本当にすまないが我慢して見て欲しい。それを知らずにいることは、今後より一層の不幸を引き起こす原因になってしまうからだ。それは分かってほしい。





 と、まぁ前置きはこの辺にしておいて……これよりショーン・ボーナム記を始めさせていただきます。少し長くなるから、観る前にトイレを済ませることをオススメするよ。





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