3-3 「盾と柔道」

3‐3 「バラストの死闘 盾と柔道」





『諦メロ人間。お前タチがいくら銃を改良シ、作戦を練リ、攻め込んデ来たトコロで、ワレワレは全てソレらを上回る』





 かつて【コブラ】がコーディ・パウエルに言い放ったように、BMEは彼等が想像していたよりも遥かに大きな力を隠し持っていた。





 四足の象型兵器は人間の進化の過程を再現するかのように二足で立ち上がり、その力を誇示するかのようにクジャク部隊の3人を見下ろしていた。





「【コブラ】のヤロウ……八か月も籠ってたのはコイツを作るためだったのかもな」





 手も足も出せずにただただ敵を睨みつけるコーディに対し、BMEは象牙部分を変形させて機銃の銃身を露わにさせた。





「マズイ! 」





 まだ周囲には逃げ遅れた人々がいる! このままでは機銃の乱射で大勢の死人が出てしまう。焦るコーディ。ライフルもヘッドスライディングをした際に落とし、飛来したBMEの下敷きになってしまっていた。





『これはピンチだぜ……』





 しかし、焦るコーディの心を一蹴するように、一筋の残像が目の前を横切ってBMEの足首に火花を散らした。





 その衝撃で二足の巨象はたまらず膝を崩し、機銃による殺戮を直前で阻止された。





「大丈夫? コーディ! 」





 その残像の正体は戦闘に特化した飾り気無いジープを自分の手足のように操る金髪の兵士、アリー・ムーンだった。





「アリー! 助かった! 」





 大胆にもジープでBMEに体当たりを食らわせたアリーはその勢いのままコーディに走りよる。





「乗って! 」





 コーディは幌の外されたジープに飛び込み、窮地を脱出した。





「あのロボット……まさかBMEなの? 」





「そうだ! 一週間で随分とあんよが上手になったみてえだけどな」





「それならもうこれ以上成長させるわけにはいかないね」





 崩した膝を立て直し、BMEが象牙の機銃をジープに向け始めた。それに対しアリーは、敵にジープの助手席側を正面に向けるように展開する。





「コーディ! お願い! 」





「OK! 」





 アリーの一言でコーディは自分の役割を一瞬で理解した。ジープの中に搭載された手持ちの防弾シールドを構えて助手席に立ち、BMEから放たれる機銃の弾丸を受け止め、運転するアリーの盾の役割をこなす。





「住民の避難が終わるまで敵を引き付けるよ! 」





 ジープ内でクジャク部隊の戦闘服に身を包んだアリーは先ほどまで辛い記憶で涙を流していた人物とは違う。数々の戦闘訓練の荒行に耐えた立派な戦士の一人だ。












 BMEの象牙から放たれる弾丸はあくまでも対人に特化した兵器だった。





 その為、防弾仕様の盾を使えばその攻撃はある程度防げた。アリー達が巨象を引き付けている間、湖面近くで倒れていたビル・ブラッドとニール隊長も状況を理解して素早く武器輸送車へと駆け寄る。





「ビル! 直立のクソ象を倒すにはどうすればいいと思う? 」





 ニールが運転席のドアを開けながらビルに問いかけた。





「相手は僕達と同じく二本足……ということは派手に転ばせることが出来ますよ」





「それなら[柔道]が通用するな」





 運転席に乗り込み、エンジンを始動するニール。ビルはコンテナの中から牽引用のワイヤーロープを取り出し、片方の先端をフックで車の後部に取り付ける。





 そして先ほどライフルで破壊した手すりの残骸を拾い上げてもう片方の先端に結び付けた。手すりの残骸はちょうどL字に曲がった鉄パイプのような形になっていて、それを付けたワイヤーロープはまるで巨大な釣り糸と釣り針のようになっていた。





 ビルはコンテナに飛び乗って「バンバン! 」と壁を叩き、運転席のニールに準備完了の合図を送った。





「よっしゃ! これから甘ったれたバカ象にケイコをつけてやるわ! 」





 思いっきりアクセルを踏み込み、アリー達に翻弄されているBMEに向かって行く。アリー達はグルグルと反時計回りにBMEの周囲を旋回している。BMEは周囲を飛び回るハエを潰そうとするかのように機銃を撃ちながらその動きを追っている。





