第2章 アースバウンド編
2-0 「僕」
2‐0 「僕」
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僕は少し長い時間を寝ていたみたいだ。生ぬるい水の中を延々とたゆたう感触から目覚めた時、僕の目の前に綺麗な髪の女の子が倒れていた。
その女の子は眼鏡越しに澄んだ緑色の瞳をじっと僕に向けていた。この子と見つめ合っているうちに僕はどういうことか彼女とどこかで会ったことがあるような不思議な既視感を感じた。
一体この女の子は誰なんだろう? 顏中泥だらけ、埃だらけで、今にも泣き出しそうな顔をしている。
この子を安心させたい。そう思った。
僕は女の子の手を握ってあげようとした。でも目覚めたばかりで体が上手く動かせず。ついつい別のモノを触ってしまったようだ。
しまった!
柔らかい感触に思わず鼓動を高めてしまう。ワザとじゃないことを伝えたかったけど、起きたばかりで口がうまく回らない。
そうしているうちに突然サッカーボールのシュートを思い切り受け止めたような強い衝撃が胸に走った。
冷たい感触を全身に感じながら地面を転がってしまった僕は、仰向けになったその目の前に何かは分からないけどとてつもなく巨大な金属の塊が僕を見下ろしていることに気が付いた。何が何なのかさっぱり理解できなかった。けど。
「逃げて! 」
確かにそう聞こえた。女性の声。多分、さっきまで視線を交わしていた眼鏡の女の子の声。
そして僕は何となく分かった。「ああ、僕が見上げるこのデカブツを止めなきゃ、あの女の子は安心出来ないんだ」と。
僕はけだるい体をなんとか起こし、目の前の無機質な塊に向け手をかざし呟く。
「全てを……ゼロに……! 」
体中がしびれ、毛穴からエネルギーを全て吐き出す感覚と同時に、眠りに落ちる直前のような快感が全身を廻った。
目の前の金属の塊はその機能を止め、ガラクタと化した。
何故僕にこんなことが出来るのかは自分にも分らない。苦すぎるコーヒーを口に入れたら考えるより先に吐き出してしまうように、本能的に体が動いてその能力を発動させたようだった。
振り返ると眼鏡の女の子と、アクション映画の主人公みたいに大きい体の男の人が僕を見て口を半開きにさせて驚いていた。
どうしてそんなに驚いているか聞いてみたくなって女の子に近寄ろうとしたけど、そこでやっとその原因が分かった。
自分は何も着ていない全裸の状態だったからだ。
それに気が付いた瞬間、僕は顏に火が灯ったように熱くなり、意識がだんだんと遠のき、逆らえない眠気に一気に襲われた。
再び遠のく意識。地面に引っ張られる体。そしてその片隅で僕の頭に最大の疑問が浮かび上がり、自分で自分にその謎を問いかけることになった。
僕は……誰だ?
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