3-4 「逆転」

3‐4 「バラストの死闘 逆転」





 武器輸送車に乗ったクジャク部隊の4人はBMEの後を追うようにトンネル内に突入する。





 敵の歩行スピードは拘束されていた時間を取り戻すかのように徐々に増していて、車が追いついた頃にはすでに2番シャッターと3番シャッターとの間のエリアまで辿り着いていた。





「ここから50mは、何が何でも死守だ! 」





 武器輸送車の運転はアリー・ムーン。そして残りの3人は輸送車のコンテナ内にて待機している。





「行くよ! 」





 アクセルを思い切り踏み込むアリー。エンジンが獰猛な唸りを上げ、BMEの体を追い越して敵の前方に急停止し、立ちはだかる。





「大丈夫なのかコーディ? 」





 アリー以外の3人がコンテナから飛び降り、BMEと対峙する。ニール隊長とビル・ブラッド副隊長がライフルを携え、コーディ・パウエルはジープの扉を引きちぎって作り上げたシールド構え、敵の動きに備えた。





「ええ……多分ですけど」





 コーディはあらかじめこのように予想していた。





 ガトリングガンはあくまでも奥の手で、おそらく多大なバッテリーを消費するか、一度使用すると銃身が熱くなってそれが冷えるまで使えなくなるのでは? と。





 それが理由で生身の人間相手には使ってこないだろうと予測し、そしてそれは見事的中した。





「来るぞ! 」





 敵は胸部のガトリングガンは使わず、象牙の機銃だけでコーディ達に襲いかかってきた。それならコーディがジープのドアで作った盾で十分対応できる。





『よし! いいぞ! どんどん来い! 』





 防弾使用のドアに対人用の9mm弾が横殴りの雨のようにぶつかり、耳障りな音を立てる中、ニールとビルがライフルでけん制する。敵に通用しないのは重々承知の上だった、狙いは別にある。





『頼んだぞアリー! 』





 トンネル内に硝煙と金属同士がぶつかり舞い上がった粉塵が立ち込める。激しい銃撃により作り上げられた煙幕の中を隠密に動く一つの影。アリーの運転する武器輸送車がBMEに気づかれることなく、敵の背後に回り込むことに成功していた。





『ここまでは計画通り』





 BMEの左足首にはフック付のワイヤーが未だに引っかかったままになっていた。コーディ達はそこに着目し、再び車にフックを連結させて敵を再び転がせる作戦をとったのだ。





 コーディ達が敵の注意を引き付けている間、アリーはまず車から降りて敵の左足から伸びるワイヤーを素早い動きで拾い上げる。そして武器輸送車の後部に連結させ、後は車で引っ張って敵の動きをしばらく封じ、シャッターが下りきる直前にアリーは2番側、後の3人は3番側シャッターの外へ退避する。





 という流れだったが……





「ドシャン! 」





 アリーが武器輸送車に乗り込もうとした瞬間、大きな地響きと共に巨大な影が彼女の体を覆い尽くした。





「え? 」本能的にスプリンターのような俊足で車から離れるアリー。直後には凄まじい金属の破裂音。逃げながら振り返るとそこには、跳躍したBMEがその巨大な掌で武器輸送車をミルフィーユのように潰す姿があった。





「アリィィー! 」





 コーディは我が目を疑った。さっきまで自分達と銃撃戦を繰り広げていたハズのBMEが突然後ろを振り向き、カエルのようにジャンプをしてアリーがいる方向へと襲いかかったのだ。





 煙幕で視界が遮られて音でしか判断できない状況でハッキリと分かるコトは武器輸送車が破壊されたということだけ。





「アリー! 無事かぁああ! 」





 必死に叫びを上げるコーディだったが、アリーの安否など考えさせるヒマすら与えないとばかりに、BMEは次の攻撃に移っていた。





「あぶねぇええ! 」





 BMEは丸めた紙クズを捨てるように、半分スクラップと化した武器輸送車をニール達の方へ投げつけたのだ。





「ガシャャャャャャーン! 」





 幸いにも車の直撃を避けた三人だったが、地面に突き刺さるように投げ捨てられた小型トラックの残骸を目の当たりにし、圧倒的恐怖を植え付けられる。





『あんなバケモノ……あと30秒足止め出来るかどうか……』





 絶望の淵に立たされたコーディ。そんな彼の心に追い打ちをかけるかのように、再びBMEは巨体に似合わない大ジャンプを繰り出し、空中から象牙の機銃を放ちながらコーディ達に3人に襲いかかる。





「逃げろッ! 」





 死にたくないという純粋な感情が爆発したニールの叫び声。部隊としての尊厳や覚悟、クジャク部隊達の強固な意志すらも薄いフィルムを剥がすかのように簡単に無きものにしてしまう恐ろしさ。それがBMEという機械兵器だった。





「ズガガガガガガガ! 」





 放り投げられた武器輸送車は機銃掃射により無数の風穴を開け、BMEが駄目押しとばかりにその上に踏みつけるように着地し、凄まじい熱風と激しい大爆発を生じさせた。





 とっさに体を伏せて空襲を避けきったコーディ、ニール隊長、ビルの三人だったが、炎と黒煙を上げる武器輸送車の残骸の上にそびえ立つBMEの姿を目の当たりにし、思わず全員体を震わせた。





『こんな奴に勝てっこない』ビル・ブラッド副隊長でさえそう思ったに違いない。コーディは思わず心で弱音をこぼす。





 今のところわずかな幸いと思えることは、一瞬横目でとらえた武器輸送車の運転席にアリーの姿が無かったことだった。





 立ち上がる炎と黒煙で視界は遮られているが、おそらくアリーは自分たちとは反対側で生きているハズだ。





「アリー! 聞こえるかぁぁ! お前は逃げろ! 後は俺らが何とかする! 」





 声を振り絞るコーディだったが、そんな彼の言葉をあざ笑うかのような不吉な振動を足下から感じ取り、勢いよくトンネルの出口の方へ顔を向けた。





「シャッターが……全部下りてる……? 」








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