「まったく汚え尻だ! 」





 ニールはアリー達とは対称の位置に車を陣取る。アリー達の位置が時計の6時の位置だとすればニール達は12時の位置をキープしつつ、同じくBMEの周囲を反時計回りに旋回。つまり走りながら巨象の背面をとる形になる。












「やばいぞ! そろそろ盾が悲鳴を上げてきた! 」





 コーディは象牙の機銃を防弾シールド一枚で必死に受け止めていたが、いよいよ限界が来たようだった。





「こんな時にだけど、コーディ! 良いニュースがあるよ! 」





「なんだ? 手短に頼む! 」





「ジーツ君、力を使えるようになったの! 」





「な? ホントか! 」





 思わず戦闘中ということを一瞬忘れて、お菓子を与えられて喜ぶ子供のような表情を作る。





「さっきジープの無線におじいちゃんから連絡があった。『今小僧と一緒にそっちに向かってる! それまで持ちこたえるんじゃ! 』って」





「ジーツの野郎ぉ! 」





 喜びのあまり興奮し、持っていたボロボロの防弾シールドを投げ捨てるコーディ。





「コーディ? 何を! 」





「うおおおおおおお! 」





 鬼の形相と化したコーディは全身全力でジープの助手席ドアを引きはがしてそれを正面に構えた。





「盾はまだ4枚もある! 」












 ニールが操る武器輸送車は蚊取り線香の渦巻きのように螺旋を描いて徐々にBME本体の足元まで近付いていた。





「思い知れよデカブツめ! 」





 クラクションを思いっきり叩き鳴らしてニールは後部コンテナにてワイヤーを構えるビルに合図を送った。





「ビル! 送足払だ! 」





 合図を受け取ったビルはワイヤーをBMEの左の足首に向けて投げつけ、先端に付けたL字の鉄パイプを人工筋肉の隙間に引っかける。





「よし! 」





 巨大な釣り針が引っかかったBMEは、周回する武器輸送車とワイヤーで繋がれ、自身の左足首を支点にして両足首が次々とワイヤーでグルグル巻きにされていく。それはまるで釣竿のリールに糸を巻きつけるかのようだった。





「一本だ! 黒光り野郎! 」





 両足首をワイヤーで巻きつけられて車で引っ張られたBMEはとうとうバランスを崩して前のめりに倒れ込んだ。【バラスト層】内に轟音と衝撃が広がり、押し広げられた空気が逃げ遅れた人々の衣服と髪を揺らした。









「よっしゃあ! 」「やった! 」









 大きな歓声が上がり、アリーとコーディも共に喜びの声を上げる。両足を封じられたことで、眼鏡を失くした近眼人間のようにもがき続けるBMEは、何とか起き上がろうと腕立て伏せの体勢をつくるも、ニール隊長の運転する武器輸送車に絶えず引っ張られている状態なので思うように体を動かせずにいた。





 アリーとコーディはジープから降りて避難者に早く逃げるように促す。敵はただ転んだだけなのだ。まだまだ油断は出来ない。





「気を付けろよ、また機銃を乱射してくるかもしれねぇ」





 コーディが怪力で自作した盾を構えながら倒れたBMEの頭部に近寄る。巨象が再び機銃掃射を行った時に、避難している人々に銃撃が及ばないようにする為だ。





 しばし硬直状態が続いて、住民の避難がほぼ完了した頃、【バラスト層】内メインの出入口である巨大ゲートの奥から、小刻みな振動と共に地面を絶え間なく叩き続ける轟音。そしてポップコーンが次々と弾けるようなせわしない足音がした。その音はだんだんと大きく、アリー達の元に近づいてくる。





「やっと来たのかよ、遅いぜ」





 照明の暗い巨大ゲートのトンネルからゆっくりと【バラスト層】内の照明に照らされて姿を現したのは巨砲を携えた装甲車。そしてそれに従うように群がる30人近くの護衛隊の兵士だった。濃いグリーンの戦闘服に身を包んだ兵士達は、統率の行き届いた動作で全員同時に動きを止めた。





「これがBME? 話とは少し違うヴィジュアルだな、まあよい」





 兵士の先頭に立つ[ラーズ・ヴァンデ大佐]が自慢のカイゼル髭を撫でながら【バラスト層】の状況を確認、把握する。





 そして右手に握られた拡声器を顏の前に掲げ、得意気な口調で声を高らかに上げた。

「クジャク部隊の面々、よくぞ持ちこたえてくれた。あとは我々護衛隊に任せるがいい! もう帰っていいぞ! 」





 車を運転してBMEを立たせないように踏ん張っている最中でこちらからはその姿を見ることが出来ないが、きっとニール隊長はイラついた表情で歯を食いしばっているだろう。とアリーとコーディは心中で呟いた。





「我が誉れ高きアースバウンド護衛隊が誇る重装甲車TKSの巨砲にて、その愚かな機械兵を葬ってみせよう! 準備だ貴様ら! 」





「「「「「Yes sir! 」」」」」





 兵士達はイワシの魚群を思わせる統率された動きでBMEの周囲に散らばって行く。半分の兵士達は用意していたワイヤーロープを象牙の機銃に警戒しながらBMEの手足に縛り付ける作業に没頭し、もう半分の兵士はバズーカのような形の特殊な工具を使い、金属板の床に逆U字のフックを撃ち込んで固定していく。





「まるでガリバー旅行記だわ」





 護衛隊の作業を見守りながらアリーが呟く。





「なんだそりゃ? 」





「古典にそういう物語があるの、巨人をロープで磔にして身動きをとれなくするっていう描写あってね」





 護衛隊がBMEの四肢を縛り付けたワイヤーの先にはカラビナのフックが取り付けられていた。床に打ち付けた逆U字フックにそれを引っかけて固定し、BMEはちょうど膝立ちの状態で身動きが取れない状態になった。





「よしよし、下ごしらえは完了! 皆の衆! 下がれいッ! 」





 軍服が非常によく似合うラーズの掛け声と共に護衛隊の兵士達が駆け足で装甲車より後ろへと非難する。アリーとコーディもそれに続き、役目を終えたニールとビルもBMEとの連結を解いた武器輸送車に乗ってアリー達の元へとゆっくりと合流した。





「ラーズのヤロウ、おいしいところを持っていきやがって」





 当たり前のように悪態をつきながらニールは車から降りる。





 ビルもそれに続いてコンテナから姿を現した。さきほどまで死闘を展開していた緊張感のある空気はもはや薄れ、花火大会が雨天により中止されてしまったような、どこ興ざめした雰囲気すらあった。





「こりゃあジーツの出番は無さそうだな」





「今思えばどっちにしろ無理だったかも……ジーツ君、おじいちゃんに好き勝手されてへとへとだったから」





 コーディ達の会話を聞いたニールが露骨に不機嫌な顔つきで割り込んできた。





「ジーツってもしかしてあのコールドスリープのガキか? 」





「ええ。どうやら能力の使い方が分かったみたいッスよ」





「ヘッ! いざって時に役に立たねえんじゃ話にならねぇ」





 ジーツを目の敵にしているニール隊長に対し、小さくため息をついたコーディの肩にビルがそっと手を置いた。





 彼は「「まあ、しょうがない。気にするな」という心の声が聞こえるような笑顔を作る。





 ニール隊長の目の前でジーツの能力を再び見せることが出来れば彼の力を認めさせることが出来たのに……コーディはジーツの不在を激しく悔やんだ。





「いくぞ! 標的は10m先!」





 ラーズ大佐が【バラスト層】内を見下ろすことが出来る展望塔のてっぺんから拡声器で部下達に指示を送る。流石に強固な装甲を誇るBMEといえど90mmの砲弾を喰らえばひとたまりもないハズだ。





 膝立ち状態でもがき続けていたBMEはもはや死期を悟ったのかのようにピクリとも動かなくなっていた。しかし……





『そういえば! 』





 コーディが突然ある違和感を覚え、心を焦らせる。





『……BMEは何故ダム湖から堤防に這い上がった時こそ必要だった二足歩行の形態をずっと保っていたままだったんだ? 足場がある場所であれば四足の状態に戻った方が安定するし、こうやって転ぶこともなかったのに……何かがおかしい。考えろ! 四足から二足に変わって決定的に変わったこと……』





 コーディは状況を洞察した。BMEの二足形態の本当の狙いを。感じる胸騒ぎの正体を探ろうとした。





「どうしたのコーディ? 」





 険しい表情を作るコーディを案じるアリー。彼は考えを巡らせながらふと彼女に顏を向ける。





 いつものクジャク部隊支給のベストに身を包んでいる彼女だったが、警報を聞いて慌ててていたのか、胸元のジッパーが大きく開きっぱなしだった。そこからは普段着と思われるタンクトップの隙間から二つの膨らみが確認できた。





「ちょっ……! 」





 彼の視線により、アリーは無防備な胸元の状況に気が付き、とっさにジッパーを上げて肌の露出を封印する。





「……胸か……」





「こんな時に何言ってんの! 」





 赤面するアリーをないがしろに、コーディは突然後頭部を鞭で叩かれたような衝撃を感じた。





 ついにBMEの二足歩行の本質に気が付いたのだ。





「ヤバイ! 早く撃て! ヤツもこっちを狙ってる! 」





 コーディは若干緩み始めた空気を引き裂くような声を張り上げる。その声にラーズ大佐を含む護衛隊も驚いた様子だった。





「焦るな! 正確に標準を合わせてだな……」





 ラーズが展望塔から拡声器で声を上げ、コーディを抑えようとしたその瞬間、BMEの胸部が観音扉のように開き、蓮根の切り口を思わせる巨大なガトリングガンの砲身が現れた。





 6つの銃口が束になって円形のシリンダーを作り、その銃口一つ一つの大きさも桁違いの大きさだった。おそらく30mm、いや40mmもの口径の弾丸を無慈悲に連発可能であることは、BMEと対峙する全ての人間が冷や汗と共に推測することが出来た。





「マズイ! 」





 二足歩行になって初めて露わになる部分、それは胸部。コーディはBMEが胸部に何かを隠し備えているのでは? と推測したのだ。





「ウヴォオオオオオオオオ! 」





 BMEの内部の機械が軋み、悲鳴にも似た音を喚き散らす。そしてガトリングガンのシリンダーが急速で回り始め、これから巻き起こす惨劇の序章を演出する。





「撃て! 撃てーッ! 」





 ラーズ大佐の号令も送るも、時すでに遅し。





「伏せろ! 」





 コーディはアリー、ニール、ビルに自分の背後に伏せるように促し、自身はジープの扉で作った盾を掲げて3人をガードする。





「ザヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ! 





 一手先にBMEから放たれた弾丸は、1000人が一斉にハンマーを鉄に叩きつけるような轟音を撒き散らす。飛び散る火花、そして金属片がコーディの盾に何度もぶつかり、絶え間ない轟音を奏で、重装甲車をまるでチーズを削り取るかのような感触で、黒煙の舞う穴だらけの無残なガラクタへと変貌させた。





「貴様ら! 散れ! 散れええええッ! 」





 ラーズ大佐は部下達にBMEから離れるように大声で指示を送る。





 しかし大半の兵士は異常とも言える火力の敵兵器により無残に装甲車と共に命を落とした同胞を目の当たりにしてパニックを起こしていた。そして離れるどころか非常経路より逃走を図る有様だった。





「ヴォグオオオオオオオオ! 」





 再びBMEは雄叫びを上げ、次は無数のワイヤーで繋がれた両手を右へ左へ、上へ下へと大きく振り回して力ずくで引きちぎって束縛を解いてしまった。





「ヤバイよ! あのままじゃ……」





 上半身の拘束を解くと、器用にも両足に縛られたワイヤーをその巨大な機械手でほどき、BMEは再び両足で立ち上がって小さきものを畏怖する巨人となった。





「マジかよ……」





 やっとのことで動きを封じた巨大なる敵はいともたやすく窮地を脱してしまった。そしてゆっくりと歩みを開始させ、巨大ゲートへと向かっていく。





「まずいぞ……このままじゃヤツは……! 」





 巨大ゲートの中は200m程続くトンネルになっている。それをくぐるとその先には【第二居住区】へと続く環状道路に辿り着く。





「【第二居住区】に行っちまうぞ! 」





 一歩、また一歩と【バラスト層】内を響かせながら巨大ゲートへと向かっていくBME。





 敵の目にはもはや護衛隊もクジャク部隊も眼中に無く、その歩みにはほんの少しの迷いも無い。





 巨大な敵が作り出した絶望的状況を目の前にし、誰もがどうして良いのか分からない。





「おおおおい! 貴様らああ! 」





 観測塔の階段を必死に駆け下りて来たラーズ大佐が、アリー達の元へと下品な声をあげながら近寄ってくる。こんな状況でも態度の大きさがうかがえた。





「ハァ、ハァ、クジャク部隊共、頼みがある! 」





「頼み? 時代遅れのダサ髭が! チンタラしたアンタの采配で俺達も蜂の巣にする気か? 」





 ラーズ大佐に敵意をむき出しにすニール隊長。頭に血管だ浮いて見える。





「とにかく聞け!テカリ頭! 作戦があるのだ! 」





 両者の怒りが爆発しかねない状況を抑えるため、ビルがニールの前に立ち、ラーズに話を促す。





「聞かせてください! 時間がない! 」





 間に入ったビルのおかげでほんの少し気持ちを落ち着かせたラーズは、大きく息を吐いて後に作戦を説明し始めた。





「我らがTKSが破壊された今、あの強敵を撃沈することは難しい! そこで私は兵糧攻めを提案する! 」





「兵糧攻めだと? 」





「そうだ! BMEとて永久機関ではなかろう! ヤツに思う存分暴れてもらってバッテリー切れを起こしてもらう! 」





「ですが大佐、ヤツに好き勝手暴れさせたらバッテリー切れを起こす前にアースバウンドが壊滅しかねません! 」





 BMEは重装甲車をものの数秒でガラクタに変えてしまった火力を持っている。その気になれば【バラスト層】を破壊してアースバウンドを転覆させることすら可能ではないかと思えてくるほどだった。





「だからヤツを閉じ込めるのだ! あのゲート内のトンネルには緊急用のシャッターを4つ下ろすことが出来る! それを利用するのだ! 」





 トンネル内には火災や外部から危険因子が侵入した時の為に、強固な作りの防護シャッターを50m間隔に下ろすことが出来る。1番シャッターは【バラスト層】側の出入り口。2番はそこから50m先のトンネル内、さらにそこから50m先に3番シャッター。そして環状道路側の出入口が4番シャッター。という風になっている。





「2番シャッターと3番シャッターの間にBMEを閉じ込めろ! シャッターの強度は重装甲車の砲撃にも耐えられる。ヤツのガトリング砲でも壊す前に弾切れを起こすだろう! 」





「つまり、そこまで僕達クジャク部隊が敵を引き付けるということですか? 」





「その通りだ! 私は【バラスト層】の管理室にてシャッターの操作を行う、お前らはシャッターが下りるまで敵を所定の位置に留めておいてほしい! 」





 ラーズ大佐の作戦はとりあえず合理的には思えた。しかし直接BMEと対峙して攻防を繰り広げたクジャク部隊の面々にとっては、敵の凶悪性にはまだまだ底知れぬ面があるように思え、素直に良策として飲み込むことが出来ずにいた。





「大佐、それよりも、もう一度バラスト湖に落とせないでしょうか? やはりここはヤツを倒すことよりも、捨てることの方を考えた方がいいかと」





 ビルはもう一度バラストの排水と共にBMEを海中に捨てるプランを提案した。





「なんだと? 私のプランに不備があると? 」





 ラーズ大佐はこの期に及んで自らのプライドを優先させて他の案を聞く耳を持ち合わせなかった。





「ウヴォオオオオ! 」





 そうこうしている内にBMEが雄叫びを上げながらトンネル内にとうとう侵入してしまった。時間がない! 





「ヤ、ヤバイ! そういうワケだ、シャッターを下ろす直前にトンネル内の警報を鳴らす! 頼んだぞクジャク部隊! 」





 ラーズ大佐はそう言い残して、瞬く間にその場から走り去ってしまった。残されたクジャク部隊には選択の余地は無い。四人は顔を合わせ、BMEの兵糧攻めを実行に移す。









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